巻頭インタビュー

Date of Issue:2019.8.1
<プロフィール>
毛受敏浩さん
 
めんじゅ・としひろ
公益財団法人日本国際交流センター執行理事。兵庫県庁で10年間の勤務の後、1988年より同センターに勤務。草の根の国際交流、移民問題を中心に幅広い分野を担当。慶應義塾大学、静岡文芸大学で非常勤講師を歴任。内閣官房地域魅力創造有識者会議委員、新宿区多文化共生まちづくり会議会長などを務める。
巻頭インタビュー/No.393
人口減少は止まらない 移民が日本を豊かにする
公益財団法人日本国際交流センター 執行理事
毛受 敏浩 さん
人口減少が深刻化し、中小企業の労働力不足が喫緊の課題である今、外国人受け入れ政策の必要性を一貫して提唱し、多文化共生を推進してきた公益財団法人日本国際交流センター執行理事 毛受敏浩氏に話を聞いた。
建て前は「移民政策ではない」という大きな政策変更
― ようやく政府が動いたという感じですが、移民政策とは言っていませんね。
毛受敏浩さん(以下敬称略) なぜ政府が移民政策と言わないかというと、理由はふたつあると思います。ひとつは、国民のなかで、移民イコール犯罪者予備軍というイメージを、一部の人が言い続けてきました。それが効果的に広がり、一般市民は外国人が増えると治安が悪くなると信じていました。実際は2005年が外国人犯罪のピークでそれ以降、減少しています。
もうひとつは、自民党で安倍首相を支持する右派のなかに、この問題について非常にセンシティブな人たちがいます。その人たちに納得してもらうためには、移民政策とは正面から言いにくい。そこで移民政策ではないという建て前で、実質的に大き な山を越えたと理解しています。
― その点では評価できると。
毛受 はい、ただ、山を越えたが、人口減少ではなく、人手不足への対応として受け入れることになった。今まで、移民政策を採らないと言い続けてきたので、反発もあるだろうと思ったんでしょう。しかし実際には、この1年くらいの間に、外国人に対する日本人の認識は、急激に変わっています。
― なぜ、変わってきたのでしょう。
毛受 外国人の観光客が、5年間で2000万人以上増えています。反対派の人たちは、外国人が増えると治安が悪くなると言ってきたけれど、何も起こっていません。それによって、地方の経済がよくなりました。コンビニエンス・ストアで、外国人が働くようになっても、混乱は起こっていないわけです。それどころか、働いてもらわないと、コンビニが営業できない状況です。
― 確かに、あちこちで外国人の店員を見かけるようになりました。
毛受 最近の新聞のアンケートによると、ここ1、2年で、外国人の受け入れに「賛成」という人が半数を超えています。国民の意識は急速に変わってきており、その意味で、政府として定住を前提とした受け入れへと、今後、さらに進んでほしいと思います。
― 昨年、自民党に何度か呼ばれて意見を求められたそうですが、ご自身、変化を感じられますか?
毛受 そうですね。今までもメディアに出る機会はありましたが、外国人受け入れの必要性を言うと、ネット上では一部の人から「売国奴」とか「非国民」と非難されました(笑)。ようやく人口減少が深刻化してきて、外国人のことを考えないとどうにもならないと、みんながわかってきたんですね。
『限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択 』(朝日新書/2017.6.13)人口激減に対応する移民政策についての著書、堺屋太一氏推薦。
人口減少は大津波、引き潮になれば何も残らない
― そもそも、移民に問題意識を持ったきっかけはどのような?
毛受 「国際交流」です。国際交流は、日本人と外国人が会い、それによって啓発を受け、豊かな経験をする。保守派を含めて国際交流に反対する人はいません。その延長上で、外国人受け入れを考えています。
― 国際交流といえば、毛受さんは、自治体や草の根レベルでの「姉妹都市」について長年研究なさっていて、研究結果を出版なさいました。
『姉妹都市の挑戦―国際交流は外交を超えるか―』(明石書店/2018.1.31)第二次世界大戦後の平和に向けた努力としての国際交流について
毛受 はい。一方で、その地方を見ると、今や人口減少で大変です。だったら外国人に来てもらい、日本人と一緒に地域づくりを担ってもらう。それで日本を盛り上げていくことは、国際交流をやっていた者からすると、当たり前のことです。ところが、その人たちが「労働力」として日本に入って来るとなると、途端に「移民」と呼ばれて、とんでもないという話になります。
ネット上では、移民が増えると犯罪が増える。日本の文化が壊される。ヨーロッパでは大変なことになっている。人口が減って国が小さくなっても豊かな国はあるなどと、移民政策について反論ばかりが出てきます。それならと勉強して、本当かどうかを検証したところ、それに対して、全部に反論できるとわかりました。
― 理由には根拠がないと。原因は人口減少。この問題を、国はどう対応しているのでしょうか。
毛受 「まち・ひと・しごと創生法」ができて、2014年に「地方創生」が始まりました。その目的は、出生率を上げて人口を維持することです。昨年度、その委員になりましたが、毎年1兆円の予算を使いながらも、人口は維持できず、地域はどんどん小さくなっています。
人口減少は大津波みたいなものです。地方で町起こしなどのイベントをたくさんやるけれど、何十年あとに何が残るでしょうか? 最終的に人口が減る以上、ほとんど何も残らないと思います。
― 人口減少は止められないと。
毛受 国立社会保障・人口問題研究所という国の研究機関があり、将来の日本の人口について客観的な数字を出しています。2020年代には四国の人口をはるかに超える550万人が減少するとしています。高齢化が進む中で人口減少が続けば、社会の持続性は危機を迎えます。外国人を受け入れることを、真剣に考えざるを得ません。ところが、移民を受け入れたら人口が増えるかというと、増えません。
― えー、増えないんですか!
毛受 2020年代以降、日本の人口減少は加速しますが、毎年60万、70万人近く減るからといって、同じだけの外国人を受け入れるのは、無理だと思います。ということは、移民を受け入れても総人口の減少は止められません。
― その先は?
毛受 何もしないと、今の小学生が生きている2100年には、人口が5,000万人ちょっとになりますが、外国人を受け入れれば、少しはましになるという話です。
一方、グッドニュースは、外国人労働者は、通常、20歳から30歳くらいの人をピンポイントで受け入れるので、その人たちが活躍でき、定年まで働いてくれて税金も年金も払う。そういう人が増えれば活力になり、AI、ロボット導入とセットで、なんとか日本の国力を維持するしかないと思います。
― 若い力は大きいですね。
毛受 さらに災害対策があります。日本は災害が多いので、地域には若い人が必要です。6月に起きた山形県沖の地震は震度6強で、新潟県村上市の被害が大きかった。調べてみると、人口約6万人で高齢化率は約35%。そういう地域が全国で増えていきますが、地震があったときに、高齢者同士で助け合うのでは対応できません。そこで、外国人に定着してもらい、消防団に入り、日本の伝統文化も担ってもらう。そのように誘導していく政策をとっていくことが必要です。
「技能実習制度」と「特定技能制度」が併存する
― 改正出入国管理法が施行されて3年、5年先はどうなるでしょう?
毛受 「特定技能制度」ができたので、それがどうなるかが試金石です。
ブルーカラーの分野では外国人の受け入れをしてこなかったので、技能実習生や、出稼ぎ目的の留学生が、それを担っていました。就労目的で「特定技能」として、日本に入れるようになったことはいいことなんです。ところが問題は「技能実習制度」が残っている。
― 「技能実習制度」は発展途上国の人材を受け入れて、技能を外国に伝えるために作られた制度ですよね。
毛受 そうです。技能実習制度の目的は、国際貢献であると法律に書いてあります。ところが、技能実習制度で31万人が日本で働いていますが、彼らが増加したのは、企業が国際貢献に意欲があったからではなく、人手不足のためであることは明らかです。特定技能ができれば、技能実習生は減ってもいいはず。しかし併存しているので、最低賃金ギリギリの技能実習制度と、日本人並みに給料を支払う特定技能制度で、企業としてどっちがいいかといえば、技能実習制度となりかねません。そうであれば、特定技能は伸びないことになります。
― では、技能実習はなくならないのでは?
毛受 ことし3月、四国のNHKに呼ばれました。四国では、技能実習生が急増しています。現在、4県とも、外国人の在留資格では一番多い。急速な人手不足、高齢化で、四国のみかんも、うどんもカツオも、技能実習制度に依存し、それがないと成り立たなくなりました。問題は、一般の人が、そのことに全く気づいていないことです。
― 日常の暮らしの中にいるのに、なぜ地元の人は気づかないのですか?
毛受 囲い込まれていますから。
― 同じ地域なのに、見えないと。
毛受 これまで外国人が少なかったこともあり、四国では、一般の人は、外国人がいなくては経済が回らない現実に気づいていません。一方で、外国人には、相談できる窓口さえありません。四国の一部の企業の人たちは心配しています。特定技能制度では転職できるので、四国に残らないで都会に行ってしまうかもしれない。だから、移動できない技能実習制度のほうがいい。技能実習生にとっては、ブラック企業であっても逃げられない制度ともいえます。
― 実習生は、間に入る送り出し機関への借金にも縛られていますよね。
毛受 ですから、これからは特定技能で日本人並みに給料を払い、町を挙げて歓迎し、地域で交流して、その人たちに地域の産業をしっかり担ってもらう。都会よりも地域のほうがいいという受け入れ態勢を作っていくことが大切だと、話しました。
日本の産業基盤が崩れていく
― 技能実習制度の実態を聞くと、SDGsの対極にある気がします。
毛受 利用するのは零細企業が多いので、大企業は、途上国でのサプライチェーンだけでなく、SDGsの観点からも、国内で技能実習生がどうなっているかを、見ていただきたいと思います。
― 技能実習制度も特定技能制度も、外国人が日本に来るものだということが前提。それが、いつまで続くのか、来てくれるのかということも気になりますね
毛受 低賃金と過酷な労働で、技能実習制度への悪評が広がっています。タイでは、東京と変わらなくなったバンコクにいる青年が、日本で実習生になることは、もうありません。特定技能では、田舎に行ってかき集めています。技能実習では、中国からも来なくなり、ベトナム、フィリピン、インドネシア、タイ、カンボジアが多くなりました。
また、議論されていないことですが、技能実習にも特定技能にも、学歴要件が一切ないことがおかしいと思っています。その国の義務教育も受けてない人が来られるんです。
― 単なる目先の安い労働力としか見ていない!
毛受 法務省の人に、そのことについて聞いたのですが、企業が求めてないからとのことでした。一時的な安い労働力だという認識ができてしまったことが、大きな問題です。低賃金労働者に依存するようになると、イノベーションは起こりません。悪評がすでに広がっており、このままでは誰も来なくなる。
― これが現代の日本の現実ですね。
毛受 さらにもうひとつ。今後10年くらいは、東アジア、東南アジアから労働者が来ると思いますが、その先、アジアの経済は発展し高齢化も進みます。では、どこから人が来るかというと、世界で人口が増えているのはアフリカ。いまは東アジア、東南アジアの人なので、日本人とは親和性が高い。これが第一次で、本当の移民は、十数年後に入ってくるアフリカ系や南西アジア、イスラムの人です。その間に、しっかり土台を作る必要があります。
公立の小中高が、10年で5,000校なくなっています。子どもの数はどんどん減って、若者はブルーカラーの仕事につきたくない。外国人を入れないと、日本人の職を奪うどころか、日本の産業基盤が崩れていくことになります。
― 政府に青写真はあるでしょうか?
毛受 現時点では人手不足対策の対応です。法律改正後、2年後に見直すことになっているので、来年から見直しが始まるでしょう。
入管法を変えて特定技能を作ったのは、入り口の話です。われわれは、國松孝次さんを共同座長にした「外国人材の受け入れに関する円卓会議」を開催し、「在留外国人基本法の骨子案」を提言。外国人が安心して入ってこられるように、日 本にいる外国人の社会的位置づけ、権利や義務を規定し、政府に責任を持った対応を求める法案を、3月、山下法務大臣に提出しました。
同時に、その考えの基礎となる「外国人とともに作る日本の未来ビジョン」も作ったんです。
国松孝次氏:元警察庁長官、元スイス大使。現在、特定非営利活動法人救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net) 会長
― どんなことが書かれていますか?
毛受 日本は歴史的に閉鎖的な国ではない。例えば、古代、遣隋使や遣唐使がリスクを冒して海を渡り、大陸の進んだ文化を輸入したように、日本は異文化を受け入れて、イノベーションを起こしてきた。それが日本のアイデンティティーです。ですから、人口減少するなかで国を開いていくことは、特別なことではないということです。
外国人とともに生きる
― 外国人との共生で、大切なことはなんでしょうか?
毛受 外国人が日本で安心して暮らすためにはふたつあり、車の両輪のひとつが「多文化共生」です。こちらは、在留外国人基本法を提言しましたが、それがなくても、どんどん動いています。
もうひとつは「労働」。いい話だけを聞いて、来てみたらブラック企業だったのでは、いくら地域が受け入れても、定着できません。ブルーカラーの分野でいうと、企業は、技能実習制度の安い労働力に慣れているので、その意識をいかに変えていくかが大きな課題です。
― 高度人材はどうですか?
毛受 4年生大学の留学生であれば、ビザの面では基本的に自由に働けて、10年いたら永住権が取れます。これはアメリカや他の国よりもオープンですが、今までは、留学生が日本の企業に入らなかったので、国の政策で、急速に企業に留学生を入れようとしています。
タイで大学を卒業する人から、日本の企業には「興味がない、過労死がある」と言われたそうです。いい人材を取りたいなら、外国人の視点に立ち、活躍しやすい環境を作っていく。例えば、日本の企業は、能力より日本語ができるかどうかで足切りしているところが多いようです。自治体では、いま「やさしい日本語」が広がっているので、企業でやさしい日本語をやってみるなど、企業から歩み寄る姿勢を見せれば、優秀な人材が集まってくると思います。
― いい人が来たときには、どんなプラスがあるでしょうか?
毛受 国際交流の発想でいえば、単なる人手不足の労働者ではなく、外国人は、日本人と違う価値観を持っているし、ネットワークも経験もあります。それを発揮するような条件を作っていけば、外国人は、特に自分の国とつながる仕事に力を発揮します。お金を超えて一生懸命にやります。世界的に、移民は起業意識が高くて、ハングリー精神があります。サラリーマンで終わりたい人は、そもそも移民しませんよね。
そういう人にチャンスを与えれば、日本の若者にも刺激になり、ウィンウィンになります。国際交流の経験からいうと、日本人の青年が外国人との交流で刺激を受けると、数日間で驚くほど成長します。
― ダイバーシティ、イノベ―ションといっているのですから、活用するべきですね。
毛受 日本人のなかだけでは限界があります。異文化の人を入れて、かき混ぜてもらって、その葛藤の中から共存の知恵が生まれ、イノベーションが沸き起こる。そのために、しっかりした制度を作り、人数を制限し、日本人の仕事を奪わない形で、外国人を受け入れていく。もともと日本人のメンタリティは排他的ではありません。多文化共生の基盤もあるので、国がしっかり支えていけば大丈夫ではないかと思います。
― 毛受さんのこれからの役割は?
毛受 多文化共生の現場の人には当たり前でも、一般の人には理解されないことがあります。それをわかりやすく翻訳して、一般の人に知らせる。出入国管理法の改正で、大きな山を越えましたが、一時的な労働者の受け入れと、まだ歪んだ形です。これからいい形で成長するように議論を広げ、みんなに考えてもらうのが役割だと思っています。
世界中で移民反対の嵐が渦巻いている中、日本は方向転換して、世界に素晴らしいメッセージを出している。それがいい形になり、多文化共生で成功すると、日本は最後に遅れてやって来たけれど、うまくやったと称賛を浴びる可能性があると、海外のメディアから言われました。
一部のご支援でここまでなんとか来ましたが、今後は企業の皆さんの応援もいただきたいところです。
― 日本が移民政策で期待されているのですね。外国人に対する真摯な対応は、日本で置き去りにされている人たちの問題の根源的解決と同根です。私たちが多文化共生の実像をしっかり掴んで、あるべき未来を創るために、ぜひ、その橋渡しをお願 いします。きょうはありがとうございました。
【インタビュー】
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長 高橋陽子
 
(2019年6月20日 霞が関にて)
機関誌『フィランソロピー』No.393/2019年8月号 巻頭インタビュー おわり