連載コラム/富裕層「あ・い・う・え・お」の法則
第30回
「第一印象がその後の関係に大きく影響する」。皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。最初の印象がその後にまで影響を及ぼすことを心理学では「初頭効果」といい、ビジネスシーンで効果的に活用されている方もいるといいます。私自身、営業や店員の印象がよかったから商品やサービスを購入したという経験は数多くあります。とりわけ芸能界においてはその後の活躍を大きく左右してしまうほど、第一印象は重要な要素になっているようです。
第一印象について改めて考えるようになったのは、メンタリストとして活躍されているDaigoさんの引退報道がきっかけでした。引退といっても、もちろんメンタリストとしての活動を辞めて一般社会に戻るということではありません。Daigoさんといえば、華麗なスプーン曲げや、相手が選んだものや描いたものを鮮やかに見抜くパフォーマンスで有名です。腕を前に出すメンタリズムの決めポーズが頭に浮かぶという人も多いでしょう。そして、誰もが「パフォーマーとしてのDaigoが本来のDaigoである」と信じて疑わなかったと思います。まさにそれが世間におけるDaigoさんの第一印象そのものでした。
しかし実際彼が目指していたことは「メンタリズムをコミュニケーションツールとして、ビジネスや日常生活に活かす方法を提案していきたい」ということ。パフォーマンスを嫌々やっていたわけではないと思いますが、彼がメンタリズムを通して本当にやりたかったことは、私たちがテレビで見ていた派手なパフォーマンスではなかったのです。そして現在は、PR・マーケティング手法としてメンタリズムを活用したコンサルティングやセミナー、企業のビジネスパートナーとしての活動をメインで行っています。
それでも、パフォーマーとしての強烈な第一印象が簡単に消えるわけではありません。雑誌の写真撮影で求められるのは、今でもあの決めポーズだと言います。
本当に目指していることと現実との間でジレンマを感じているDaigoさんを見ていて思うのは、第一印象という固定された概念だけで相手を決めつけるのではなく、今目の前にある姿や思いを受け入れることが大切だということです。現実にはそう簡単にいかないかもしれません。それでも、一人ひとりが少しずつでも意識して相手を受け入れようとすれば、世界は変わっていくはずです。そこに必要なのは、一人ひとりのほんのわずかな「フィランソロピーの心」だけなのではないでしょうか。
フィランソロピーにおける「あ・い・う・え・お」というのは現実を現時点で直視する心、とも言えそうですね。もっともこれが意外と難しいものであることはおわかりいただけるでしょうけれど。右も左もソーシャルといえば通用してしまうような世の中だからこそ、現実を直視したいものです。