前回・次回
・これまでの贈呈先
社会に役立つ寄付を行なった人を顕彰する『まちかどのフィランソロピスト賞』。2002年度は、55件の推薦の中から、贈呈先に次の2名が決まりました。
贈呈式は、2002年11月6日(水)に学士会館(東京都千代田区)にて開催しました。
◆ まちかどのフィランソロピスト賞
西脇 麻耶(にしわき まや)さん
(東京都千代田区)
<贈呈理由>
 
西脇麻耶さんの最愛の夫・西脇和昭氏は、米国会計事務所アンダーセンのパートナーとして働き盛りの48歳の時、肺がんに侵され、麻耶さんの1年半に及ぶ献身的な看護もむなしく亡くなった。悲しみに打ちひしがれる麻耶さんに資産の整理、遺産相続などの現実がぶつけられた。和昭さんは、老後の生活のために不動産をいくつか取得しており、さらに生命保険がおりて遺産は莫大な金額になった。これを手にした麻耶さんは、「こんなにたくさんのお金があっても無駄。せいぜい老後に慎ましく暮らしていけるだけのお金があればいい、何かの役にたてたい」という思いを持ったという。
 
生前の和昭さんは、大変な努力家・勉強家であったらしい。三菱重工の経理部に勤めながら、公認会計士の資格を取ってアンダーセンに転職したのだが、麻耶さんはその猛勉強ぶりを目の当たりにしていた。がんの闘病中も、ご本人は助かるものと信じていたので、宅建や情報処理の資格を取得、将来のキャリアに備えて努力を惜しまなかった。また、勉強家の和昭さんは、養護施設を出ても社会になかなか馴染めずにいる子どもたちのための施設に、毎年寄付をしていた。向学心のある子どもたちに修学の機会をあげたいという思いがあったようだという。
 
こうした思い出をたどるうちに、麻耶さんは、和昭さんはもっともっと勉強したかったのだろう、その無念な気持ちを未来ある子どもたちに託そうと、税理士に老後までの生活費を試算してもらい、残りをすべて養護施設を出た子どもたちの修学のために寄付することを決意した。
 
そして、1986年(昭和61年)東京都社会福祉協議会の中に「西脇基金」を設立し、その利子で、一人につき奨学金を月3万円支給することにした。しかしながら、その後、基金の利子はどんどん落ち込み、存続が危ぶまれたが、1997年(平成9年)に西脇さんの活動を知った米国のアンダーセンから、4,575万円の寄付があり何とかしのいだ。しかし、それでも基金は不足し、西脇さんは鎌倉にあった不動産も売却し、さらに毎年200万円ずつ寄付し続け、2002年5月には寄付総額が2億4,277万円に及んでいる。ところが、2002年度の給付児童は74人、助成を継続するにはあと2,500万円が必要である。こうした危機は、数年前より続いており、その度に西脇さんが補填するという綱渡りである。
 
こうした窮状を知った東京都社会福祉協議会の監査を担当している税理士・宮内眞木子さんは、何とか応援したいと1997年に「西脇基金を支える会」を設立、毎年チャリティイベントを開催して資金を集めている。また、新聞紙上などで西脇基金のことを知った人から、数百万円単位の寄付が振り込まれることもあるという。「日本人も捨てたもんじゃない」と、宮内さんはうれしい驚きの声をあげている。
 
「私自身は子どもがいないので、その分、他の子どもたちに役立ててもらえばそれでいいんです」と淡々と話す西脇麻耶さんであるが、志半ばで逝った夫の無念を何らかの形で未来ある子どもたちに託したいという妻としての愛情が、麻耶さん自身の志へと深まっていったことが、困難な寄付を継続させている原動力になっているのではないだろうか。
 
西脇麻耶さんのまっすぐな志が宮内眞木子さんを動かし、宮内さんの私心のない素直なエネルギーが多くの人の心に響き、支援の輪がすがすがしい波動のように広がっている。今、共に人生を歩む夫婦の絆、子を持つ親のまっすぐな愛、そこから広がる人間としての共感が忘れられている。素直な心に立ちかえった時、自ずと寄付の心が沸いてくることを示してくれた西脇麻耶さんは『まちかどのフィランソロピスト』そのものであると確信する。
◆ まちかどのフィランソロピスト賞
葭野 久(よしの ひさし)さん
(東京都調布市)
<贈呈理由>
 
東京都調布市内で高級家具店を営む葭野久さんの長男・高志さんは、大学2年生の時、突然「骨髄異型成症候群」という難病に侵され、ご両親の献身的な看病の甲斐もなく、21歳の若さで亡くなった。
 
高志さんは、化学療法によりがん細胞が減少して体調を取り戻した一時期、退院していた折には週に一度は小児病棟でボランティアをしていた。その時出会ったシスターから、アメリカでは、小児がんなど難治性の病の治療を受けるために、長期の病院通いを余儀なくされる家族のための宿泊施設「ファミリーハウス愛の家」が多くあることを聞かされた。
 
骨髄移植の際に3,700人ものドナーに協力してもらい、多くの善意に何とかして恩返しをしたいと思っていた葭野久さんは、高志さんの看病中に出会う家族が、気分がふさぎがちで、どこか閉鎖的であることがいつも気にかかっていたこともあり、この話を聞いて即座に「ファミリーハウス愛の家」建設を思い立った。
 
すぐに高志さんに、「会社の2階のスペースを使ってファミリーハウスを作ろう」と提案、大喜びの高志さんと共に計画を立て始めた。計画は順調に進み、設計など多くの人たちが協力を申し出てくれるようになった。総工費は6,000万円。しかし、ちょうど設計図ができあがった頃、完成を待ち望んでいた高志さんは、「僕が死んでも、ファミリーハウスは必ず実現させて」という言葉を残し、1992年3月にこの世を去った。
 
その1年後、1993年3月に日本初のファミリーハウス「かんがるーの家」が完成した。「カンガルーは前にしか進まず、子どもを抱いている姿は親子の愛情を感じさせる。このファミリーハウスにぴったり」という葭野さんがハウス名の名付け親。マスコミに取り上げられたこともあり、その後、社員寮や事務所を提供する企業や個人も現れ、現在ではアメリカンファミリー生命保険会社、マクドナルド社などがファミリーハウスを設立し、その輪は全国に広がっている。
 
短い生涯を閉じた我が子の精一杯生きた証を社会に残し未来につなげたいという、先立っていった子を思う親心と、闘病中に寄せられた多くの善意に恩返しをという報恩の心から出発した行為であるが、葭野久さん個人のフィランソロピーが人の心に重なり、その波動が企業フィランソロピーを触発して大きな活動へと広がっていった。『第5回まちかどのフィランソロピスト賞』にふさわしい功績として称えたい。
◆ 贈呈式
日時:
2002年11月6日(水)18:30~20:30(開場17:30)
会場:
学士会館 3階320号室
<所在地> 東京都千代田区神田錦町3-28
<最寄駅> 都営地下鉄三田線、新宿線、営団地下鉄半蔵門線「神保町駅」A9出口徒歩1分
プログラム:
18:30~19:15 贈呈式
 ・まちかどのフィランソロピスト賞 贈呈
 ・来賓ごあいさつ
19:15~20:30 懇親会
 ・テノールの歌声とピアノ演奏 ほか
 
第5回 まちかどのフィランソロピスト賞 実施要項
趣旨
日本では古くから「陰徳こそが好ましい」という考えがあるため、寄付の実態がよくわかっていません。そのため、私たちにとって『寄付』は縁遠いイメージができてしまっているかも知れません。また、寄付金に対する優遇措置が未成熟なことから、日本では寄付の文化が育たないと言われています。寄付が盛んなアメリカではその約90%は個人が行なっていますが、日本では90%以上が企業や財団によるものです。
 
しかし、平成の大不況といわれる今日でも、社会の役に立ちたいという想いを込めて寄付を行なう人も決して少なくありません。そこで、“人と企業の社会貢献を推進する”当協会では1998年に『まちかどのフィランソロピスト賞』を創設し、この賞を通じて、私財を社会に役立てた人の『寄付』と、それにまつわるストーリーを皆さんに紹介することで、日本ではほとんど知られていなかった善意の寄付の実態を少しでも明らかにし、日本の社会のなかに寄付文化を醸成していくことを期待しています。
対象
《対象者》
 ・社会のために私財を投じた個人またはグループ(金額の多寡は問いません)。
 ・社会のために寄付を集め、それを他者に寄付をした個人またはグループ。
 ・故人も対象とする。
 
《対象期間》
 ・1990年1月1日から現在まで
ご応募
《ご応募方法》
 ・当協会所定の推薦書用紙にご記入の上、下記事務局へご送付ください。
 ・他薦に限ります。
 
《ご応募締切》
 ・2002年5月10日(金)消印有効
選考
《選考方法》
 ・書類審査および訪問審査(ヒアリング)
 
《選考基準》
 ・次のいずれかを満たすもので、寄付額を競うものではありません。
  (1)フィランソロピー(人類愛)にふさわしい寄付であるもの。
  (2)社会のために大変役立っているもの。
  (3)寄付にあたって、人々を感動させるようなエピソードをもつもの。
 
《選考委員》
委員長
出口 正之
国立総合大学院大学教授、社団法人企業メセナ協議会専務理事
 
林 雄二郎
日本NPO学会会長、社団法人日本フィランソロピー協会顧問
 
井上小太郎
住友生命保険相互会社
 
倉見 克行
株式会社 資生堂
 
清水あつ子
富士ゼロックス株式会社
 
増井 順二
関西電力株式会社
 
髙橋 陽子
社団法人日本フィランソロピー協会理事長
表彰
《贈呈品》
 ・『まちかどのフィランソロピスト賞』(1名)に賞状と記念品を贈呈します。(賞金はありません)
 
《贈呈式》
 ・2002年11月に学士会館(東京都千代田区)にて開催します。
事務局
《ご応募書類お送り先・お問い合わせ先》
  社団法人日本フィランソロピー協会
  『まちかどのフィランソロピスト賞』事務局
  担当:佐々木理代(ささき りよ)
 
  〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-8-1 日比谷パークビル605
  TEL: 03-5252-7580--FAX: 03-5252-7585
前回・次回
 
社団法人 日本フィランソロピー協会
〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-8-1 日比谷パークビル605
TEL: 03-5252-7580--FAX: 03-5252-7585--Email--Access
Copyright © Japan Philanthropic Association. All rights reserved.