福島県福島市「ふくしま土壌ネットワーク」
日時:平成27年4月10日(金曜日) 13:00~14:30
会場:コラッセふくしま 5F 小研修室

_フルーツの実り豊かな福島県。中でも県北部の福島市周辺では、桃、リンゴ、ナシ、ブドウ、サクランボ、ブルーベリーなど多彩な果物が栽培され、咲き変わる果樹の花が、甘い香りとともに四季の野辺をのどかに彩る。
_しかし、東日本大震災発生に伴う原発事故による風評被害によって果実の価格は暴落、消費者は離れ、注文は途絶え、“くだもの王国ふくしま”のブランドは、大きく傷ついてしまった。
_「もう福島県の農業はダメなのか」と多くの果樹農家が希望を失いかけた中、立ち上がった人たちがいた。「ふくしま土壌ネットワーク」に集う農業者たちである。
_平成27年4月10日、福島市の「コラッセふくしま」で、「ふくしま土壌ネットワーク」の事業方針発表会が開催され、同ネットワークの取り組む「”桃の力”プロジェクト」に対する「復興応援キリン絆プロジェクト 農業支援」の贈呈式が行われた。

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_2012年2月、市内の若手農業者12人が「ふくしま土壌クラブ」を設立。震災直後から圃場の放射線量マップ作成などの活動に取り組んでいた「福島大学 うつくしまふくしま未来支援センター」と共に放射線量測定、果樹の粗皮削り、高圧洗浄、各種メディアを通じた積極的なPRなどに取り組み、その結果、消費者からの注文も戻り始め、販売量は少しずつ回復してきた。
_そして、同クラブと支援センターは「福島県産果実の本当のおいしさをたくさんの人に届けたい」「そのために福島を代表する桃『あかつき』のブランドを強化しよう」と、2015年2月、活動の枠をさらに広げた「ふくしま土壌ネットワーク」を設立した。県の果実を代表する「桃」のブランド力を強めることで、 “くだもの王国ふくしま”のイメージ向上と農業地の発展を図る「”桃の力”プロジェクト」のスタートである。


_白桃と白鳳の交配種である「あかつき」は、皇室にも献上される優良品種。1962年から福島県を含む桃の生産県で試作が行われたが、ほとんどが小玉だったため多くの地域が栽培をあきらめた。
_しかし福島県だけはあきらめず、改善を重ね、果実肥大の技術を確立。育ての親である福島県の「信夫山三山暁まいり」という祭事にちなんで「あかつき」と名付けられた。
_夜明けを意味する言葉でもある「暁=あかつき」。あきらめない福島の農業の未来を照らす光でもある。





1.ふくしま土壌ネットワーク事業方針発表会
《主催者挨拶》 ふくしま土壌ネットワーク 代表 髙橋賢一 様
髙橋賢一氏_私たちは「ふくしま土壌クラブ」として、放射線の測定、風評被害の払拭などに活動してまいりました。高く評価されていたはずの福島の果物が、震災以降は大きなダメージを受け、私たち農家も、誇りと自信を失いかけていました。しかし多くの方の一致団結と努力で、福島の果物の評価は回復しつつあると感じています。
_今回のプロジェクトが、福島産果物のブランド力アップと、我々の自信と誇りを取り戻す力になることを願っております。
 
《来賓代表ご挨拶》
福島市長 小林 香 様(代読/副市長 安齋睦男 様)
安齋睦男氏_本市は依然、風評被害に苦しめられておりますが、農家の皆様のご協力をいただき、樹体洗浄などの除染を徹底して行い、桃などの安全性は検査などで明らかになっております。市といたしましても、正しい情報を今後も発信してまいります。
_「“桃の力”プロジェクト」は、消費者ニーズの解明、高品質な「あかつき」100パーセントのジュースの開発、絵本をツールとした食育プログラムの開発といった事業を展開し、果樹産地としての再生発展を目指すものです。市もまたアドバイザーを派遣し、プロジェクトの成功に向けて支援をさせていただきます。
 
新ふくしま農業協同組合 代表理事組合長 菅野孝志 様
菅野孝志氏_JAでは “くだもの王国ふくしま”の再生に向けて、さまざまな決意と決断をしてまいりました。これまで培われてきた福島の文化、農業、果樹を、しっかり次世代に残していきたい。そんな思いを世界に向けて発信してきました。
_あの素晴らしい福島の桃「あかつき」が、二束三文の価値にまで下がってしまった2011年。本当に心が折れそうでしたが、我々は今、何をすべきかを常に考えながら、がんばっぺなと、力を合わせてまいりました。
_若い果樹農家たちが、福島のブランド力を再生しようと取り組んでいます。本プロジェクトのスタートは、震災によって分断された生産者と消費者、農村と都市が、もう一度「絆」で結ばれていこうとする出発点でもあります。福島生まれの「あかつき」をベースとして世界に挑む「ふくしま土壌ネットワーク」の思いを、私たちも精一杯応援してまいります。
 
続いて、「ふくしま土壌ネットワーク」の事業計画について、3人の役員が説明に立ちました。
《事業方針説明》
ふくしま土壌ネットワーク 代表 髙橋賢一 様
_私たち福島の果樹農家にとって「あかつき」は桃の王様というべき存在です。この「あかつき」を軸に、福島の果物全体を再評価してもらうキッカケにしたい。そんな思いから事業の名称を「“桃の力”プロジェクト」と名付けました。
_福島の農作物の検査態勢は、今、世界一と言われていますが、それが伝わりきれていません。いろいろなアプローチで顧客の裾野を広げていきます。
_「あかつき」は、糖度、風味、食感のバランスに優れた高品質な桃です。日本中の皆さんに「あかつき」の、福島の果物のおいしさを知っていただきたい。
_「“桃の力”プロジェクト」はモニター調査事業、加工事業、PR・食育事業の3つに分かれます。消費者の実情ニーズを知り、「あかつき」の桃の力を軸としたこだわりの加工品やツールを作って、PRや食育プログラムを展開してブランド強化に取り組み、最終的には “くだもの王国ふくしま”のブランドイメージの向上と、果樹産地発展の実現を目指します。
《モニター調査事業について》
ふくしま土壌ネットワーク 副代表
うつくしまふくしま未来支援センター 特任准教授 小松知未 様
小松知未氏_モニター調査事業では、消費者とバイヤーの方を対象に、福島県産桃のイメージを多角的に調査し、分析・把握します。加工品だけでなく生食についてもデータを集め、商品開発や販売戦略に役立てたいと考えます。
_設問は、私ども福島大学、国の農研機構、県内のハイテクプラザなどさまざまな専門家にご協力をいただいて設定し、年度末の成果報告で、果樹農家、農協など集荷団体、行政など、それぞれの立場から今後の戦略を考える上で有用となるデータを提供することが目標です。
_具体的には、桃の旬の時期に県外の方に来ていただき、現場での意見を伺う「モニターツアー」、消費者の方から果実や加工品について評価をいただく「グループインタビュー」、全国を対象として顧客の求める情報を確認する「顧客意識アンケート」、そして「インターネットリサーチ」など。多様な手法を企画しています。
 
《加工品開発事業とPR・食育事業について》
ふくしま土壌ネットワーク 副代表 橘内義知 様
橘内義知氏_「あかつき」は、桃の中では販売期間が比較的長い商品ですが、もっと多くの方に「あかつき」を知っていただくためには、加工品も重要です。
_加工品は県下の温泉旅館などでお土産として選んでいただけるものを目指します。例えば「あかつき」5個分を使ったジュースなど。県外の方の客観的なご意見や知見を商品に反映させていきたいと思っています。
_次にPR・食育事業についてです。今夏は我々生産者が消費者の元へ出向き、桃のおいしさや魅力について、産地の情景なども交えながら紹介させていただきます。専門的な知識を持った方ともタッグを組み、さまざまな媒体を使って多角的にPRしてまいります。
_また、産地・福島や桃の魅力を知ってもらえる絵本を制作し、読んでいただく親子に福島の風景や自然の美しさ・恵み、農業者の思いを伝えたいと思います。花を育てる、食べる人を育てる、ブランドを育てる。それが目標です。
_本プロジェクトの意義は、地元の協働、地元と共に歩んでいくこと。我々だけのプロジェクトではなく、地域の皆様と情報を共有しながら進めてまいります。
2.「復興応援 キリン絆プロジェクト 農業支援」贈呈式
《主催者挨拶》
キリンビールマーケティング株式会社 福島支社長 椎屋直孝
椎屋直孝氏_本日「ふくしま土壌ネットワーク」様に支援をさせていただくこととなり、うれしく思います。2013年と2014年には福島県産の和梨を使った「キリン氷結 和梨」を、そして今年3月3日の桃の節句には、同じく福島県産の桃を使いました「キリン氷結 福島産桃」を発売させていただきました。皆様が大切に育てた桃のおいしさが全国の皆様に伝わる機会となりましたこと、重ねてうれしく思います。風評被害を払拭するためには、やはりおいしさを伝えていくことが大事と考えます。
_これからもまた、福島産の農産物は安心で安全でおいしいというPRに、キリングループも微力ながらお手伝いさせていただきます。
 
公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長 髙橋陽子
高橋陽子_福島の誇りと自信を取り戻すのだというお話を伺いましたが、この「“桃の力”プロジェクト」を通しまして、皆様の誇りと自信を日本中に伝え、同時に日本人の誇りと自信をも取り戻す原動力になっていただきたいと願っております。
_また、大人たちがそれぞれの立場で懸命に働くことで、次の世代の自信と誇りと幸せになっていくのだと思いました。この素晴らしい活動は、何をするかと同時に、誰とするのかも重要です。このプロジェクトが大きく、おいしく、幸せなネットワークとなって広がってまいりますよう、お祈り申し上げます。
《贈呈式内容説明》
キリン株式会社 CSV推進部 絆づくり推進室 室長 野田哲也
野田哲也氏_今回の助成は、震災によって大きな被害を受けた福島市で、桃など果樹生産物や加工品のブランド育成と6次産業化による販路拡大を図る目的で、「ふくしま土壌ネットワーク」の「“桃の力”プロジェクト――福島には本当のおいしさがある――」に対するものです。助成金は、本プロジェクトでの県産桃のブランディング活動、加工品の新商品開発、食育、情報発信などに活用されます。
 
《目録贈呈》
受け手_ふくしま土壌ネットワーク 代表 髙橋賢一 様

贈り手_キリンビールマーケティング株式会社 福島支社長 椎屋直孝
贈り手_公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長 髙橋陽子
《受贈者代表挨拶》
ふくしま土壌ネットワーク 代表 髙橋賢一 様
_大きなご支援をいただきましてありがとうございます。キリンの関係者の皆様にあらためてお礼を申し上げます。

先輩たちがつくってきた福島の果樹産地が、もう一度大きく発展して、盛り上がっていけるよう、モニター調査、加工品開発、PR・食貴の各事業を継続していき、未来へ残せるものにしていきたいと思っております。
《激励のご挨拶》
福島県 県北農林事務所 農業振興普及部長 渡邊史夫 様
渡邊史夫氏_福島県を代表する桃「あかつき」のブランド強化に向けた活動が、“くだもの王国ふくしま”のブランドイメージ向上と果樹産地の発展に資するものと大いに期待しております。
_県では、平成27年度を、現場が直面する課題にスピード感を持って挑戦し、復興の取り組みを新たなステージで進める年と位置づけております。
_「福島からチャレンジを始めよう」を合い言葉に、農林水産業の再生に全力で取り組み、実り豊かで活力ある新生福島を造り上げてまいります。
 
キリン株式会社 CSV推進部 執行役員 CSV推進部長 林田昌也
林田昌也氏_復興はまだ半ばですが、今日に至るまでの福島の皆様のご努力に敬意を表します。
_皆様がご先祖や諸先輩方から受け継いで来られたおいしさやプライドが傷つけられたところから、もう一度立ち上がろうとするその根源の力が 「“桃の力”プロジェクト」であり、「福島には本当のおいしさがある」という言葉に込められた皆様の思いなのだと感じております。
_商品のイメージ、企業としてのトータルなブランドイメージは、おいしいとか売れているといった事実だけによってつくられるものではありません。今の時代は、商品の魅力プラス作り手側の魅力や、何をお客様にお伝えしたいかといった事柄が重要になってきています。
_「福島には本当のおいしさがある」という皆様の思いが、商品の、そして福島県そのものの魅力化に繋がっていくものと期待します。
 
《インタビュー点描》
ふくしま土壌ネットワーク 代表 髙橋賢一 様
髙橋賢一氏_私たち福島市の果樹農家は、震災前からJAや市場への出荷はもちろん、ネット販売、贈答用の宅配、カタログ販売、もぎ取り体験など観光と組み合わせた果樹経営を行うなど、栽培にも販売にも力を入れてきました。
_でも震災と原発事故の影響で、主力商品である「あかつき」の値段は7分の1にまで下がり、贈答用の注文も半減しました。
_とにかく自分たちでやれることをやってみようと始めたのが「土壌クラブ」です。風評被害の払拭、モニター調査、大学との協力、生協との協力などを続けてまいりました。
_これを一歩進めて、「ふくしま土壌ネットワーク」では、福島大学や、産地ブランドづくりに協力してもらえる方々、生産者以外のさまざまな方々の協力を得て、連携を図りながら活動していきます。
_加工についても、プロの方のアドバイス、モニターチェックなどを通じた消費者の意見なども取り入れ、「福島の加工品といえば、これ」といえるようなものを創っていきたいと考えます。
_震災の前は、こうしたことを考える必要もないほど福島の果物はブランド力がありました。あらためてブランド力を強化し、福島の果物のおいしさを再認識してもらえるよう努めてまいります。
ふくしま土壌ネットワーク副代表 橘内義知 様
橘内義知氏_私の家は代々農家で、果樹栽培を始めたのは祖父の代からです。現在は桃が主力で、他にサクランボ、ナシ、リンゴなどを育てています。福島市はそうした複合型の果樹農家が多い地域です。
_お客様の声は「福島といえばやっぱり桃だよね」という声が圧倒的。小さい頃からお客様が「おいしいね」って言ってくださるのを聞いて、「そうか、うちの桃はおいしんだ」と自信にもなりました。農家を継ごうと思ったのも桃があったからですし、それが福島への思いに変わっていったのだと感じています。
_学校を卒業後、神奈川の青果市場に就職し、各地の桃と出合いました。神奈川は、桃の一大産地である山梨の隣ということもあって、残念ながら福島産は目立っていませんでした。「あかつき」はナイフで皮をむくほど歯ごたえのある桃で、手でむける白桃とはやっぱり違う。歴史がある種類だけど、PRはできていないなと感じました。
_今回のプロジェクトでは、モニター調査の結果なども反映させながら、「あかつき」の新しい魅力を発信したい。ジュースをつくる予定ではいますが、まったく違うものになる可能性も捨てていません。夏までにはしっかり方向を定める予定です。
_「あかつきはおいしい」という絶対の自信があります。そのおいしさを、多くの人にしっかりと伝えていきたいですね。
 

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