連載コラム/富裕層「あ・い・う・え・お」の法則
第31回
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「広告宣伝に対する消費者の心理プロセス」として「AIDMA」の法則が1920年代に確立されています。Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求) → Memory(記憶)→ Action(行動)の頭文字を取ったもので、消費者が商品を知ってから購入するまでのプロセスモデルとして、マーケティング手法を考えるときなどに利用されてきました。その後、ネット通販やブログが普及すると、電通などが提唱した新しいプロセスモデルAISASが利用されるようになりました。最初の二つは同じで、その後Search(検索)→ Action(行動)→ Share(共有)と続きます。
このように、マーケティングにおける消費プロセスモデルは時代とともに常に変化し続けています。Facebook や Twitter が普及した現在では、「SIPS」という新たなモデルが提唱され、そのプロセスもSympathize(共感)→ Identify(確認)→ Participate(参加)→ Share(共有)と、もはや Attention(注意)ではなく共感から始まるとされています。
最近では寄付の世界にも似たようなものが出てきています。市民活動センター神戸が行っている、その名も「共感寄付」。プロセスも「SIPS」に非常によく似ています。共感→寄付→共有。仕組みも実に今のネット社会にマッチしています。一言でいってしまえば、就職サイトのようなマッチングシステム。市民活動センター神戸が信頼できる活動を紹介し、その活動に共感した人たちが寄付をします。集まった寄付金は助成金などとして団体の活動支援に当てられ、活動の進捗が寄付をした人々に報告されます。一般的な募金との大きな違いがまさにここにあります。たとえば、一般的な寄付の場合、通常寄付をしたお金が実際にどのようなことに使われているのか意外と分かりません。なかなか寄付の輪が広がっていきにくい環境を作っている一因です。
では「共感寄付」の場合はどうでしょう。自分が寄付をしたお金がどんなことに使われて、どんな人たちの役に立ったのかを知ることで、単なる寄付をした者としてではなく、その活動の当事者としての意識が芽生えることもあるでしょう。当然、そうなれば自分が行っている活動をもっと多くの人に知ってもらいたいと思うものです。
ここに日本における新しい寄付の形が見えてきます。タイガーマスク運動にみられるように、日本では密かに慈善活動をすることが美徳であるという文化があり、なかなか寄付文化が発展しにくいという声もあります。しかし、この「共感寄付」のように寄付者ではなく当事者としての意識が芽生えるような仕組みが広がっていくことで、日本の寄付文化も一歩前に進むのではな いでしょうか。当事者になること。まさに「あ・い・う・え・お」の実践の第一歩のはずです。