岩手県7農業生産者団体贈呈式
岩手県7農業生産者団体贈呈式
日時:平成25年(2013年)11月26日(火)13:00~14:30
会場:キャピタルホテル1000 カメリアプラザホール
 
 今回の贈呈式は、震災で崩壊した後、平成25年(2013年)11月1日に陸前高田の町を一望する高台に新生開業した誓いのホテル「キャピタルホテル1000」を会場に行われた。
 岩手県の農業生産者の中から公募によって選ばれた7つの団体は、いずれも特色ある個性的な事業を展開している。彼らのプレゼンテーションを拝聴すると、岩手の復興に明るい希望を感じた。
主催者挨拶
 
キリンビールマーケティング株式会社 岩手支社長 吉田 健一
 
商品を通した復興支援
 
 私どもキリングループでは東日本大震災で被災された東北地方の復興に向けて「復興応援キリン絆プロジェクト」という取り組みを展開しております。このプロジェクトでは3年間で約60億円を拠出して、主に3つのテーマに、取り組んでまいります。1つ目は「地域食文化・食産業の復興支援」、2つ目は「子どもたちの笑顔づくり支援」、3つ目が「心と体の元気サポート」。この3つを中心に取り組んでおります。
 このうち「地域の食文化・食産業の復興支援」において、農業と水産業の復興支援に取り組んでおります。農業に関しまして2012年までに営農再開に必要な農業機械を支援させていただき、約5億2,100万円の助成をさせていただいております。また、本年2013年からは復興支援の第2ステージという位置付けで、地域ブランドの育成、また6次産業化に向けた販路拡大の支援、将来の担い手、リーダーの育成支援という、いわゆるソフト面を中心とした取り組みをしておりまして、これは復旧から復興へのお手伝いをするという目的の下に行っているものであります。
 そういった中で今回は岩手県で一般から応募をいただいた18件の団体から7件の農業生産者団体に対して、日本フィランソロピー協会の協力の下、合計1億2,700万円の助成をさせていただくものです。
 選考に当たりましては、特に3つの基準を重視しております。1つ目が地域の復興に貢献する事業であること。2つ目が再生を目指す地域ブランドが明確に打ち出されていること。3つ目が6次産業化への取り組みとして加工と販売に積極的に取り組む内容が盛り込まれていること。この3つを重視して対象案件を決定させていただきました。
 各団体様の事業計画を事前に拝見させていただきましたが、どの事業計画からも「自分たちが復興の牽引役になっていくんだ」という熱い思いがひしひしと伝わり、非常に共感するものがありました。是非ともここにいらっしゃる皆様が、復興の牽引役となっていただき、岩手の元気を広げていって下さいますよう心より祈念致します。
 ところでまだまだ支援が不足している地域や団体の方もいらっしゃいます。私どもキリンマーケティングといたしましては、商品や営業活動を通じて、少しでもお役に立てるよう日々活動を展開して行こうという気持ちです。先月(2013年10月)末には岩手県遠野産のホップをふんだんに使った「一番搾り とれたてホップ生ビール」が発売されました。また今月(2013年11月)5日には岩手県の果実を使った「氷結アップルヌーヴォー」という商品、また福島県の和梨を使用した「氷結和梨」という商品が発売となっております。これら3つの商品の売上1本につき1円が、東北の農業の復興支援に活用されるという仕組みになっております。
 私どもとしましては、一人でも多くのお客さまに、1本でも多くこれらの商品をご購入いただいて、まだまだ支援が必要とされている方々に、少しでもお役に立てればという思いでおります。
公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長 髙橋 陽子
 
故郷の復興に立ち上がる者の面構え
 
 皆さまとは、(2013年5月の)ヒアリングの時にお目にかかって以来だと思います。この「復興応援キリン絆プロジェクト」はその名の通り「地域の絆」「一人ひとりの絆」「日本人としての絆」を強めるためのプロジェクトでございます。
 ヒアリングの時を思い起こしますと、もちろんお作りいただいた事業計画書の内容も重要ですが、何が一番ポイントだったかといいますと「面構え」です。美男か美女かという話ではなく、本当の意味で皆さん「美しい」顔をしていらっしゃいました。それはこれだけの被災をした中で、ご自身の誇りと家族への愛、地域への愛を持って「もう一度地域のために頑張ろう」というパッションといいますか、熱意を持てばこその面構えなのだと思います。
 農業は被災を理由に衰退したのではなく、それ以前から衰退は始まっております。今こそ、日本列島の誇りである農業を復活させ、それを産業にして、次の世代へつないでいくことこそが、私たち日本人の役目だと思っております。
 その意味で、皆さまは大変大きな試練を乗り越えつつありますが、ぜひその気概をもって、地域のリーダーとなり、復興への道を進んでいただきたいと思います。地域が元気になり、皆さんが力を得ることが、次世代の子どもたちにとっての希望となります。是非かっこいい大人のモデルとして次の世代の子どもたちに農業への誇りと、ふるさとへの愛を伝えてください。
目録贈呈
 
内容説明
キリン株式会社 CSV推進部 渉外担当専任部長 伊藤 一徳
 復興支援第1ステージとして震災後から2012年まで、被害を受けた岩手・宮城・福島の農家の方々に対して、JAグループ様と連携し、稼働していない中古農業機械のリユースなどを行い、営農再開を支援してきました。その結果、支援金額は5億2,100万円となり、農業機械386台を購入いたしました。
 また2013年度からは被災地のさらなる農業復興に向け、復興支援第2ステージとして、農産物のブランド育成支援、6次産業化に向けた販路拡大支援を行っています。今回の助成は2013年1月から2月に実施した公募により選考された岩手県の7農業生産者団体に対して行われるもので、それぞれの復興プロジェクトにおいて農産物や加工品のブランドの育成、販路の拡大、情報発信などに対し助成するものです。岩手県の7農業生産者団体様の助成金額は次のとおりです。
特定非営利活動法人 イーハトーブとりもと 23,500,000円
事業生産法人 きのこのSATO株式会社 22,000,000円
農事組合法人 久慈山葡萄生産会社 4,500,000円
出崎地区産地直売施設組合 7,800,000円
株式会社 長根商店 25,600,000円
三浦青果 21,000,000円
農事組合法人 陸前高田ふれあい市場 22,600,000円
福島県 一般公募助成額合計: 127,000,000円
 なお、岩手県では別途県内の2つのJAに対し総額1億836万5,000円の助成を行っており、今回の公募分助成とあわせて、支援総額は
2億3,636万5,000円となります。
贈呈者:キリンビールマーケティング株式会社 岩手支社長 吉田 健一
    公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長 髙橋 陽子
 
事業説明
 
「被災者(障害者、農業者)雇用拡充による営農と地域ブランド品(レトルトカレー等)製造・販売の6次産業化推進」
特定非営利活動法人イーハトーブとりもと 理事長 小幡 勉 様
 
地域の農家に教わったタマネギ作り
 
 僕たちは「イーハトーブとりもと」と申します。岩手県宮古市で就労継続支援A型事業所を展開しております。その中で僕らの仕事は、カレー店と居酒屋の経営、そしてもう一つが「レトルトカレー」製造です。飲食店はその場でのサービスですが、レトルトカレー作りは地域で作ったものを大消費地に向けて発信できるという大きなメリットを持っています。
 僕たちは15年ほど前からレトルトカレー作りを始めまして、そこで4年ほど前に遊休耕作地がたくさんあることに気がつきました。そしてふと「カレーの原材料になるタマネギを畑で作れるんじゃないか」と思った次第です。
 カレーというのは皆さんご存じの通り、タマネギを炒めるところから始まります。僕たちはカレーを仕込むのに、年間約8トンのタマネギを消費します。これをなんとか自分たちで生産できれば、原材料費を抑えられるのと同時に、新しい製品が生まれるのではないかという思いで、タマネギの作付けをスタートしました。
 最初は何をすればいいのかわかりませんでしたが、地域の農業関係者の皆さんにいろいろご指導いただきながら、徐々にタマネギの生産ができるようになりました。最初の年はたったの700kgでしたが、ことし(2013年)は4トンものタマネギを収穫することができました。
 僕たちのタマネギは無農薬の有機栽培で作ります。実際作っていて驚いたのはその味。普通の八百屋さんで売っているタマネギとは味がぜんぜん違いました。野菜自体が持つ力、有機肥料の力、そして土が持つ生命力をひしひしと感じた次第です。
 
一人ひとりが夢をもって道を進んで行くことが、地域の復興の姿
 
 地域全体が復興するというより、一人ひとりが自分の道を見つけて夢を持って新しい方向を目指すのが地域復興。一人ひとりがそういう想いで取り組んで暮らすのが復興なのではないかと思っています。また、若い人たちにもっと農業に参加してもらって、例えば僕たちの有機栽培と同じ方法で作ったタマネギを、僕たちが買い取るといった、新しい形の連携が出来たらいいなと思っています。ただしそれには、僕たちが、自分たちでやっている農法をしっかり確立しなくてはいけません。これからしっかり勉強をして、地域の農業に携わっている人にも助けてもらいながら、新しい畑作りに取り組みたいと思っています。
 
土に学んだ共生社会
 
 近ごろはタマネギの種をひと粒ずつ採って、ポットに植え、苗作りをしています。これは本当に細かい作業なんですが、今後、こうして3万5,000個のタマネギを作る予定です。苗で購入するとかなりの金額になってしまいますので。8月の末に種蒔きして11月の半ばに苗を植え、6月に収穫をする予定です。
 農業で大事なのは設備ですね。当初は僕らも自分たちでトラクターを購入しなくてはと思っていたんです。でも実は周囲の農家の方は皆さんトラクターを持っていますし、農業委員会によって10アール5,700円で耕してもらえるという取り決めがあるのだそうです。ですからあえて自分たちでトラクターを所有することをやめ、その予算を別の場所へ回すことにしました。
 収穫したタマネギを使って作るレトルトカレーに、添加物は一切使用しません。チキンカレーは鶏のモモ肉をそのまま1本入れています。これはカレーが美味しくなるというのは勿論なのですが、授産施設で働いている方はほとんどが障がい者ですから、そうした方にも解りやすいよう、作業を簡素化した結果です。「モモ一本」なら、秤を使わず目で確認できます。
 これ以外にも、僕たちは障がいのある方にとって働きやすい環境を整備してきました。今回の支援で、手狭になったカレー工場を新しく建て替えます。これは車椅子の人も楽に動ける、バリアフリーの工場になる予定です。
 これからも知恵をしぼって、障がいのある方と一緒に楽しく働ける環境を作り、そして価値のあるより良い商品を作っていきたいと思います。
「地下水循環システムによる夏用肉厚しいたけの生産と輸出用冷凍しいたけの商品化」
事業生産法人きのこのSATO 代表取締役 佐藤 博文 様
 
地元に雇用を創る!
 
 津波の直後はどうしたらいいか何も分からない状況の中で、「我々の手でやれることをやり、復興をしよう」という大きな目標を立てました。そこに向け、今は一歩一歩前に進んでいるわけですが、今回のご支援により、その一歩が、大きな二歩や三歩になるのではないかと思っています。
 事業概要ですが、地下水循環システムを導入し、年間を通して肉厚なしいたけを生産、また冷凍技術を確立し加工品を海外に輸出するというのが目標です。
 平成23年(2011年)に、国からグループ補助金をいただきまして、新設のビニールハウスを17棟建てることができました。被災直後は、18棟あったビニールハウスの約半分が流されたため、残りのハウスだけで営農していました。そこに新たな17棟が加わることで、生産量も震災直後の約3倍になりました。また被災前はアルバイトが15人だったところ、現在は40名を超えています。
 弊社が当初立てた目標は、ビニールハウスの新設50棟と雇用100人を目指そうというものでした。これは3年3期の計画で進めているものでして、現在は1期目を終えたところです。雇用に関しては100人目標のところ、約半分まで達成するところまできました。
 新しいハウスを建てた場所は当初、ガレキがいっぱいで、田んぼも作れない状況でした。実を言うと40メートルの小山があったんですが、その山を崩して土を隣りの田んぼに移し、平らにしたところにビニールハウスを建てたわけです。
 
使用済み菌床を燃料にした地下水循環システムでビニールハウスの冷暖房費を下げる
 
 東北のキノコ農家にとって一番ネックとなるのが冬場の暖房です。弊社はこれまで灯油を燃やしてハウスを温めていたわけですが、これが経営を圧迫するコスト要因になっていたんです。現在は、灯油の価格も上昇していますので、いかにコストを下げるか、経営を安定させるかということも重要なポイントでした。そこで暖房に灯油ではなく木質の燃料を使うことにしたんです。要は「木を燃やす」ということです。当初は近隣の木をチップ化して燃やす予定でした。ところでキノコの菌床はオガクズを固め作っていますが、キノコを採り終えると菌床がどうなるかというと、基本的には廃棄処分です。もしくは、一年ほど寝かせて有機肥料にするというのがせいぜいでした。
 この廃棄する「使用済み菌床ブロック」を燃料に変えようというのが、今回導入する「地下水循環システム」の眼目になっています。冬はそれでコスト削減を目指します。最初に木質燃料で水を80度に温め、その水をパイプで循環させることで、ハウス内を温めるんですね。さらに夏は暑すぎると、キノコが育ちません。そこで夏場はパイプに冷たい地下水を循環させ、ハウスの温度を下げます。
 地下水というのは年間を通して15度前後と温度が安定しています。冬は、15度の水のほうが0度の水より早く温まりますし、夏は15度の水を循環させることで、ハウス内を冷却させることができます。この「地下水循環システム」には大きな期待を寄せています。
「ヤマブドウ樹液を原料とした化粧品の開発」
農事組合法人 久慈山葡萄生産組合 理事長 佐々木 茂 様
 
久慈伝統のヤマブドウの樹液を使用した化粧品開発で新事業展開
 
 当組合は1971年から42年間、無農薬のヤマブドウ栽培を行っております。今回の事業では、これから収穫するヤマブドウの樹液を原料とした化粧品を開発し、地域の活性化を図ることを目的としております。
 久慈地域(岩手県県北沿岸)は、震災の被害が深刻なエリアに比べ、規模こそ小さく収まっているものの、震災では実に大きなダメージを受けました。復興の兆しは見えておりますが、従前の状況に回復するには、相当年を要する現状があります。
 久慈ではヤマブドウの栽培を生業としている方がたくさんいらっしゃいます。しかし、利用するのは「果実」のみで、ジュースやワインに加工し販売するところがほとんどです。この場合栽培面積に応じて、生産高の限界が見えるわけでございます。そこで、従来にはなかったヤマブドウの活用法を見出したいというのが当事業の目的です。それが山葡萄の樹液の活用です。
 山葡萄の樹液自体は無色無臭で、非常にさらさらとしてきれいなものでございます。
 実はことし(2013年)、化粧水となる樹液を採取してみました。この樹液は1年のうちわずか2週間しか採取できません。この短い期間で採りませんと、蒲萄の果実に影響が出てしまいます。採取期間が短いということは、それなりの生産高を見込むには、どうしても栽培面積を増やさねばならないということになります。従って、雇用と、被災農家の農業復帰を進めることが重要になってきます。
 今の事業で目指しているのは今後、ヤマブドウの無農薬栽培地を20ヘクタールにすることです。今後5年計画で5名から7名ほどで事業展開することを考えております。地域ブランドとして、このヤマブドウ化粧水を「樹麗(きれい)な雫」という名称で開発をしていきます。私どものお客様は中高年齢層の方々が多いため、その顧客層に訴求する商品にしていければと思っています。
 この「樹麗な雫」に続く新商品を、大学などと連携をしながら開発し、ゆくゆくは産学連携ベンチャーの設立を目指します。今回の事業の中で、岩手県工業技術センター、東京農工大学、株式会社サティス製薬、株式会社スプラウツという4つの団体の協力をいただき、現在商品開発をすすめている状況です。いろいろな機関から成分分析の結果が出てきていますが、有機酸の種類や量が多く、アミノ酸の組成においても、化粧品素材として差別化できる可能性のあるものとなっています。
 日本、東北、あるいは岩手の中でも久慈市というのは歴史的に長くヤマブドウに携わってきた地域です。その久慈市から新たな産業を起こすということで、大きな意義を感じていますし、これを必ず成功させたいと思っております。
「地域ブランド『宮古のひっつみ』等の加工食品製造及び販路拡大」
出崎地区産地直売施設組合 佐々木 幸子 様
 
ひっつみでひっぱる女性パワー
 
 私たちは普段、自分たちが生産した野菜や加工品などを販売しています。そこへキリン様のご支援によって、かねてから切望していた加工施設が「トレーラーキッチン」という形で実現することになりました。
 今後は人と人との絆を大切にする私たちが、宮古で採れた農水産物のコラボレーションを創造し、ひっつみの時代の復活を目指します。南部小麦と、少量多品目の中山間地域で生産された野菜をふんだんに使い、前の浜で採れた魚介類をダシとして用いる「宮古のひっつみ」のブランド化を推進します。
 事業開始2年後は、「ひっつみ」に加えて、地元農産物を使った加工品を開発し、施設維持に必要な年商1,000万円以上を目標とします。また産直組合の加工組織を育成して、生産者個々人の収入増にもつなげていきたいと考えています。波及効果として生産者全体の収入増加につなげ、地域活性の原動力にしていければと考えます。
 震災前、「道の駅宮古 シートピアなあど」にある産地直売場には、お客様から「通路が狭い」といわれるほど、たくさんの花や野菜が並んでいました。ですが、震災で全てが波に攫われてしまったのです。しかし私たちは、そのままじっとはしていませんでした。
 震災直後の(2011年)4月29日から、宮古駅前広場のテント販売商店街に仮設店舗を設置しまして、販売を再開。と同時に、仮設住宅への移動販売を始めました。2トントラックに、自分たちで手作りしたボードに野菜と花を積んで、仮設住宅を回りました。そしてことし(2013年)7月6日に、「道の駅宮古 シートピアなあど」が営業再開を果たし、同時に私たちの産地直売場もリニューアルオープンすることになりました。そして現在に至っています。
 私たちは、宮古の農産品をもっとアピールしていくため、新たなメニューの創出をしようと思い至りました。そこで組合員とともに試作を重ねた末、今回の事業の基本となる「宮古のひっつみ」を作り上げたのです。ことし(2013年)10月5日、6日には、宮古市が主催する「第2回sea級グルメコンテスト」に出品。そこで見事グランプリを受賞することができました。
 
sea級グルメ:国土交通省の「みなとオアシス制度」で認定された全国の港の施設に水揚げされた海産物や、背後地域で地産地消される名産品を用いて作られた飲食物。
 
行動力! キッチントレーラーをアメリカから輸入
 
 次に、助成いただきました「トレーラーキッチン」についてご紹介します。私どもの産地直売場には、加工施設がございません。しかし生産物に付加価値を付け、さらなる集客と販売額を伸ばすため加工品に取り組むべきであると、毎年の年次目標に掲げていました。
 しかしそんな中で過日の震災が起きてしまいました。被災直後は「なんとか原状復旧だけでもしよう」ということで、営業再開までこぎつけましたが、それまで周辺にあった家もすべて津波で失われ、当然「以前と同じ」というわけにはいきませんでした。役員会では、販売をいかに震災前の状況に戻していくか、議論が交わされました。そんな折、6次産業化への支援があるとの情報を得て「提案が認められるかどうかはさておいて、応募すべき」との結論に至りました。さっそく、これをどう進めるかについての検討が始まりました。
 まず、港の借地に箱物を建てる許可は容易に下りないであろうこと。また維持経費もそれなりにかかるであろうことなどを考慮し、最終的に「キッチントレーラー」を導入することに決定しました。これは後から判明したのですが、こうした案件でキッチントレーラー使用の許可が降りたケースは、日本では前例がないとのことでした。またキッチントレーラーを国内で作っているところがないとのことで、名古屋の輸入業者を通じ、アメリカで製作することになりました。
 ッチントレーラー製作の打ち合わせに際し、加工施設としての機能を満たしていること、そして話題性があり、PR効果が期待できるデザインをというお願いをしました。輸入業者の方も私たちのコンセプトに大変共感していただき、最終的にはキリンビール様にちなんだ「ビールカラー(オレンジ)」に彩色することになりました。今後はこの車体をキャンバスに関係者で絵を描き、広告としての活用も考えています。中は2つに仕切られていて、1つは厨房スペース、もう1つは多目的に使えるスペースとなっています。トレーラーのみでエンジンがないわけですから、車検のコストも安く済みます。移動できる厨房スペースは、アイデア次第でさまざまに活用できそうで、夢もより膨らみます。
 
sea級グルメコンテストグランプリ受賞
 
 次に「何をするか」ということですが、いろいろ案が出た中で、私たちはあくまで野菜の生産者であり、またこの地方でよく食される身近なものを作りたいということで、この地方の郷土料理「ひっつみ」を作ることに決まりました。さらに「ありきたりなひっつみではなく、付加価値をつけるにはどうしたらよいか」と考えていたところ、「sea級グルメコンテスト」出場者募集の話を聞き、「具体的な目標があった方がモチベーションアップにつながる」と、参加を決めました。
 「sea級グルメコンテスト」は海で採れた食材を使用するのが前提となっています。「私たちが作るひっつみはこれだ」という直感の下、試作をはじめ、最終的には宮古の海で採れた海産物と、私たちの畑で採れた野菜を使い、「1日30品目の食材を」という厚生省の指針に沿う形で料理として完成しました。
 この「宮古のひっつみ」は、お椀の中に約20種類の野菜と海産物が入っています。魚介のダシに加え干ししいたけや昆布のダシ、そして野菜の旨みが溶けたスープに、伝統の南部小麦で作るひっつみ、サンマのすり身、イカ、ワカメなどをふんだんに入れ、お椀一杯でたっぷりと宮古を味わえるものとなっています。結果、この「宮古のひっつみ」は、sea級グルメコンテストではグランプリを受賞。全国大会への切符を手にしました。
 アメリカで作っていたトレーラーは先日、横浜港に到着しました。このあと愛知県で架装し、(2013年)11月10日に納車の予定になっています。私たちはこのキッチントレーラーで、ひっつみをはじめ地域農水産物を使用した加工品を販売し、地域ブランドとして育てます。また子どもたちの食育や、高齢者の健康な食生活の実現に寄与し、地域社会に貢献したいと考えています。
「洋野町発祥希少キノコ『三陸あわびたけ』のブランド化を軸にした6次産業化事業」
株式会社長根商店 長根 繁男 様(代理:山田 哲也 様)
 
三陸あわびたけの商業生産に愈々着手。洋野町の町輿こしにつなげたい。
 
 弊社は、山菜や天然キノコの加工製品製造と販売を事業とする会社です。会社は岩手県北の沿岸地域の洋野という場所に位置しています。この洋野町は、NHKの「あまちゃん」で全国的に有名になった久慈市の隣町で、「南部ダイバー」で有名な町です。海と山に囲まれた、自然豊かな環境が特長です。
 私どもは、平成15年(2003年)から「キノコの里づくり」として、天然キノコの収量増に向けた山林整備プロジェクトに関わってきました。この取り組みで、キノコの収量が増えたのはもちろんのこと、山林の環境がよくなることで川・海の環境改善にもつながりました。また、この頃から良質な食材による地域のブランド化にも取り組んできました。
 最近では平成15年(2003年)ごろから実験的に取り組んできた「アギダケ」の本格的な室内栽培に着手しました。アギダケは、中国のウイグル地区が原産地で、セリ科の植物「アギ」に寄生するキノコです。薬として珍重されてきた希少価値の高いものです。蒸しアワビに食感が似ていることから「三陸あわびたけ」と命名し、平成22年(2010年)3月に商標登録いたしました。キノコの特徴としては低カロリーで、セのない淡白な味。トレハロースやベータグルカンを含む、高い機能性をもったキノコです。
 食べ方としてはわさび醤油をつけて「刺身」で、また焼いたり炒めたりと、色々な料理法にもよく馴染みます。
 このキノコは一般的な生産方法では発生が難しいことから、弊社独自の栽培法によるオリジナル性を強くアピールできると考えています。
 生産施設は洋野町内の廃校校舎を活用し、町の新たな特産品を作り、裾野の広い産業のモデルを創出したいと考えています。「三陸あわびたけ」生産事業は、地域の新たな産業の礎として、町からも期待されております。地域住民と一緒になって取り組み、地元農林水産業と地域の発展につなげていきたいと考えております。
「日本一歴史のあるキャベツの町から協業による地域ブランドの構築」
三浦青果 三浦 大樹 様
 
自ら核となることで、域内食材の連携が具体的に進み出した。
 
 私どもの事業は野菜だけでなく、農場の野菜と地域の食材、地元で醸造した調味料を一緒のパッケージにして、お客さまへお届けするプロジェクトです。
 私ども三浦青果の農場では昔からキャベツや長芋、ニンジンなどの青果を生産してきました。私どもの農場がある岩手県岩手郡岩手町ですが、これまで120年にわたるキャベツ生産の歴史があり、現在「春みどり」という地域ブランドキャベツとして、売り出しております。また農畜連携や、商工連携の取り組みをいち早く始めた地域でもあります。
 私どもの事業の特徴としまして、町内・県内の食品企業と連携した商品づくりを行っていることが挙げられます。これまでも「キャベタリアン宣言」「ゆずれぬ想い」という商品名のドレッシングを開発し、非常に好評を得ています。岩手町は「焼きうどん」をご当地グルメにし、近ごろではB1グランプリにも出場しているのですが、それも農工商連携プロジェクトから発生したものです。
 課題として、ここ岩手町は「キャベツの町」でありながら、10月から翌年5月まで、キャベツの供給が途切れてしまうことがあります。また、野菜以外にも優れた肉や調味料がありながら、すべて別々に販売をしていたため「パッケージ型提案」という形でお客さまへ提供できていないということ、また野菜の規格外品の用途を見い出せず、そのまま廃棄していたことなどがあげられます。
 今回のプロジェクトでは「野菜の詰め合わせ」を発売する予定です。商品名・事業名が正式に決まりまして、私の名前をとって「DAIKITCHEN」となりました。三浦家の台所の美味しい食材を、お客さまの台所へそのままおすそ分けをするというコンセプトです。
 「キリン絆プロジェクト」の支援によって、商品の箱詰め施設を設けることができました。そこで三浦青果で採れた野菜や、岩手町の肉、調味料などを1つにパッキングし、お客さまへ直接ご提案をします。それまでは連携している企業同士であっても、商品販売に関してはまったく連携がとれていませんでした。しかし今後はこのシステムで、お客さまの食卓を直接プロデュースし、岩手町にある魅力的な食材情報を発信していく予定です。
 実はかねてからこのアイデア自体は出ていました。しかしどこが経営主体となって運営・管理をしていくかが決まらず、なかなか計画が前進しないという事情がありました。しかし今回、キリン様の助成が受けられることで問題が解決し、実行に移すことができました。私たち三浦青果が中心となって運営しますが、他の企業や町、県の関係機関とも連携をしながら進めてまいります。
 岩手町は食材の宝庫です。その食材を使い、お客様に対し如何に魅力的にアピールしていくかが重要な戦略になるのではないかと考えています。
「『北限のゆず』の未利用果実等の活用による震災復興プロジェクト」
農事組合法人陸前高田ふれあい市場 代表理事 佐々木 隆志 様
 
陸前高田に基軸を置きながら、岩手県域ブランド創出を狙う。
 
 今回の「震災復興プロジェクト」は農商工連携により、これまで利用されてこなかった自生のユズについて、その価値を発見し、商品化に取り組んだことに端を発しています。このユズの価値を地域であらためて共有し、県内外に発信していくことにより、「自生果木」から「栽培果樹」「特産果汁」の生産振興へと展開していくことを目指しています。さらにユズの果皮が活用されていないという現状から、今後はユズの先進産地や、ユズの商品加工企業に学び、ユズの果皮を活用した商品開発や、地元ならではの特産品開発を進めていきます。
 そして地域の中から「北限のゆず」として、陸前高田市の特産品としてのブランド化、そして復興のシンボルへと発展させることを目指します。
 ここ陸前高田市内にある米崎町では、町のあちこちにユズが自生しています。その起源は定かではありませんが、これまでは自家消費が中心で、地元ではユズの果樹としての価値を見出して来ませんでした。現在、経済生産・出荷されているユズは、宮城県気仙沼市が北限とされていますが、この事業により当地域で本格的な栽培や商品開発を進めることで、生態学上国内で最も北限で生育し、かつ経済栽培される「北限のゆず」の産地化が確立することになります。
 市および県の後押しを受け、(2013年)6月25日には「北限のゆず」の生産振興および商品開発、ならびにブランド化、復興シンボル化を進めることを狙い、「北限のゆず研究会」を設立しました。加えてそもそも柑橘生産県でない岩手県において、ユズの栽培技術の確立と生産拡大を狙い、このほど県農業センターでは県の生産振興果樹として新たにユズが位置付けられました。
 今後は行政の試験研究機関や国の支援を受けながら、ユズの産地の早期確立に向けた展開が進められることになっています。また県の試験研究機関との連携により、公的機関での試験研究結果や分析結果が共有化され、産地評価・指標として用いることが可能となり、データの信頼性も高まります。
 本事業申請をする前に「北限のゆず」プロジェクト展開に際し、プロジェクト名に「陸前高田」をキーワードとして入れるか入れないかという議論がありました。結論として「陸前高田」というキーワードを入れないという総意の下、「北限のゆず」プロジェクトが発進しております。
 その理由として、当地方がユズの日本における植物生態学上の北限ではありますが、実際は陸前高田市と一部大船渡市にまたがる地域となります。私たちは現段階で、事業展開上、原料となるユズが不足していること、そしてユズを1つのツールとし、市や地域の枠を超えて、被災地がともに復興再生し共栄していくことを考え、「北限のゆず」を陸前高田市のものと限定しないことを決めました。
 そして沿岸地域や近隣市町でユズ栽培を展開させることで、お客さまの要望に応え、農業振興が加速されるメリットを重視しました。陸前高田市が北限ユズの産地を目指すのではなく、岩手県がその産地となり、牽引役を担う「リーディング産地・陸前高田」を目指したいと考えます。
 本プロジェクトはそもそも、二戸市にある酒造会社「南部美人」様によるユズの紹介に端を発しています。外からみんなに救われ、外からも内からも支えられたからこそ、震災で憔悴しきった市民も、明日を目指して何かをなそうと思えたわけです。よって本プロジェクトは基軸を陸前高田におきながらも、「北限のゆず」ブランド化に向けた志に賛同いただける岩手県等の企業と連携し、連携企業の資本力や技術力、販路やネットワークを勉強させていただき、お客さまに支持される本物のブランドとして、「北限のゆず」を育てていければと考えています。
懇談会
 式典の後、軽食とキリンビールによる懇談会が持たれた。
 会の冒頭ではキリンビールマーケティング株式会社岩手支社長・吉田健一と、公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長・髙橋陽子より、それぞれの事業計画の発表を称える言葉と、今後の事業展開と町の復興に寄り添い、ともに発展していきたいとの意向表明、更にこの場を利用し事業者同士でネットワークを構築してほしいという期待を寄せる挨拶があった。
《インタビュー点描》
 
三浦青果 三浦 大樹 様
 
外から中を見る。私は根っからの営業マン
 
 私自身はもともと仙台で飲食の仕事をしていたのですが、食の大切さに気付いたのをきっかけに、家業である農業を継ぐために岩手県岩手町へ戻ってきました。ことし(2013年)で農業に就いて4年目になります。
 農業についての知識はまだまだこれからですが、自分のできることは大いにあると思っています。農業の現場は、プロモーションなどセールスに関する部分が弱いですよね。ですから「出たがり」で人と話すのが好きな自分が、その部分をカバーできるのではと考えています。簡単に言うと広報・販売担当ですね。
 さまざまな場所で、いろんな業界の方と話をすることは、非常に勉強になります。なんにせよ「外から中を見る」ことが大事だと思っています。例えば飲食店やIT系の経営者にお話を伺うと、さまざまな発見があり、意外なヒントが見つかったりします。領域は違えど、「営業」という意味では、どの業界も一緒ですからね。
 うちの農場での野菜作りは「土作り」が中心。「野菜は土から根っこから」というポリシーでやっています。どんな植物でも、すべては「根っこの結果」。そこには土の菌の働きが大事なんです。
 岩手町では畜産も盛んなので、良質な堆肥が手に入ります。それらを畑に還元しながら、人間が食べるものを作ることで、良好な循環が生まれています。
 肥料はほぼ自家製です。牛糞や米ぬか、魚のカスやボカシ肥を入れ、自社で冬から春の間に仕込みます。農地の広さは全体で60ヘクタールぐらい。作付け品種は15種類から45品種ぐらいあると思います。具体的には一部のハウスも活用しつつ、キャベツを中心に、水菜、トマト、ホウレンソウを作っています。
 すべてが有機栽培ではないですが、全体的に「減農薬」で作っています。有機栽培は全体の1割程度の農地で作っています。そのあたりのバランスが難しいと感じています。
出崎地区産地直売施設組合 組合長 佐々木 幸子 様
 
待つのは苦手。とにかく動き出す。
 
 今回の事業は、手を差し伸べられるのを待っているのがとにかくもどかしく、「自分たちでできることを、なんでもいいから始めよう」いうところからスタートしたものです。完成した「宮古ひっつみ」汁は、地場産の野菜が10種類、海鮮が7種類ほど入る、具だくさんなものになりました。ダシにしても新鮮な海鮮をたっぷりと入れて取ったものなので、かなり贅沢な味わいですよ。汁物としてではなく、それ1品で主食も兼ねる「ヌードル感覚」で食せるものに仕上がったと思います。
 先日の「宮古市第2回sea級グルメコンテスト」でのグランプリ受賞を受け、来年(2014年)の夏ごろに開催される全国大会にも参加が決まっていますが、今から「移動の足はどうしよう?」など、喜びの中で悩んでいます。
 「市内のどこで食べられるのか」という声をたくさんいただいてはいるのですが、まだ核となる施設がないため、今のところはイベントへの出店に留まっています。しかしもちろん、ここまでやったのですから、常設で販売できる体制を作りたいですし、そのための働きかけも行っています。先日のsea級グルメコンテストでは、カップラーメンの空容器にたっぷりよそって300円で販売しました。かなりボリュームがあるので、みなさん「赤字にならないの?」とおっしゃるんですが、実は原料としているのは、自分たちで作る野菜のうち、味には問題ないが市場には出せない「規格外」のもの。ですからとにかく原価が抑えられるんです。今後もそのぐらいの価格で提供できるといいなと思っています。ぜひいろんな人に味わっていただきたいですね。
特定非営利活動法人イーハトーブとりもと 理事長 小幡 勉 様
 
スパンの長い農業と、スパンの短い料理の組み合わせで、事業に創意工夫
 
 私たちが製造するレトルトのチキンカレーには岩手県産鶏のモモ肉を使っています。またビーフカレーには同じく県産牛のスネ肉を、またタマネギを炒める油も陸前高田のなたね油を使っていたり。岩手にはたくさんおいしい食材があるんですよ。もちろん添加物は一切使っていません。なぜ他所では食品添加物を使うのかといえば、短時間で安価に旨みを出すため。私たちはそれに対し、良質な素材に手間をかけることで対抗するというスタイルなんです。
 現在タマネギ作りには40アールほどの広さの畑を使っています。事業計画でも触れましたが、以前は買ったタマネギ苗を植えていたんです。でもあの苗って結構高価で、1本9円ぐらいするんです。3万本植えると27万円にもなるのですから、バカになりません。そこで「苗作りも自分たちでやってみよう」ということになり、昨年(2012年)は作付面積の半分ぐらいに自分たちで播種して作った苗を植えることができました。
 農業ってスパンがすごく長いでしょう。料理は「あれ、塩味が足りないな」となれば、塩を足せばいいんですが、農業だと改善策を見つけても、それを実施するのは1年後になる。でもそうやって試行錯誤しながら、「じゃあ次は、春蒔きの苗を作ってみようか」など、いろいろなチャレンジをしているところです。作りながらノウハウを蓄積している状態です。
 一方で授産施設経営の側面もあります。障がい者の方たちは通常、私たちの経営する飲食店に従事していて、農作業が必要になったときに、適宜手伝ってもらう形をとっています。いろんな要素を組み合わせることで利益をうまく生み出し、障がい者の方たちの労働に対価を支払うための仕組みも、しっかり回せています。
 今後はタマネギづくりのノウハウをしっかりと確立させ、近隣農家の方にもお手伝いいただく体制を整えたいと考えています。作ったタマネギは100%こちらで買い取り、安心して作っていただけるようにしたいですね。一方、当方はタマネギの確実な収量を確保し、レトルトカレーに「自家農園のタマネギ100%使用」と謳えるようになります。また「炒めタマネギ」はカレーに使用するだけでなく、そのままパッケージして飲食店に卸すことができないかなど、さまざまな展開を考えているところです。
事業生産法人きのこのSATO 代表取締役 佐藤 博文 様
 
冷凍しいたけで海外を狙う
 
 美味しいしいたけを作るための条件として大切なのは水と温度と空気です。これらを調整することで、天然のキノコが発生しやすい状態を通年保っておくわけです。
 菌床しいたけと原木しいたけですと、一般に原木の方が天然に近いというイメージを持たれがちですが、実は原木しいたけの土台には菌床しいたけの種を植えています。なので現在の「原木しいたけ」は「原木の土台を使った菌床栽培」になるので、結局のところイコールですね。菌床の土台は一度木を砕いてから固め直すんですが、そこに穀物を入れるんです。それがしいたけを大きくする栄養になるので、実際は寧ろ菌床しいたけの方が味が濃く、おいしくなるんです。
 今回、冷暖房施設である「地下水循環システム」のほか「急速冷凍機械」も導入しました。これは、海外へしいたけを輸出をする際に使用する目的で導入したものです。生しいたけの場合、税関での輸出入手続きが1カ月以上かかってしまうんです。しかし冷凍すると「加工品」の扱いとなり、商品に賞味期限のシールが貼れるため、税関での手続きが格段に早くなります。さらにこの冷凍機械は80℃をマイナス20℃まで一気に下げることのできる優れもの。実は菌が一番“いたずら”をする30℃が危険域なので、その温度に極力晒さないようにすることもできます。
 この輸出が軌道にのれば、これまでの生産量では絶対数が足りなくなります。そのためにしいたけ栽培に向かないとされる夏場も、安定して収穫できるように「地下水循環システム」を稼働したいという側面もありました。現在こうして、一歩一歩着実に目標に近づいている状態です。
株式会社長根商店 山田 哲也 様
 
十年の研究が奏功。震災の窮地を三陸あわびたけで突破する
 
 この「三陸あわびだけ」は元々、うちの会長が中国で見つけてきたものでして、現地でも希少価値の非常に高いキノコです。発生させるのが大変難しく、弊社でも10年ぐらいかけてようやく発生させることができました。さらに培地にアワビの殻を練り込むことで、味わいを良くし、機能性も高めています。
 培地に練り込むアワビ殻は地元産のものが中心です。細かく粉砕して培地に練り込むことで、発生するキノコにミネラルやカルシウムを吸収させることができます。
 三陸あわびだけは、1つの培地に1本しか発生しません。それに栄養をたっぷりと吸わせながら4か月ほどかけて育てます。これまでは地元の廃校舎を使って栽培していたのですが、これでは温度管理がままならず「計画生産」ができませんでした。しかし今回の支援で温度管理ができる施設が整ったため、月単位で生産できる目処がつきました。
 現在の出荷先は関東の料理店が中心。あとは地元の産直にも置かせていただいています。食べ方としては軽くボイルして、わさび醤油で食べるのがおすすめですね。召し上がった方からは「本物のアワビかと思った」という感想をいただいたりもしています。今後、生産環境が整ったことで生産数量が上がり、販路をもっと拡大していけるのではないかと考えています。ぜひ一人でも多くの人に召し上がっていただきたいですね。
農事組合法人陸前高田ふれあい市場 代表理事 佐々木 隆志 様
 
「北限のゆず」のブランドづくりに邁進
 
 もともと陸前高田の周辺では、庭木としてユズを植える習慣があったようです。そして家庭で、お風呂に浮かべたり、お吸い物に削って入れたり、ジャムを作ったりという使われ方をしていたみたいですね。
 現在私たちが商品化したものとしてはユズ酒、ユズピューレ、ユズをねりこんだチーズケーキやクッキーなど。現在は地元を中心に消費されていますが、今後はもっともっと販路を増やしたいです。
 現在、岩手県内のメーカーなどから果皮の加工品を作りたいという引き合いが幾つか来ています。今後は企業さんとタッグを組んでさまざまな新商品を作り、産直などで購入できるようにしたいと考えています。
 現時点では「北限のゆず」のブランディングに注力しており、加工品を自分たちで作るというのはその次の話になると思います。まず、ホームページを作成してPRをしたり、イベントを催すなど常時話題作りをして、定期的に情報発信していけるよう、組織をより良く整えていきたいと思っています。
《御礼挨拶》
 最後に、キリン株式会社 CSV推進部 渉外担当専任部長・伊藤一徳より、この事業計画を継続的な活動にしていってほしい、またキリンとしても今後もフォローアップを続けていきたいと挨拶があり、懇談会は終了した。
 野菜と肉の事業者の連携、地元食材をふんだんに使った庶民的料理、近隣農家の野菜の仕入れ、海外販売も視野に入れた雇用を拡大、長年の研究の成果と地元水産資源との連携による町興し、庭先の自生植物に新しい光を当てる試み。いずれも今出来ること、今持っているモノから出発し、十数年先の未来を目指す取組であった。この事業活動の先には必ず復興が成し遂げられると確信した。
 
生産拠点見学
 
事業生産法人きのこのSATO
 式典と懇親会を終えた後、会場より車で数分のところに位置する「きのこのSATO」のビニールハウスとパッキング施設の見学を行なった。
 キリン絆プロジェクトの支援で導入された「地下水循環器システム」は、ハウス内に巡らせたパイプに、冬期には80度に温めた地下水を通じ、ハウス内を温める仕組みである。この地下水を温める装置は木材を燃料としており、使用済みとなった菌床を燃料に利用することができる。
 また、しいたけのパッケージ作業も見学させていただいた。職員がしいたけを手で選り分け、トレイにのせ、ラップをかけてシールを貼るという工程が、見る見るうちに進んで行く。
 同社では今後、しいたけの収量をさらに増やし、将来は海外への輸出も睨んでいるとのこと。こうした展望の中、生産工程の効率化は不可欠である。
 1年前、津波で破壊され何もなくなった海岸の町を、小高い土地から見下ろしながら、佐藤社長が、こうなったら、ここをキャンバスと見做して、町を描くしかないと話していたことを思い出した。設計業で経験を積んだ佐藤社長の脳裏には、十年後の陸前高田の町のドラフトが描き出されていたのかも知れない。高台にある新生キャピタルホテル1000のすぐ下の土地には、既に新しく、きのこの栽培施設と出荷施設が完成していた。ドラフトに着実に彩色が施され始めていた。
2013.11.26「岩手県7農業生産者団体贈呈式」おわり

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