巻頭鼎談

Date of Issue:2020.6.1
緊急鼎談/No.398
子どもたちを支える支援団体からのメッセージ
NPO法人さいたまユースサポートネット 代表
青砥 恭 さん
公益社団法人ユニバーサル志縁センター 専務理事
首都圏若者サポートネットワーク 事務局長
池本 修悟 さん
社会福祉法人カリヨン子どもセンター 理事、弁護士
吉川 由里 さん
緊急事態宣言は解除されたが、新型コロナウイルスの収束は不透明で、3密を避けることを基本とするSocial Distancing は継続。社会への影響の深刻さがますます懸念される中、何が必要とされているかを考えるオンライン鼎談を実施した。
 
あおと・やすし
埼玉県で20年の高校教員を経て、埼玉大学、明治大学で教える。教員時代より中途退学と貧困問題をテーマとし、『ドキュメント高校中退』(筑摩書房, 2009)などを出版。2011年に、学生たちと「NPO法人さいたまユースサポートネット」を設立、代表となる。さいたま市を中心に孤立し困窮する子どもや若者たちの居場所や地域づくりをめざし、若者支援の活動を行なってきた。「一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」代表理事。
 
いけもと・しゅうご
NPO事業サポートセンターを経て、2011年から公益社団法人ユニバーサル志縁センターで、社会課題に取り組む団体などと連携したNPO支援を推進(現・専務理事)。2017年からは「首都圏若者サポートネットワーク」(顧問:村木厚子/元厚生労働事務次官、委員長:宮本みち子/放送大学名誉教授、千葉大学名誉教授)を立ち上げ、社会的養護を巣立った若者支援に取り組み、2018年から事務局長。
 
きっかわ・ゆり
虐待や親との関係がうまくいかずに、家で安全に暮らせない子どもたちの緊急避難場所として、日本で初めて民間の「子どもシェルター」を立ち上げた「社会福祉法人カリヨン子どもセンター」の理事。子どもの人権擁護活動を行なう弁護士であり、虐待問題や少年事件を扱う。児童相談所の非常勤弁護士として、行政の児童福祉分野にも関わる。カリヨン子どもセンターは、当協会が運営する「誕生日寄付」の寄付先でもある。
現場は、どんな状況ですか?
NPO法人さいたまユースサポートネット
青砥 ことしは、さいたま市と川越市から、生活保護世帯とひとり親世帯の小・中・高校生の学習支援を受託しています。学習支援事業には、2つの自治体とも、現在登録している小・中・高校生がともに約200人います。今子どもたちが教室に来られないので、一人ひとりの家庭に手紙や電話で聞いてみると、オンラインの可能な世帯は、スマホも含めて約50%でした。日本全国の平均的な家庭に比べて、相当に少ないですね。実際、オンラインでやるためには、かなりお金がかかるし、時間もかかり、スキルも簡単ではないなというのが率直な思いです。
川越市には学習支援教室は3教室、さいたま市には中・高だけで13教室あります。子どもたちの様子をスタッフに聞くと、多くは家にこもっています。本来この年代に大切な学ぶ機会の喪失が心配です。政治家が「stay home」というのは簡単ですが、もっと、きめ細かな対応が必要です。その場の思いつきのような発言が多く、誰に向けて言っているのか、あまりにおおざっぱで、一律に規制をかけすぎている気がしています。メディアの報道も、毎日ものすごい量ですが、政治家の発言と同様、同じような論点の繰り返しで、議論が問題の解決につながらない。このことも社会全体の閉塞感を高めています。
子どもたちや親と話して、一番大変なのは中学1年などの新入生で、多くは、教科書や問題集を受け取っただけで放置されています。わたしたちの活動を必要としている子どもの中には不登校が多くて毎年15~20%でした。その子たちが、学校に入学したものの、教科書だけが送られてくる。2、3年生なら少しは積み重ねがあるので、問題をやったりできますが、そうそう勉強が得意ではない子たちには、教科書に従って自分でやりなさいと言われても、できるものではない。
これで3か月過ぎているので、経済格差、教育格差だけでなく、子どもたちが、学びや子どもたちの空間から遠ざかり、疎外され、傷んでしまうのではないかと感じています。この子たちにとって一律に学校を閉じてしまうことは、本当に正しいやり方なのかどうか。発達障がいや知的障がい、虐待を受ける子どもたちもいます。そういう子どもたちにアプローチできません。このまま放置したら、大変なことになるなと思っています。
子ども食堂
池本 今、大半の子ども食堂が開かれていない中で、各地で食材やお弁当を届ける「フードパントリー」を実施しています。わたしの住む地域でも、新たに「子どもフードパントリー」が立ち上がり、側面支援をしました。子ども食堂を運営するふたつの団体の代表と、NGOに関わった経験のある区の職員がリーダーシップチームを立ち上げ、いち早く情報交換して、困窮家庭やひとり親家庭の声を聞き、必要な家庭に食事を届けようとの強い思いから動き出しました。
難しかったのはNPO内での考え方の違いです。実行するに当たって、感染する危険から命を守らなければいけないという思いと、一方で、食で苦しい思いをしている子どもたちがいるので、何とかしなければいけないというジレンマが顕在化しました。フードパントリーの実行を後押ししたのは、子ども食堂のネットワークや、行政とのつながりがあったからだと思っています。
ゴールデンウィークを過ぎてからは、うわさが広まってニーズが高まり、届けた500~600食のお弁当のうち、8割がひとり親家庭でした。感染リスクのあるなか、団体の代表や理事が陣頭に立ち、活動休止中の子育て広場などで、弁当の受け 渡しが行なわれました。
全国各地で同様の取り組みが手探りで行なわれ、知見も蓄積され、いろいろな事例も出てきていますが、今は、疲れのピークを超えて、厳しい状況になっている団体もあるのではと感じます。
事例でユニークだと思ったのは、沖縄の取り組みです。3月から、困窮家庭が多い沖縄で、琉球新報と NexSeed 沖縄校が連携して、企業から協賛を募り、琉球新報本社を拠点に食料を届けています。4月中旬からは玉城知事が会長を務める「沖縄子どもの未来県民会議」の後援を受け、より多くの協賛企業が参画。メディアが関わることのインパクトの大きさを感じました。
若者おうえん基金
池本 わたしの取り組む、「施設や里親の下で育った若者たちをサポートする若者おうえん基金」では、2020年2月12日から3か月間、クラウドファンディングを実施しました。自立援助ホームやアフターケアの人たちの活動に助成金を給付し、それにより社会的養護出身の若者たちを応援するものでしたが、全国一斉休校以降(2020年3月2日)、クラウンドファンディングがピタッと止まってしまったのです。
世の中が自粛し始めて、仕方がないのかと思っていると、社会的養護を巣立った若者がホームレスになってしまったという話が飛び込んできました。新型コロナの影響が出てきたことを感じて、急遽、過去に助成した団体に緊急調査をしたところ、どういうことに困っているのかが見えてきました。
マスク・消毒液の不足をはじめ、感染リスクに備えたシェルター的な部屋の確保や、アルバイトの減収など、いろいろな支援ニーズがあがってきました。それらの結果をきちんと発信し、ニーズに沿った「新型コロナ緊急助成」(1件最大10 万円。2020年4月27日から5月7日まで公募)を打ち出したことで、だれもが新型コロナの影響で、危機感やその大変さを知っていた時期ということもあり、停滞していた目標金額300万円のクラウドファンディングが、最終的には784万4,000円集めることができました。これにより、「新型コロナ緊急助成」には、全国から52件の応募があり、申請のあった団体には、ほぼ助成できることになりました。
この経験で、改めて、情報をきちんと集めて当事者の声、現場の声を伝えていくことは大切だと思いました。5月28日からは企業からも支援をいただいて、新たに第2弾の助成もスタートさせました。
社会福祉法人カリヨン子どもセンター
吉川 カリヨン子どもセンターでも、いろいろなところで困難を抱えている子どもたちに、影響を与えています。
ひとつは、シェルターに逃げてくるような子どもは、元々親との関係がよくないのに、休校で家に居なければいけない。親も在宅ワークになっている。その状況のなかで軋轢がピークとなり、弾けて家から出てきたという子どももいます。
もうひとつは、自立援助ホームで、親に頼れない子どもたちが、自立を目指して生活していますが、非正規で働いている若者が多いのです。特に、飲食系で働く子どもは仕事が減り、経済的に大変厳しい状況になっています。
スタッフへの影響、子どもたちへの対応は?
吉川 カリヨン子どもセンターの子どもたちは、ハイティーンで、いわゆる虐待サバイバーが多いのです。さんざん傷ついて、生き延びている子どもたちなので、「百戦錬磨」の子どももいれば、我慢を重ねて、やっと安全なところに来たところで、精神的に一気に爆発してしまう子もいます。子どもが暴れたり、自分を傷つけたりして、このままでは命が守れないというときは、精神科に入院させることもあります。職員たちは、振りまわされて、精神的にまいってしまうこともあります。
こうした現場の職員に対しては、日々、子どもたちを支えてくれていて、尊敬という言葉では表せないくらいです。コロナのなかでの感染予防策や、何かがあったときにどうするかということは、職員も日々対応を考えているので、一緒にフォローしていくことになります。
そのほか、カリヨンではアフターケアにも力を入れています。ここを巣立った子どもたち・若者たちには、ほかに相談できるところがないので、連絡・相談してきます。特に、社会的養護を巣立った子たちには、家を失うことは、とても怖いことなのです。例えば、収入がなくなり、家賃を少しくらい滞納しても、法律的にはすぐに家を追い出されることはないのですが、それを知らずに飛び出してしまう。そうなる前に、法律的な知識、助成金の情報など、必要な情報を提供できたらいいと思います。弁護士の仲間たちと立ち上げた新しいプロジェクト「子どもとツナガル〜弁護士プロジェクト〜」でも、web上での情報発信を始めています。
また、カリヨンでは、カリヨンハウス事業というデイケア事業もやっています。職員とおしゃべりしたり、カウンセリングや学習支援、ボイストレーニングやダンスなどのプログラムを組んで、カリヨンを巣立った子たちも来られる場。100%寄付に頼っている事業です。
青砥 スタッフのなかには、自治体から委託を受けてやっている場所で感染が広がれば、つぶれてしまうのではないかと不安を持つ人もいます。一方で、利用者のなかには、糸の切れたタコ状態で、この事態にあっても、町のなかで人や居場所を求めてさ迷う子どもや若者たちもいます。わたしたちの居場所が再開すれば必ず来ます。このリスクを持った子たちをどう受け止めるか。
この若者たちや子たちを支えるためにつくった団体なので、居場所をつくり、話を聞いてあげたい。しかし、感染が広がったら、立ち直れなくなるんじゃないか。原則的な話ですが、みんなが検査を受けられれば安心して活動できるし、子どもたちにも安心して「おいで」ということができる。とにかく検査がないことが不安を増幅させるだけです。
もう一つ大きな問題は、突然一斉休校にしてしまったことです。そうなって始めて、子どもたちにとって学校の存在が、いかに大きかったかということが見えてきました。とりわけ困窮層の子どもたちは、公教育がなければ行き場がありませ ん。コロナの前なら、われわれの団体などが、地域のセイフティネットの役割をして、地域で、公教育から転げ落ちそうな子どもたちを支えてきました。ところが、今の事態は困窮層だけではないですが、巨大な子どもたちの層がどんと落ちてしまって、とてもわたしたちだけでは、手がまわらない。
新型コロナウイルスの影響で、さまざまな被害が出ていますが、社会全体から見ると、子どもたちが、すごく大きな被害にあっていると思います。
現場を変えていくために、どんなことを?
青砥 わたしは、今こそ地方自治、地方主権だと思うのです。政治家も専門家も、今の状況について責任をもって語ることのできる人がほとんどいない。「3蜜」「自粛」と言われても、振り回されるばかりです。どうすればいいのか多くの人は不安だけ大きくなっています。韓国や台湾では社会活動を閉ざさなくても乗り切ろうという経験もあります。なぜ、学ぼうとしないのでしょう。
政府や専門家などから正確な情報がほとんど伝えられていないことに最大の問題があります。「stay home」とか「新しい生活様式」などと用語だけを発明してもナンセンスです。その後、どのような生活が待っているのか、全く見えてきませ ん。国民も自治体も迷っていて、多くは、国がどう動くかを待っているのが実態です。
仕方がないので、わたしたちは、スタッフにはとにかく提案書をつくろう。それを行政に出して、議論しようと言っています。どうしたらリスクが少しでも下がるのか、そのリスクヘッジは我々も考える。子どもの状況は、わたしたちの方が専門性が高く、状況がわかっていますから、自負を持ってやるべきです。それをやらないと、一歩も進みません。
池本 新型コロナを受けた政策提案という意味では、当初案では、NPOが持続化給付金の対象外になっていたのを、NPOの連携組織が動いて覆しました。また、同様のチームが呼びかけを行ない、休眠預金も新型コロナ対策に入れていこうという動きにつながっています。提案を続けることの大事さを感じているところです。
吉川 行政に働きかけるという意味では、「子どもシェルター」は、もともと制度外でやっていたものでした。必要性があるということで、いまでは全国で16か所に増えていますが、自主事業でやっていくことは難しいので、仲間たちといっしょに国に働きかけてきたという経緯があります。その結果、児童相談所から一時保護委託を受けたり、自立援助ホーム委託という形で、お金を出してもらうことができるようになりました。行政との交渉では、横のつながり、連帯が大切で、仲間をつくり、みんなで働きかける。あきらめずに、何度も出かけて行くことが重要なのかと思います。
最近でいうと、10万円の特別定額給付金があります。住民票の所在地の自治体で申請して受け取るのが原則です。虐待などで、親から離れて暮らしている子どもや若者でも、施設に入っている子どもは、施設の職員が代理申請できるという、総務省からの事務連絡が出ています。でも、施設から出て一人暮らしをしているけれど、親に居場所を知られたくないために、住民票を親元に残したままの子どもたちは、どうするのか。
これについても、弁護士間で他の事務連絡などの情報共有をして、DVと同じにように、実際に住んでいる場所で申請できると考えています。制度についての情報だけでなく、さまざまな成功例を共有することで、他の人たちも参考にできる。 支援者側も、周りとつながりを持ちながら進めていくことに意義があると実感しているところです。
個人や企業にできることがあれば、教えてください。
池本 休職して、JICAの海外青年協力隊に参加予定だった人が、コロナの影響で派遣先に行けず、4月から「若者おうえん基金」でボランティアをしています。大変優秀で、企業には、こうした、海外での社会貢献活動に行けなくなった人も少なくないと思います。そういう人に、オンラインでもできる社会貢献に参加してもらうといいと思います。
青砥 わたしがリーダーをしている「全国子どもの貧国・教育支援団体協議会」に参加する団体は、お金がある団体ばかりではありません。寄付を集めたり、行政から多少のお金をもらったり、ボランティアでやっています。基本的な話ですが、この学び直しや居場所づくり活動は、オンラインではできません。人と人が触れ合いながら、一緒に汗をかいたり、ものをつくったり、対立したりというコミュニティが、子どもの発達には、どうしても必要です。そんな場づくりを減らすのでなく、いかに増やしていくかということを追求してきたので、こういう状況になると、難しいと思っています。
多くの方と今の状況の中でどう克服するか、経験を交流しながら前を向いていきたいと思います。多くの企業のご支援をお願いしたいです。
吉川 いままで虐待というと、親元から保護することをイメージしやすいけれど、その子どもたちが、その後どうなっていくかについては、関心が集まりにくく、知られていませんでした。日本フィランソロピ―協会主催の「誕生日寄付」の寄付先にしていただき、知っていただくことで、たくさんの方が関心を持ってくださることは、嬉しいことだと思います。
カリヨンも、生活の場を運営しているので、オンラインではできません。人と人のぶつかり合いみたいな活動ですが、わたしたちには、子どもたちの声を聴く、不安を聴くことはできますし、必要な情報を届けることはできます。お願いしたいのは、子どもたちの生活が厳しいなかで、経済的なご支援と、そういう子どもたちの働き口、就職がますます厳しくなってしまうと思うので、安心して働ける場所をつないでいただけたら、ありがたいです。
ファシリテーター:
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長 髙橋陽子
 
(2020年5月21日オンライン)
機関誌『フィランソロピー』No.398/2020年6月号 緊急鼎談 おわり