連載コラム/富裕層「あ・い・う・え・お」の法則
第29回
先日、日本フィランソロピー協会のイベントに参加してきました。前回ご紹介させていただいた、沖縄の横濱学院の成竹代表理事も、参加されていた多士済々の顔ぶれに驚いていました。フィランソロピーなる概念は根本的には理解できたとしても、実行レベルを継続することが意外と難しいものです。資生堂の元社長、弦間氏が数年前の雑誌で大変示唆に富む発言をしています。いわく、滅私奉公の精神というよりも奉私奉公の精神で継続することが重要だと。時代にあった考え方であるとともに、私もこの意見には大賛成です。自分に最適な形で、場合によっ てはビジネスの一部としてフィランソロピーをとらえ直すことは、21世紀型のフィランソロピーを議論していく上で必要不可欠なテーマだと思います。
そのように考えていくと、フィ ランソロピーを進めていく際に戦術 的に大切な要素の一つとして、リーダーシップのあり方がクローズアッ プされてきます。最近友人が、なん でもかんでも自分でやってしまう 病、という本を出版しました。書か れていることの大きなテーマは、任 せる技術、なるもの。 リーダーシップの本質も同様で、 この「任せる技術」に長けているか 否かがポイントになることが多いも のです。ビジネスの世界同様に、 フィランソロピー活動にも大きく求 められる素質でしょう。特に会社の 規模が大きくなればなるほど、具体 的なひとつひとつのフィランソロ ピー活動を、「振る」のではなく「任 せる」ことができるかどうかは、そ の成否に大きく関わってくることに なると思います。端的に言ってしま えば、前者は「丸投げ」後者は「指 示をする」ということになるでしょ うか。
実はリーダーシップの本質とい うのは、この指示する側と指示され る側の信頼関係に基づくものなんで すね。指示する側が、物事の本質を 理解した上で、指示される側に任せ てみる。本当は自分でやったほうが うまくいくことの方が多いでしょう が、多少の行き違いや失敗に寛容に なって任せてみる。とても勇気がい ることなんですね、これ。プロジェ クトの成否には運もある、と言われ る最たる理由のひとつにもなってい ると思います。
このように言ってしまうと、リー ダーシップなる概念がとても難しく 感じる向きもあるでしょう。実際の ビジネスの現場でもリーダーがすべ てを理解して指示を出しているかと いうともちろんそんなことはありま せん。しかし、本質的なことは理解 しているんですね。その理解に基づ いて指示を出す。指示された側は、 10 の指示を100で返すように努力 する。強い組織、継続する事業には この相関関係が常に存在します。い わゆる丸投げ型は信頼を失います し、指示待ち型の部下に、できる上 司は指示なんて出しません。自ら突 破できる意思のありやなしやを見て いるのです。強いフィランソロピー 活動にも必要なリーダーシップ。そ の根本には、本質を理解する力があ りますし、本質とはすなわち「あ・ い・う・え・お」レベルの話という ことができるんですね。本質とは常 にそのくらい単純なものなのです。