巻頭インタビュー

Date of Issue:2020.4.1
<プロフィール>
 
 
さかの・あきら
兵庫県西宮市生まれ。関西学院大卒。海外インターンシップ事業を展開する国際的な学生NPOアイセックのモンゴル代表などを経て、2015年に特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長に就任。2012年世界経済フォーラムのGlobal Shapers に選出され、2019年世界経済フォーラム年次総会では共同議長を務めた。2020年6月まで現職を兼任し、その後は、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事として活動する。
 
巻頭インタビュー/No.397
地域という⼩さな単位から負の循環を断ち切る
ごみの削減と循環型社会の推進
坂野 晶 さん
2003年に、日本初の「ゼロ・ウェイスト」宣言を行なった徳島県上勝町(かみかつちょう)で、町のごみをゼロにする取り組みを推進する特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー。2015年からその理事長として、同町のごみの削減の政策立案と実装・啓発、国内外に向けたゼロ・ウェイストの普及に貢献してきた坂野晶さん(現在は一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事も兼任)。徳島駅からバスを乗り継いで1時間半、山間に散在する55の集落に約1,500人が住む上勝町に、坂野さんを訪ねた。
ゼロ・ウェイストを目指した45分別のごみ回収
― 上勝町が、ゼロ・ウェイスト宣言をした背景は、どのようなことだったのですか?
坂野 1990年代にごみが増えてきて、町では野焼き(地面での直接焼却など適法な焼却施設以外で廃棄物を燃やすこと)をしていました。町内に一か所穴を掘って、ごみを持ち込んで燃やすのですが、国で禁止され、野焼きができなくなりました。それで設置した小型焼却炉もダイオキシン問題ですぐに使えなくなり、かといって大規模な焼却炉に投資するにはお金がかかるし、燃やすためには山口県まで運ばなくてはならず輸送代がかかる。その結果、燃やすのではなく、リサイクルをするという方向に舵をとりました。
― 当初から細かい分別で?
坂野 リサイクル業者に適正価格で引き取ってもらうためには、質の良い分別が必要です。最初は9分別から始めて、徐々に増やし、現在では45分別になっています。住民が、直接「ごみステーション」に持ち込んで、現場のスタッフも手伝いながらごみを詳細に分別して回収。81%までリサイクルできるようになっています。
― 81%! 町民の皆さんは、初めから協力的だったのでしょうか?
坂野 なんでも放り込んで燃やしていたので、いきなり手間が増えることには反発もあったと聞いています。町としては、財源的なことをはじめ、野焼きは健康に悪いし、大気汚染につながると説明しながら協力を呼び掛けていったということです。
― それで現状の45分別まで住民参加を促せたのはすごいですね! ほかに何か取り組み促進の鍵はあるのでしょうか?
坂野 ごみは、見える範囲から消えると、自分事ではなくなります。
上勝町では、例えばアルミ缶のところに、それがどこに行って何になるのか。1キロ当たりいくらの収入になるのか。逆に、引き取りに費用がかかるものは、1キロ当たりいくらかかっているのかを明示することで、分けることの意味を明確にしています。透明性を持ち、効果を伝えることは大事だと思います。
― ごみステーションは、コミュニティの場としても機能していますね。近くの喫茶室にいたら、「しばらく家にいたので、ごみを捨てがてら出てきたよ」と年配の男性が話していました。
坂野 そうですね。町内で住民が一番よく来る場所だといえます。住民同士や現場の職員が出会い、情報や物も集まってきます。
そこには、無料で持ちこみ・持ち帰りのできるリユースの拠点「くるくるショップ」も併設されていて、手作りの好きな高齢者が生地類をアップサイクル(元の製品に手を加え、付加価値の高いものを生み出すこと)して販売する「くるくる工房」もあり、まだ使えるもの、価値があるものが行き場を持てるようにしています。
19パーセントの限界と主体者を増やしていく取り組み
― ゼロ・ウェイスト宣言をして17年。リサイクル率は81%で、残りの19%が難しいというのは、なぜですか?
 
「入」は資源としての収入、「出」は引き取りの費用
引き取り先の地域とリサイクルされるものが表記されている。
坂野 その中身は、素材としてそもそもリサイクルしにくいものです。例えば、ボロボロになってしまい素材としての再生が難しいゴム製品や、革製品、塩化ビニール製品、さらに使い捨て専用で作られた紙おむつ類などの衛生関連品。あるいは、素材が混ざっていて分けられないもの。使い捨てカイロも酸化した鉄は資源として使えないので、埋め立てに行きます。
― こればかりは、住民の努力ではどうにもならない。限界ですね。
坂野 リサイクルのためには、企業が製品の素材や設計自体を変えていくことと、それを後押しする政策が展開されることが必要です。そのためには、消費者サイドからの要望、需要が大切で、地域のコミュニティ単位で仕組みとしてモデルをつくり、そのスキームにメーカーの人たちが参画し、代替案を一緒に検討していくような「ボトムアップ型の動き」が、わたしたちにできることなのかなと思っています。
― 例えば、上勝町では、具体的に進めていることはありますか?
坂野 容器包装ごみの出ない量り売りの実験をやっています。徳島県との事業で、量り売りに対する消費者の意識調査、スーパーマーケットでの課題のヒアリング調査もして、その結果、上勝町では飲食店と連携して、お店で使っている食材を量り売りする仕組みにトライしています。売り上げになるほどでないけれど、店側には食材のプレゼンテーションになり、利用者には美味しいものが安価で適量手に入るというメリットが生まれます。その過程でメーカーと連携した実験も行ないました。
― お店を対象にしたゼロ・ウェイスト認証もありますね。
坂野 はい。ボトムアップで需要をつくっていこうと考えた時、一個人で頑張るよりも、お店の仕入れを変えるほうがインパクトが大きいですよね。お店は消費者であり、同時に、顧客とコミュニケーションをつなぐことができるので、認証の行動項目を利用しながら、ゼロ・ウェイストという考え方のアンバサダーとして活躍してもらいたいと思っています。こうした量り売りや認証によって、循環に向かって自発的に動く主体が増えてほしい思いで、取り組んでいます。
ダボス会議でみたサーキュラー・エコノミーの潮流
― 海外からも注目される「ゼロ・ウェイスト」ですが、坂野さんは、2019年1月にダボス(スイス)で開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に、5人の若手リーダーと共に共同議長を務めました。サーキュラー・エコノミーに ついて、意識の違いなどを感じましたか?
坂野 サーキュラー・エコノミーに転換していくといっても、制度がそうならないと経済的合理性を持って方針転換ができないなかで、ヨーロッパはルールをつくることで、システムチェンジしようとしていて、だからこそビジネスとしても取り組みが加速しています。
例えば、新しく商品を作る時には、再生資源・リサイクル資源の割合を何割使わなければならないとか、特定のプラスチック製品を規制していくなど、ヨーロッパ全体で少しずつ制度を作っていこうとしています。
長期的に見れば、資源自体に有限性があることは、喫緊の問題として言われ始めています。特にレアメタルに関しては、2050年ごろに枯渇すると言われていて、リサイクルしていかないと、例えば、携帯も使えなくなります。作ったものは必ず回 収して、また資源として使っていくというモデルに変えていかないと、現状の生産活動は止まってしまう。早く転換した方が、長期的にはビジネスとしても持続できるという考え方があると思います。
― そうなれば、日本は、乗り遅れるのではないかと心配になりますね。
坂野 一方で、サーキュラー・エコノミーはまだ概念的なもので、日本に限らず世界的にも、これがそうであるという完全なモデルはなく、いろいろなところで試行錯誤をしています。より循環し続けられて、環境負荷が低く、かつ経済的にも合理性があるモデルを作っていこうとしている段階で、まだまだ戦えます。
日本では、後押しする仕組みがあれば加速するかもしれない分野です。国単位の政策の後押しがなかなか進まないのであれば、ローカルの小さな単位で、循環型で地域にとって経済的合理性もあるモデルをつくっていく必要があると思います。
― 循環型は、ローカルなほうが実現しやすいでしょうね。
坂野 わたしたちが、ダボス会議に呼ばれて発言する意義が、そこにあるのではないかと思います。これまでは経済をマスで捉えて、世界的な大企業が全世界のマーケットを考えて方向性を示しました。環境についてもそれで変われば、インパクトも大きいでしょう。
ただ、これからのソリューションは、その単位では、なかなか生まれません。分散型にすることで解決することが意外とあり、ローカル単位で企業がソリューションを見つけに行くことが必要になってきます。いろいろなマーケットを持つコミュニティがあるので、それぞれのモデルをつくっていって、それが同時多発的に加速すると、世界規模での解決策の一端になるんじゃないかと思っています。
― ダボス会議では、コスタリカの大統領と、意気投合したということですが?
坂野 実は2020年2月末に、ダボス会議から1年越しでコスタリカを訪問し、大統領にお会いしてきました。エコツーリズムが有名な国で、生物多様性の宝庫です。再生エネルギーで90%以上を賄っていて、その分野では進んでいるけれど、ごみ問題が全然できていないそうです。
JICAのミッションで行きましたが、「ドータ」という山間部の自治体で、ゼロ・ウェイストへの取り組みができないかと、調査や設計をしながら今後支援していこうと話しています。
循環を、ポジティブで楽しく続けるために
― ダボス会議では、坂野さんの憧れのジャシンダ・アーダーン(Jacinda Ardern)首相にも会えたそうですね。ニュージーランドに棲息する「カカポ」の話をされたそうですが、「カカポ」とは?
 
「くるくる工房」生地類のアップサイクルで、販売価格の8割が作り手に還元される。
坂野 環境問題に関心を持ったきっかけが、子どものころに、絵本で絶滅危惧種のオウム「カカポ」を見て、「こんなすごいオウムがいるのに、いなくなるかもしれない!」と知ったことでした。それから、そもそも絶滅危惧種が生まれたのは、人間社会の経済も含めた仕組みのためで、その仕組みを変えていくことが必要だと考え、大学では政策を学びました。
― 学生による国際的非営利組織「アイセック」に参加して、モンゴルへもいらしたと。
坂野 はい。モンゴルでは、環境法は最新鋭なのにまったく導入されていなくて、ごみがいっぱい落ちていました。そのギャップが大きかったので、現場で理想の状態を実践し、トライアンドエラーをしながら、それを政策にフィードバックしたいと思うようになりました。海外で就職し、次は大学院に行こうと準備しているときに上勝町に遊びに来て、偶然事務局の交代があり、友人と一緒にやってみようと。
ごみに関心があったというよりも、現場でトライアンドエラーをしたくて。勢いですね(笑)。
― とはいえ、実際には大変なこともありますよね。
坂野 そうですね。行政・住民と、外からいろいろなリソースを引っ張ってくることのバランスのなかで、コーディネーターをしているのがわたしたちの組織です。本来は、行政が進めていくべきですが、担当者が変わり理念が継承されなかったり、人材不足で地域自体を維持していくことに苦戦したりするなかで、ごみや環境への取り組みを推進することは容易ではありません。
ここでの経験をもとに地域外へも仕掛けていくことと、地域内で取り組まなければならないことのバランスが難しいですね。企業とつながり、量り売りなどの新たなサービスや仕組みで、住民の生活の豊かさにも貢献できればと、いろんな仕掛けづくりもしてきました。
― 仕掛けづくりは大切だと思いますが、こつはありますか?
坂野 モチベーションは10-80-10で、モチベーション高くやろうと思っている人は10パーセントくらいしかいません。同時にボトムが10パーセントいて、必ずクレームを言う。しかし、大事なのは、一番多いのが8割の無関心層であると認識すること。この人たちをトップに上げるのは難しいけれど、トップと同じような行動をさせることはできるかもしれないと考えています。
そのためには、いろいろな組み合わせを考えて、楽しい要素を入れることが大切です。環境がなぜ問題なのかはネガティブな要素があり、背景としては知る必要がありますが、自分が取り組む行動は、ポジティブであればいいと思っています。
ポイントが貯まるのが楽しいからごみを持っていこうとか、ごみステーションに行ったら誰かに会えて楽しいから行こうとか。あるいは、環境のためといってもよくわからないけれど、地域のために、自分たちが頑張った分のお金 が、教育や福祉に回っているというのもわかりやすいですね。
ポイント:紙類を分けるとポイントがたまるキャンペーンから始まり、現在は「ちりつもポイントキャンペーン」として、分別対象の拡大やレジ袋削減推進などにも利用される。
 
お金:上勝町で分別したごみを資源として売却した収入。ゼロ・ウェイスト推進基金として積み立てられ、さまざまな形で住民に還元される。
― 環境は「思想のマイノリティ」で、環境問題を語れる仲間が少ないと、おっしゃっていたときもあったようですが、今、どうですか?
坂野 最近は増えてきました(笑)。日本でも、比較的若い人で、環境のことをやろうとしている人たちには、量り売りのお店もそうですが、楽しいことをやる人が多いと思っています。
世界経済フォーラムの中に33歳以下の人で構成する「Global Shapers」というコミュニティがあり、わたしも参加しているのですが、なんと、世界人口の半数は27歳以下なんですよ。
― そうなんですか!
坂野 そうなんです。マーケットとしても強く、圧倒的に購買力もあり、これからは、彼らが社会の主要な構成員です。そこが人口構造の違う日本では、どんな戦い方ができるかと考えています。
上勝町では、政策を検討する際、住民の圧倒的多数が高齢者なので、必然的に高齢者にとってよい施策になります。一方で、ゼロ・ウェイストのような尖った施策からでた成果を、どう還元するかといったときに、⼀番⽣活者として協⼒してもらいたい、⼦どもがいる家庭やお母さん世代にメリットがあるような仕掛けにしていけないだろうか。マイノリティでもターゲットにできるような地域モデルにも貢献したいなと思っています。
循環社会を目指して、新たな出発
― 坂野さんが理事長を務めた「ゼロ・ウェイストアカデミー」は、この(2020年)4月から大きく体制を変えるそうですね。
坂野 はい。今まで、外に対する政策提言をすると共に地域のお手伝い、それに町内の取り組みの改善など全部をやり切ろうとして、かなり無理をしていました。そこで、これまでやってきたことの主体を分解します。
例えば、上勝町のゼロ・ウェイストの施策は、町内のいろいろな主体で協議会体制をつくって課題や方向性を検討します。工房、有償ボランティアタクシーなどの福祉部門は独立した団体になり、研修の受け入れや海外からのインターンシップなどは、現在すでに受け入れをしている別の団体が引き継ぎます。ゼロ・ウェイストアカデミー自体は、上勝町から発信する政策提言を推進する組織となります。
― それぞれの事業が独立し、坂野さんは「一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン」の代表理事になられるのですが、どのようなことをするのですか?
坂野 わたしが個人的にやりたいと思っていたことで、他の地域で、循環のモデルを新しく作っていくケースをお手伝いして、ゼロ・ウェイストのモデルをたくさん増やしていくことです。
― もともと目指していたことに特化したということですね。コスタリカは、その取り組みの第一歩?
坂野 はい。ダボス会議のつながりもあり、世界経済フォーラム Japan では、日本社会のサステナビリティ推進などの協議の場に呼んでいただいてもいます。政策提言に持っていくソリューションの一端となるモデルづくりを進めたいですね。
― 2歳の女の子のお母さんでもいらっしゃいます。どんな未来をつくってあげたいと思いますか?
坂野 なかなか難しいんですが、たくさんのものがあることが、必ずしも幸せではない時代に突入してきています。そのなかで、ものに頼って、環境を汚染し続ける現状のループは、どこかで断ち切らねばならないと思っています。一方で、断ち切ったところでは、必ず再生産していくプロセスが要りますから、自然界として生き物として、生産し続けられる環境になっていてほしい。
地域という⼩さな単位で負の循環を断ち切ることができて、それがオセロみたいにあちこちで実践されて裏返っていき、一定数裏返ると一気に変わるようなことになればいいなと思っています。
― 上勝町の「ゼロ・ウェイスト」宣言の目標とした2020年、新たな動きが始まりました。ゼロ・ウェイストの普及・実装に向け、ローカルを単位として、国内外にそれぞれの特色を生かした循環モデルをつくっていく。坂野さんの目指す次なるステップに期待しています。
きょうは、ありがとうございました。
【インタビュー】
公益社団法人日本フィランソロピー協会
近藤尚子
 
(2020年3月16日 上勝町にて)
機関誌『フィランソロピー』No.397/2020年4月号 巻頭インタビュー おわり