伊達のあんぽ柿試食アンケート調査
がんばっぺ!!あんぽ柿協議会
伊達のあんぽ柿 キリングループ本社 試食アンケート調査
日時:平成28年(2016年)2月3日(水)15:00~17:30
会場:キリングループ本社/中野セントラルパークサウス18階 Nagomi
 
 福島県の北部に広がる福島盆地は、古くから桃や梨、ブドウやリンゴといった果実の栽培が盛んに行われてきた土地である。
 春には果樹の花が咲き競い、盛夏から秋にかけての季節には、多種多彩なフルーツが実を結ぶ。やがて秋が深まり、風が冷たく感じられるころになると、盆地東部の伊達市梁川五十沢地区では伊達地方伝統の特産品「あんぽ柿」づくりが最盛期を迎える。
 伊達の「あんぽ柿」は、皮をむいた柿を天日に干してつくる「天干し柿(あまぼしがき)」が語源という。古くは18世紀半ばからつくられ始めたといい、大正年間に確立された「硫黄燻蒸(くんじょう)製法」の採用から数えると、すでに94年の歴史がある。
 地域には約25万本の柿の木があり、約900軒の生産農家は柿の実を丁寧に切り取り、一つずつ皮を剥いて実が触れあわぬように吊るし、風通しのいい小屋などで約1カ月間干す。天然の甘みが凝縮され、とろりと柔らかく、上品な和菓子のような味わいが特徴である。
 
 しかし、2011年秋、「あんぽ柿」は、東日本大震災発生に伴う原発事故の影響により、その長い歴史の中で初めて生産を自粛。自粛期間は2年間続き、その休止期間は、生産意欲の減退や後継者問題、風評によるブランド力低下といった課題をも浮き彫りにしてしまった。
 こうした中、伊達の「あんぽ柿」を完全復活させ、伝統の技と味の確実な維持と継承を目指す生産者らは、2015年、プロジェクトチーム「がんばっぺ!! あんぽ柿協議会」を結成。2015年11月には「復興応援 キリン絆プロジェクト」農業支援事業の助成を受けて、「あんぽ柿」を核とした地域産業の創造と一層の発展と、伝統の食産業・食文化である「あんぽ柿」の維持・向上・発展を目標とした活動を開始している。
 
 2016年2月3日、同協議会は、東京都中野区にあるキリングループ本社において「あんぽ柿」の試食会とアンケート調査を実施した。これは、震災以前の東京市場では干し柿のシェアの約半分を占めていた「あんぽ柿」を、もう一度ブランドとして確立させるために、新たな販売や消費のスタイルを探る試みの一環である。
 試食会は二部構成で行われた。モニターはキリングループの社員。第一部では20代から30代の、第二部では40代から50代以上の社員が参加した。
 試食の比較対象としては、JA南信州(長野県)の「市田柿」が用意された。乾燥歩合が50%の柔らかな「あんぽ柿」に比べ、「市田柿」の乾燥歩合は25%で、表面に白い粉が吹いた「ころ柿」と呼ばれる種類のものだ。
 アンケートでは、生柿の好み、干し柿の好み、食べる頻度、購入意志、購入する際の価格帯、放射性物質に関する質問などが設定されていて、社員たちは2種類の柿を食べながら回答欄に記入していった。
1. 事前準備
 会場では「伊達のあんぽ柿」と「市田柿」を用意し、それぞれ包装から取り出して小皿にのせた。見た目の違いが歴然としているため、産地を伏せた形でのアンケートではなく、産地・銘柄を明示して比較した。
 今回、アンケート調査を実施したのは、「がんばっぺ!! あんぽ柿協議会」のリーダーであり、あんぽ柿生産部会長である宍戸里司氏、同協議会事務局を担っているJA伊達みらいの清野公弘氏、アンケートの調査設計を担当する「福島大学うつくしまふくしま未来センター」の小松知未先生ら6人のチーム。
 アンケート回答者は、2種類の小皿を受け取り、調査票に記入する。
 
 アンケート調査票は、7ページの綴りで6部構成となっている。試食前、試食後、または試食しながら、それぞれの質問に回答するという構成だ。
 
第1部:性別、年齢、世帯構成、居住地、出身地など「回答者の属性」
第2部:ドライフルーツや和菓子の好みなどを尋ねる「関連商品について」
第3部:「干し柿について」
第4部:「あんぽ柿」と「市田柿(ころ柿)」それぞれの認知度を探る「あんぽ柿について」
第5部:「あんぽ柿」を食べるシーンやイメージを尋ねる「あんぽ柿の潜在的需要と販売戦略」
第6部:「放射性物質の検査について」
 
 今回のアンケートは、「『あんぽ柿』というものが、実はあまり知られていないのではないか?」という前提のもとに行われた。丹精を込めてつくってきた「あんぽ柿」。東京の消費者にどう受け止めてもらえるのか、期待を膨らませながら準備を進めた。
2. モニター調査 第一部
 午後3時、試食会の第一部がスタートした。
 調査に協力する20代から30代の社員が会場に集まってきた。カウンターで「あんぽ柿」と「市田柿」を載せた2つの小皿を受け取り、アンケート調査票と飲料水が用意されたテーブルに着席。着席場所は自由で、同じ部署同士や親しいグループごとに席を取った。
 
 試食の前に、「がんばっぺ!! あんぽ柿協議会」の宍戸里司リーダーからアンケートへの協力についての挨拶があった。また、小松知未先生からは「厳しいご意見がいちばん参考になります。忌憚のない感想をお書きください」とアンケート記入についてお話があった。
 
 参加者は、それぞれの柿を少し食べ、味や食感を確かめて、イメージを言葉に置き換えたり、率直な感想を語り合ったりしながらアンケート用紙に向かった。どちらの種類も甘みが深く濃厚なので、一口ごとに用意された水を飲み、一方の風味を消しながら、ペンを走らせる。
 20代・30代の若いグループには、干し柿を食べたことがないという人も少なくなかった。多種多彩なフルーツやお菓子に囲まれて育ってきた世代は選択肢が多く、おやつに干し柿を選ぶという機会はあまりなかったのかもしれない。
 そんな中でも「おばあちゃんの味」「なんだかホッとする甘さ」といった声も聞こえてきた。
 「わっ、柔らかい。」
 「あんぽ柿ところ柿・・・。干し柿って一種類じゃなかったんだ。」
 「干し柿っていう一般名称だと思ってたけど違うんだね」
 「あんぽ柿はフルーツ。ころ柿はお菓子って感じ。」
 「こんなに小さくなるの? 原型が見たい。」
 「甘味がまとわりつかなくて、すうっと引いていく感じがいいね。」
 「買って帰ってお母さんにも食べさせたい(笑)。」
 第一部の若い世代には、「干した柿」そのものが新鮮に感じられていたようだった。また、干し柿にも種類があるということを知って少なからず驚いていた。
 そのあと「がんばっぺ!!あんぽ柿協議会」事務局の鈴木優志氏から、協議会の活動と「伊達のあんぽ柿」の歴史、製法、生産に携わることの志やプライド、「あんぽ柿」と「ころ柿」の違い、他所にはない鮮やかな色あいと大きさであること、などについて説明があった。
 
 テーブルには開封前の「あんぽ柿」と「市田柿」のパッケージもサンプルとして置かれた。放射能検査上での理由などからパッケージの変更等には制約もあるが、将来的にはパッケージを変えるといった構想もあるという。
 また、見た目の印象では「あんぽ柿」よりも「市田柿」のほうが一般的な「干し柿」のイメージだったと言う人が多く、「こんなに大きくて原型に近い干し柿もあったんだね」と「あんぽ柿」に驚く人も多かった。
3. モニター調査 第二部
 午後4時30分からは調査の第二部が行われ、40代から50代以上の社員が会場にやってきた。
 第一部と同様にアンケートに関する説明などが行われたあと、さっそく試食アンケートへ。若い世代とは反応も違って、「これこれ」「うん、懐かしいね」といった感想が聞こえてきた。
 ただ、やはり干し柿への一般的なイメージとしては、白い粉を吹いた「市田柿(ころ柿)」が優勢で、「あんぽ柿」については「知っている派」と「初めて派」に分かれた。
 
 「あんぽ柿って、・・・私が知ってる干し柿とは違う。」
 「うん、こっち(ころ柿)みたいなシワがいっぱいのイメージだよね。」
 「でも、干し柿、久しぶりに食べた。うんうん、こんな味。」
 「生柿よりも干し柿が好き。」
 「あんぽ柿の口どけ感は、バナナみたい。」
 「なつかしい。おばあちゃんの味だね。」
 また、他の食材や飲料との相性などについて語り合う声がたくさん聞こえてきた。
 「チョコレートに合いそう。」
 「スパークリングワインに合わせたい。」
 「ビールならスタウトかな?」
 「いぶりがっことか、どう?」
 「クリームチーズもいけそう。」
 「なつかしい」という声も多かったが、半熟に仕上げられた「あんぽ柿」の柔らかさと形、大きさに驚く人も少なくなかった。
 「干し柿のイメージを覆された」という声もあり、知られていない反面、認知度を高めていく過程には、驚きと笑顔を提供できそうな、そんな楽しみも多くありそうである。
 また、会場の一角には販売コーナーも設けられ、商品を買い求めた人からは「家族にも食べさせたい」「朝食のヨーグルトに入れてみたい」「あんぽ柿の柔らかさのファンになりました!」といった声が聞かれた。
 「がんばっぺ!!あんぽ柿協議会」では、集計されたアンケートの結果から「あんぽ柿」のブランド力の強化や、食べ方の提案、二次加工品の開発、新規顧客獲得の条件などを探り、今後の新たな販売戦略の方途に繋げていく考えだ。
 
 ぽっちゃりと愛らしい形、鮮やかな色あい、果実本来の天然のやさしい甘さ、そしてジューシーな歯触りと舌触り――。冬日の光と風の中で、伊達の人々が守り続けてきた伝統の技とおいしさが、春の陽光のように、きっとたくさんの笑顔を咲かせてくれるに違いない。
《インタビュー点描》
キリン株式会社 コーポレートコミュニケーション部 東向 悠
 私・・・実は柿が苦手で(笑)、干し柿も今日初めていただいたのですが、でも、自然な甘さとジューシーな食感にビックリ。きょうは新しい発見ができました。2種類の中では、私は「あんぽ柿」の天然の甘みがやさしくて食べやすいと感じました。
 比較するなら「ころ柿」はお菓子感覚でお茶が欲しくなりそう。「あんぽ柿」はフルーツに近く、例えば朝食にしてもいいかなって思いました。
 干し柿イコール高齢の方・・・というイメージがありましたが、子どものおやつにも安心だし、いろいろなアレンジや組み合わせも試してみたいです。
 私の場合は干し柿との出会いがなかった。でも一度食べた人はきっと好きになる味だと思います。そして食べ方やシーンの提案も伺いたいです。多くの方に知ってほしいおいしさだなって思いました。
《インタビュー点描》
キリン株式会社 CSV推進部 大柴 真紀
 徳島県の実家では、「あんぽ柿」風の半生の干し柿を作っていたので、とろりとした干し柿の味に慣れています。きょうは懐かしい味と再会できました。でも、やっぱりプロの方が作ったものは色も形も違ってキレイですね。「あんぽ柿」はもっと甘いのかなと思いましたが、すごく自然な感じです。
 きょうの試食会のテーブルでは、このまま食べてもおいしいけれど、お酒やほかの食材と合わせるなら何がいいかな? なんて話し合いながらいただきました。私はグラノーラのサクサクと「あんぽ柿」のとろり感を合わせたら面白いかな? なんて思いました。
 私はころ柿っぽい、ちょっと固めの干し柿を入れたパウンドケーキを作ったこともあります。同じテーブルでは生ハムと合わせてワインで・・・って言っていた人もいましたね。とろりとした食感は、上品なデザートみたい。もちろんこのままでもおいしいです。
《インタビュー点描》
キリンビジネスシステム株式会社 経営管理部 小関 明美
 「あんぽ柿」の第一印象は『大きい』でした(笑)。両親が山形県の出身なので、干し柿は子どものころはよく食べていましたが、タイプとしては「ころ柿」でしたね。
 「あんぽ柿」は食べ応えがありました。食べきれるかな? なんて思いましたが、でもおいしくいただくことができました。また、どちらもちょうどいい甘さでしたが、舌に少し甘さが残ったのはころ柿の方ですね。
 同じ席では、お料理に使うならこんな食べ方かな? なんて話も出ましたが、私はもうこのまま、デザートとして食べるのがおいしいと思いました。生柿はサラダに使うこともありますが、「あんぽ柿」の食感なら、このままでお菓子のようにいただくのがいいですね。
《インタビュー点描》
キリンビジネスシステム株式会社 経営管理部 坂井 寿子
 干し柿は店頭で見かけることはよくありましたが、購入したことはありませんでした。きょうは『どんな味だろう?』と興味があって参加しました。干し柿自体は食べたことはあるのですが、でも、とろりとした食感の「あんぽ柿」は初めてでした。
 甘さは、ほどよくておいしかったのですが、でも、大きかったので、途中でしょっぱいものが欲しいなって思いました。飲み物なら、例えば濃い緑茶とか、お砂糖を入れないコーヒーや紅茶など、苦めの飲み物と一緒に食べてもおいしいかな?
 お料理に使うとしたら、小さく刻んでサラダに入れて見たいと思いました。リンゴのような感覚ですね。また、大きさ的にも、そしてカロリー的にも朝ご飯にこれ一個食べるというのもいいかもしれません。甘い菓子パンよりもきっと身体にもいいはず(笑)。夏は凍らせてもおいしそうですね。
《インタビュー点描》
がんばっぺ!! あんぽ柿協議会 リーダー 宍戸 里司 様
 ヒントを与えすぎることができないアンケートじゃなかったら、もっと「あんぽ柿」の話をしたかったです(笑)。
 「あんぽ柿」は、若い方よりも年配の方に好まれている現状があります。販売と消費ということを考えた場合、若者向けの商品や食べ方の提案がもっと必要かなと考えています。
 先日は銀座で西洋料理のシェフの方にさまざまなアレンジを考えていただいたのですが、とても斬新な料理ができあがり、これなら若い方にも食べてもらえるのかなと思いました。個人的にはコンポートにしていただいた料理とお酒が合うなと感じましたね。
 また、自宅では冷凍にして薄くスライスしたものも食べていますが、本当においしい。自然の羊羹ですよ。これは今後、ぜひ提案したいです。
 あとは、小包装にして1個売りなどしたいですね。5個だと多いという方もいます。
 「干し柿」は日本の食文化です。干すだけでおいしさが増して栄養価も変わってくる。不思議ですよね。そんな文化を伝え残していくのも私たちの役目なのかなと感じています。
《インタビュー点描》
ふくしま土壌ネットワーク副代表
うつくしまふくしま未来支援センター特任准教授 小松 知未 様
 震災以前には、どういう消費者がどういうシーンで「あんぽ柿」を食べていたか・・・というデータが皆無でした。それなりに安定的に販売はできていたのですが、購入された方の年代、性別、食べ方、感想・・・。どんな消費者にどう届いていたかが分からない。
 そうして2年間のブランクのあと、販売を再開し、生産量も75%、80%、90%と増えていったとき、どれぐらい売れるか、元の棚に戻せるかどうかは、実は「やってみないと分からない」という状態です。今回のアンケートの設計もそこが難しかったです。
 「購入者はきっと年配の女性かな?」というイメージで考えていた包装や販路といった選択肢を一度取り払って、例えば若い人、和菓子好きの人、フルーツ好きな人・・・など、全く新しいマーケットを想定して工夫するというのは初めてです。
 なので、加工技術がないとか、追いついていないことも含めて、時間をかけて新しい顧客を獲得すること。それをイメージして設計しました。
 「年配の女性」だけを頼りにしていては、いずれ販売量にも限界があります(笑)。ここはひとつ新しい展開を今から準備したいなと思います。
 きょうのアンケートも速報を見てみると、大きすぎる、食べにくい、パッケージが古風といった声もありましたが、味については高く評価していただいたと感じました。また「こうした方がいい」というご意見も具体的に記していただきましたので、可能性のある商品だとあらためて気付かされました。
《インタビュー点描》
がんばっぺ!! あんぽ柿協議会 事務局 清野 公弘 様
 きょうはモニターの方への販売も行い、言葉を交わす機会もありましたが、年代によって認知度が違うのかなということをあらためて知らされた感じでした。
 また、「ころ柿」イコール干し柿だと思っていた人、「あんぽ柿」の名前は知っていたけれど見たのも食べたのも初めてという方が案外多いんだなということも分かりました。特に若い方への認知度はまだまだ低いですね。でも後半の40代以上の方々では、販売ブースにも行列ができるほどでした。昔はあまり好きじゃなかったけれど、この年齢になって改めて食べてみたらおいしかった・・・。そんなふうに感じていただけたようにも思います。
 若い方はあまり食べない・・・ということは、逆に言うなら潜在的なマーケットはまだまだ広いということですよね。ご存じないという方に、どうやって知ってもらうか、食べてもらうか。きょうのアンケートで、そこに関するヒントがもらえているとうれしいです。
2016.02.03「がんばっぺ!!あんぽ柿協議会/伊達のあんぽ柿 キリングループ本社試食アンケート調査」おわり

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