巻頭インタビュー

Date of Issue:2021.6.1
巻頭インタビュー1/2021年6月号
たきざわ・しゅういち
 
1976年東京都生まれ。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。
「THE MANZAI」2012年、2014年認定漫才師。2012年、定収入を得るため、お笑い芸人を続けながらゴミ清掃員の仕事を始める。ゴミ収集中の体験や気づきを発信したツイッターが人気を集める。著書に「このゴミは収集できません」(白夜書房)、「ゴミ清掃員の日常」(講談社)、「リアルでゆかいなごみ辞典」(大和書房)、「ごみ育」(太田出版)ほか多数。
2020年10月に環境省の「サステナビリティ広報大使」に就任。
ゴミを通して、社会が見える。
ゴミ清掃員を8年間続けてわかったこと
お笑い芸人/ゴミ清掃員
滝沢 秀一 さん
お笑い芸人の仕事を続けながらゴミ収集会社に就職し、ゴミ清掃員の仕事を始めて約8年。マシンガンズの滝沢秀一さんは都内各地でさまざまなゴミに遭遇し、その壮絶さ、あり得ないほど「もったいない」光景に驚愕し続けている。日本の最終処分場は、約20年で埋め尽くされてしまうという厳しい現実を踏まえ、著書や講演などでゴミ減量への提言を続けている滝沢秀一さんにお話を聞いた。
ゴミ回収の現場で人の心が見える
― 22歳でマシンガンズを結成。お笑い芸人を続けていた滝沢さんが、36歳でゴミ清掃員の仕事を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。
滝沢 子どもができて、定収入が必要になったんです。お笑いの仕事は続けたかったので、お笑いを続けながらできるバイトを探したのですが、すでに36歳という年齢もあり、なかなか雇ってもらえない。9社に断られて、最後は友だちの口利きでゴミ清掃員の職にありつきました。お笑いも続けられるので、ラッキーだと思いました。
― とはいえ、ゴミ収集の仕事はなかなか大変でしょう。
滝沢 そうですね。結構、ハードワークなんですよ。回収しながら走るので、夏はとくにきつい。毎年、熱中症で倒れる仲間がでます。冬場、雪が降ると大変ですしね。ゴミが入ったビニール袋が見えなくなって、手で雪をかいてゴミ袋を探すんです。もう手指が冷たいどころではないですよ。最初の頃は、お笑いだけでご飯食べたいのに、いつまでこれをやるんだろうという気持ちでした。
それに、この社会には差別みたいなことも本当にあるんだなと感じます。僕自身、職業に上下はなくて、役割分担だと思っていますが、中にはゴミ清掃員に差別意識を持つ人もいます。
たとえばあるおじいさんが、隣の家のおばあさんが出そうとしていた不燃ゴミの袋を奪って僕たちの前にポンと投げて「『ゴミ屋』に取らせりゃいいんだよ」などと言う。おばあさんに格好つけたかったのかどうか知りませんが、こういうことは結構あるんですよ。芸人をやっているだけでは見えなかったことが、世の中にはいっぱいあるんですね。
― 確かにゴミ回収の現場だからこそ人の心が見えてくる。なかなかディープな社会勉強なのですね。
滝沢 ただ、僕がこの仕事を始めた頃から比べると、時代の変化はあります。コロナの問題がでてきて、それがゴミと結びついたとき、「このゴミが回収されなかったらどうなるのだろう」とみんなが思ったのでしょうね。感染が広まっている中でもゴミを回収してくれるんだなと。感謝されることが増えたんです。
― ゴミが自分ごとになってきたと。
滝沢 8年間、ゴミ清掃員をしていて感じたのは、日常は当たり前にあるものではなく、誰かが一生懸命に作っているということです。1日働いた帰り道、僕らが回収を終えた町を見ると、ちゃんときれいになっていて、よくやったな、こうやって日常が保たれているんだなと思うんです。
所有者がゴミだと思えばどんなものもゴミになる
― 日本は「もったいない」のお国柄のはずですが、現実問題、ゴミはなかなか減らないですね。
滝沢 回収をしていると、本当に驚愕するような経験をします。大量のイチゴを清掃車に入れて、回転板でつぶしたときはすごかった! 真っ赤な果汁がドバドバッと大量に現れて、甘酸っぱい匂いでいっぱいですよ。新米の季節に なると、古米を捨てる人もたくさんいます。備蓄用なのかレトルトカレーが30、40袋出ているのも見たし、クリスマスが終われば、少しだけ食べた形跡のあるホールケーキ。あらゆる贈答品も見たし、段ボールいっぱいのじゃが芋が捨てられていたこともあります。
― うーん。言葉が出ません。食品以外のゴミも多そうですね。
滝沢 100円ショップで売っているような食器が大量に捨てられていることも多いです。ファストファッションの服が新品同様のまま、束で出されていることも多い。
僕は東京都内のいろんな場所に回収に行くのですが、お金持ちが住んでいる地域では、こういうゴミは出ません。たまには高級ワインが入っていたであろう木箱なんかが出てきますが、生活ゴミが極端に少ないんですよ。お金があるから、よいものを選んで買い、それを大切に使うから、捨てるものが少ないのではないかと思います。
― お金持ちには簡単にはなれませんが、ゴミの出し方を見習うことはできそうですね。
滝沢 若い世代はだいぶ変わってきているような気がします。ものに対する執着がないし、物を持たない美学を持っています。僕も最近、洋服をレンタルにしたんです。洋服は財産にならないです。高価だったものも売ると安くなるし、そもそも売る作業が面倒くさいから捨てるしかない。レンタルなら送り返せば、また違うものを送ってくれるので、あとは着るだけで楽ですよ。もう服に対する所有欲はないですね。
― 年配の人などは、なかなかそこまで割り切れないかもしれません。
滝沢 おそらく昔の成功体験が染みついているのかもしれませんが、大量生産大量消費が日本を支えていると信じている人が、いまだに一定数いるんですね。芸人の仕事で、ゴミ屋敷のような場所にロケで行ったとき、住人の方に「物を持っていること自体が豊かなことなんだ」とはっきり言われたことがあります。

『ごみ清掃芸人は見た!
 リアルでゆかいなごみ事典』
出版社:大和書房
出版日:2020.12.18
ISBN:978-4-479-39357-3
サイズ:四六判・232ページ
定価:1,540円

『やっぱり、
 このゴミは収集できません』
出版社:白夜書房
出版日:2020.9.10
ISBN:978-4-86494-282-9
サイズ:四六判・192ページ
定価:1,430円
― マインドセットが高度成長時代のままなんですね。
滝沢 物がなくて貧しかった時代を生きてきたからかもしれません。僕たちから見たらゴミ屋敷ですが、住人は「この中にゴミは1個もない」ときっぱりしています。
その一方で、半分食べた焼きそばがそのまま集積所に捨てられているのに遭遇したこともあります。普通に食べられそうな焼きそばですが、出した人にしたらゴミ。ゴミとして売られているものはひとつもありませんが、すべてのものは、所有者がゴミだと思った瞬間にゴミになります。キレイとか汚いの問題ではないんですね。
― まさにゴミというのは、心の問題なのかもしれません。
滝沢 最近の僕のマイブームは、不要品を「どうぞご自由にお持ちください」と書いて、家の前に置いておくことです。そのとき、ちょっと長めに文章を書いておくと、けっこうみんなが持って行ってくれます。
うちではカブトムシを飼っていて、虫かごが13個もあったんです。飼いきれなくなって、20匹のカブトムシは全部人に譲ったのですが、虫かごが余った。それで「100円ショップで虫かごが売り出される季節になりまた。この虫かごでお子 さんと虫捕りにでも行きませんか?」みたいなことを書いて置いておいたら、12個なくなりました。日本酒の酒器も使わないのがあったので「これで日本酒でも飲んでみませんか」と書いて出したら、全部なくなりました。不要品でも思いを込めて、どうぞ皆さん、持っていってくださいとメッセージすると、意外ともらってくれるんですね。
― 人の想いやストーリーを伝えることが大事なんですね。さすが、芸人さん、人の心のツボを押さえてます。
ゴミ処理費用は年間2兆円も!
― 「日本の最終処分場は、あと20年で埋め尽くされてしまう」と滝沢さんは著書に書いておられますね。知らない情報だったので驚きました。
滝沢 ゴミ清掃員をすると、世の中のしくみのようなものが見えてくるんです。処分場のことも一般にはあまり知られていないので、いろんな人に伝えたほうがいいと思います。とくにフードロスはものすごいです。食べられるのに捨てられている食品が年間約600万トンもある。世界中で飢餓に苦しむ人への食糧援助が約420万トンで、その1.4倍もの食品がゴミになっています。
― コンビニの棚に置いてある食品も、一定の時間が過ぎたら捨てられていますね。
滝沢 以前、ある番組でフードバンクを運営している福祉団体を取材したことがあるんですが、賞味期限がまだ5日くらい残っている未開封のパンが、大量に食品ロスとして持ち込まれているんです。理由を聞いたら、見込み発注のパンだというんですね。注文を見越して作っておいて、実際に注文がなければ捨ててしまうんです。なんでそんな無駄なことをするのかというと、万が一欠品してしまうと、お客さんからクレームが来るからだそうです。ないならないで、ほかのものを食べてくれって言いたいですよ。
― 余って捨てるより、品不足のほうが罪が深いという理屈ですね。生活の場面が切り取られていて、モノの道理が実感できないのでしょう。食品製造の構造から考えないといけないですね。
滝沢 食品ロスの約半分は家庭から排出されていて、ここも大きな問題です。生活ゴミの約40%は生ゴミで、その40%はまだ食べられるのに捨てられている食品だという調査結果もあります。その金額が年間6万円(1世帯)くらいになるそうですから、節約したいですよね。
― 買っても食べずに捨てたら、その分のお金も捨てたことになりますね。そもそもゴミ処理費用もバカにならないですから、あらゆるところで無駄なお金がかかっています。
滝沢 ゴミ処理費用は、人件費なども含めて年間2兆円かかっているんですよ。ゴミ処理にはこれだけの金額がかかることを、まず知ってもらうことが大事だと思います。その上、ゴミは回収して処理するだけでなく、維持する費用が膨大です。
― ゴミの維持って何ですか?
滝沢 最終処分場に雨が降るとゴミから化学物質などを含んだ毒性のある水が出てきて、そのまま下水に流せない。これを浄化するために東京都だけで年間25億円かかるんです。ゴミが増えれば増えるほど、この金額が増える。そういうことを知っている人はほとんどいないと思います。燃えるゴミ、不燃ゴミは赤字でしかない。ペットボトル、ビン、缶、段ボールなどを分別して出して、少しでも財源を賄うということが大事です。
リスペクトしながら思いやりを持って暮らす
― ゴミを減らすために、滝沢さんは4Rを提唱されています。
滝沢 ゴミ清掃業界では以前から3Rを提唱していて、リデュース(Reduce/減らす)、リユース(Reuse/再利用する)、リサイクル(Recycle/再循環させる)の頭文字を取って3Rです。僕はここにもうひとつRを付け加えたいと思っています。4つ目のRはリスペクト(Respect/敬う)です。
たとえばゴミの出し方でも、ゴミ清掃員の安全を考える。不燃ゴミの袋に包丁がそのまま入っていたりすると、本当に危険なんです。
― 滝沢さんがゴミの回収に来てくれると思うと、いい加減な出し方はできません。
滝沢 芸人友だちも、滝沢が回収しているかもしれないからと、みんなきちんと分別をしてくれるようになりました。
ゴミは、バトンだと思ってくれるといいんですね。こんなヘンなバトンの渡し方をしたら、清掃員が受け取りにくいだろうと想像してもらえたらありがたいです。
― 実は、ゴミの旅は、ごみを出す人が、回収する人にバトンを渡してチームで行なう作業なのですね。
滝沢 それから製造過程に関わる人のことを想像してリスペクトするのも大事です。苦労して食べ物を作った人、加工した人、料理した人のことを考えると、食べ物を簡単にゴミにできないですね。
― 確かに、知人などから大切に作った野菜をもらったら、無駄にしないように食べますよね。
滝沢 見えないものに対して想像をめぐらせて、思いやりを持つことが大切かもしれません。
― 当協会では、企業の従業員ボランティア・マッチングのサポートをしています。なんのために社員がボランティア活動をするのかというと、現場でいろんな人に出会い、さまざまな社会状況があることに気がつくと、想像する力、見えないものを見ようとする力が豊かになるんです。
ゴミ問題についても、実際に学ぶ場があるといいですね。たとえば学校のカリキュラムに入れるとか。
滝沢 いいですね。「ゴミ育」は必要だと思います。ゴミは地域によって出し方が違うので、そういうルールを教えるのもいいし、ゴミ回収の現場を見るのもいい。生きていく営みの中で、消費をするだけでなく、最後はどうやって処理するのかという勉強は必要だと思います。でも今、学校教育ではそういう勉強はしていないですね。
義務教育の中で子どもたちがゴミ清掃員の仕事を一度でもすると、本当にいろんなことを感じるはずです。ゴミ清掃の仕事がこれだけ大変なんだということがわかったら、きっと人生にいい影響を与えますよ。また地域の人たちも子どもが回収していることを知ったら、おかしな出し方はしなくなるでしょう。
― 「ゴミ育」ですね。いいアイデアをいただきました。ゴミを通して、社会の仕組み、人の弱さ、人のつながりなど、いろいろ学び、反省しました。滝沢さんの本を読ませていただき、ゴミを丁寧に扱い、清掃員の方に、意識的にご挨拶するようになりました。まずは、私への「ゴミ育」成功ですよ(笑)。
本日はありがとうございました。
【インタビュー】
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長 髙橋陽子
 
(2021年5月7日太田プロダクションにて)
機関誌『フィランソロピー』巻頭インタビュー2021年6月号 おわり