
亘理町と山元町の特産である「仙台いちご」は現在、北海道から東京まで出荷し好評を得ています。品種としては2種類作っていまして、ひとつは栃木で生まれた「とちおとめ」。そしてもうひとつが仙台生まれの「もういっこ」という品種です。とちおとめは濃厚な味わいが魅力。「もういっこ」は非常に香りが良く、粒が大きく、さっぱりした味わいが特徴です。昨年の出荷量は例年の20%ほどでしたが、今年はやや増えて30%のところまで来ました。農家の皆さんが抱く、「農地再生」への強い想いをひしひしと感じています。
私自身も、いちごと水稲を作る農家です。山元町の新浜という場所で、まさに海が目の前という場所にハウスと田んぼを持っていました。しかし津波が一瞬のうちにすべてをさらっていったんです。家族は震災当時、いちごのパック詰め作業をしていましたが、津波の報せを聞き、すぐさま避難をしたおかげでかろうじて免れました。
しかし集落全体では実に4分の1もの方が亡くなっています。特に避難を促していた消防団員の命が多く失われました。残された団員の奥さんや子どもたちを、何としても地域で支えていかなくてはいけない。被災した集落の再建が今後の課題ですが、私たちJAは農家に限らず、地域の人たち全員に寄り添っていかなくてはと思っています。と同時に、私たちが周囲からどれだけ多くの支援を受けているかということを、広く知ってもらうべきだと考えています。応援を身近に感じることができれば、必ず元気になれるはずですから。例えばビールを見たときに「キリンビールさんから支援を受けたね」と思い出すことで、湧いてくる力もあると思うんです。
ときに組合長として、組合員へ厳しい話をする場合もあります。しかし私自身が津波で何もかも失っていますから、被災した農家と同じ想いを共有できますし、また被災した組合員も、同じ立場の人間の言葉として、きちんと受け止めてくれます。ですから私は家族に、こう言っているんです。「津波ですべてを失ったけど、それでよかったんだ」と。そして組合員が元気でいるためにも、私自身がいつも笑顔でいようと心がけています。私自身、35年来のいちご農家ですから当然、いちごには強い思い入れがあります。疲れたときは営農センターにあるいちごの本を見て、いちご農家の方といちごの話をする。それだけでもう疲れが吹き飛んで、元気になれるんですよ。
現在は「それでも農業を続けたい」と考える人たちを支える組織が必要です。そこで農協では放棄された農地を集積し、賃貸借をしっかりと行うための仕組みづくりに着手しました。今回支援いただいた農業機械の活用をはじめ、施設の有効利用など、効率的な農業経営をを目指しています。
今後の営農は「従来通り」ではダメです。何事も挑戦するぐらいの姿勢でないと再建は難しいでしょう。当然、新たな取り組みを前にすると、誰しも不安に思うものです。それを解消すべく、現在、組合員の方々に向けた研修会を実施しています。農家の皆さんが、家族ぐるみで参加してくれている様子に「亘理の農家は大丈夫だ」という手ごたえを感じますね。何年か後、「あのときは大変だったけど、がんばってよかった」と振り返ってもらえるような体制づくりをしたいものです。そして将来、亘理を訪れた人が「本当に亘理はすばらしいね」と感心してもらえるような農地づくりをしていきたいですね。