連載コラム/富裕層「あ・い・う・え・お」の法則
第15回
先日、母校東京大学からの要請で、大学への寄付金を募る富裕層マーケティングについて学内でお話してきました。今や大学運営に関しては、寄付金およびその運用益による利益を経営の最重要課題のひとつとすることには議論の余地は全くないようです。たとえばハーバード大学にいたっては数兆円の運用資産があり、毎年数千億円の運用益をどのように配分すれば世界の最高学府のポジションを維持し、また、世界中の優秀な人材により魅力的な環境を提供することができるか、など会社経営とほとんど変わらない自立自尊の精神が根付いています。遅ればせな がら東京大学もそのような活動に着手した、ということで私も全力で協力体制に入りました。
さて、東大での話の中に、「なるほど、これを改善していかなければ継続的なあるいは体系的な寄付金募集活動などできるわけはないな」と感じた点がありました。それは卒業生とのリレーション強化というごく当たり前の視点です。東大には約20万人の卒業生がいるらしいのですが、そのうち現在連絡がとれるのが約半分の10万人だとのこと。むしろよくできているほうなのかもしれませんが、この連載でテーマにしている「縁」を大切にすることでさらに改善できるはず・・というのが私の持論です。
卒業生の所在を1年1年把握しておく。本来はとても簡単なことのはずです。ところが実際にはこれがおろそかになっている。それゆえ大学運営に欠かせない寄付金募集が思うように進まない。まさに「あ・い・う・え・お」の欠如であるのではないか、と。もっとも簡単にできるはずのことをやらずに、より難しいことになぜか集中してしまう・・実際のビジネスでもよく起こりうることですね。
フィランソロピー活動についても同じことが言えると思います。善意を表現することを本質的に好まない方々もいるにはいるのでしょうが、むしろそのような方々は少ないのではないかと思います。けれども寄付金をいただくターゲットが誰でもよいと考えるのではなく、自分の隣にいる人、自分が過去に会った事のある人、などもっとも自分に近いところから考え始めることができればいいのではないかと思うんですね。それがフィランソロピー活動における「あ・い・う・え・お」のはずです。要するに「誰でもできる」はずなのです。
5年前に会社を立ち上げる際にとある著名な経営者の方にこのようなことを言われました。「まず自分が今すぐにお金をかけずにできることを1年間やってみなさい。その中でうまくいくことだけを選んで継続しなさい。それが自分の形になるはずだから」
数学でなく算数、いや、掛け算でなく足し算くらいのことから始めるのがいいんでしょうね。難しいことでなく、誰でもできることを継続する。フィランソロピーの原点はここにあるはずです。「あ・い・う・え・お」なのです。