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・これまでの贈呈先
社会に役立つ寄付を行なった人を顕彰する『まちかどのフィランソロピスト賞』。第8回(2005年度)は、青少年の部を新設し、次のとおり贈呈先が決まりました。
贈呈式は、2005年9月13日(火)に学士会館(東京都千代田区)にて開催しました。
集合写真
◆ まちかどのフィランソロピスト賞
中村 美律子(なかむら みつこ)さん
(大阪府東大阪市)
<贈呈理由>
 
賞状贈呈
中村美律子さんは「NHK紅白歌合戦」に11回の出場を果たした演歌歌手。1950年、東大阪市に五人兄弟の二番目の子どもとして生まれ、幼いときから歌うことが大好きで、歌手になることだけを考えてきたという。
 
小学校2年生のとき、夏祭りの「のど自慢大会」に出場。そのときアコーディオンを演奏していた先生の目に留まり、音楽教室に通い始めるが、中学2年生になると、母親の病気、そして死で家族は離ればなれの生活を余儀なくされ、教室も辞めざるを得なくなった。つらい時期も経験したが、歌を続けたい一心で夏のアルバイトとして河内音頭を始め、高校も自力で卒業。その後も、長く歌を続けられるようにと浪曲を勉強し1986年に春野百合子氏に師事。この年、「中村美律子」と改名して本格的に歌手を目指す覚悟を固め、「恋の肥後つばき」でデビューを果たす。36歳という決して早くはないデビューであった。
 
飲食店やイベント等で地域の人を前に、歌が好きという一心で、歌い続けてきた結果、1992年、初の紅白歌合戦出場を果たす。「目の前で聴いてくれる人のために一生懸命歌い続けるうちに、自分からは遠い世界と思っていた大きな舞台に立つことができた。これも応援してくれた人のおかげ、地域のおかげ」と、翌年、地元の東大阪市でチャリティコンサートを開催。ファンが比較的高齢であることもあり、「高齢者福祉のために」と東大阪市を通じて東大阪市社会福祉協議会へ300万円の寄付を行なった。
 
その後、寄付活動を長く続けていくためには何らかの形に残るものをと考えていた矢先、1993年に発売した盲目の夫を支える夫婦愛を歌った「壷坂情話」がきっかけとなり、盲導犬育成支援を考えた。盲導犬一頭の育成費用が約300万円と知り、コンサートの純益、つましい暮らしの中から差し出されたファンのご祝儀、公演会場に設置した募金箱に寄せられた募金の収益などを盲導犬育成基金として積み立て、寄付を開始。自分の心とファンの心がひとつに結ばれ、その寄付で育てられた盲導犬「ミツコ号」は計22頭、6,600万円にのぼる。
 
好きなことを仕事にできる幸せ、それを支えてくれるファンへの感謝の思い。若き日の苦労が人の痛みをわかる心を培い、寄付という形で結実している。これは本賞の精神を体現するものとして『まちかどのフィランソロピスト賞』にふさわしいものである。
◆ 特別賞
伊藤 州一(いとう しゅういち)さん
(神奈川県藤沢市)
<贈呈理由>
 
賞状贈呈
伊藤州一さんは1938年、静岡県天竜市に生まれる。兄二人が中国に出征、長男は結核で帰国するが亡くなり、戦中・戦後の4年間に、父親、兄弟を5人失う。戦後、母親が農業をしながら子どもたちを育ててくれた。そんな少年期の夢は「二十四の瞳」の大石久子先生のような僻地の小学校の先生になることだった。
 
大学卒業後、衆議院議員塩谷一夫氏の秘書として働いた。塩谷議員は中国との友好運動に熱心で、伊藤さんも1975年には日中友好国会議員秘書訪中団団長として初訪中するなど、国交回復へ向け奔走した。秘書を辞めた後も、「60歳の手習い」と北京郵電大学、大連鉄道学院に留学するなど中国との付き合いは続いた。
 
伊藤さんには「中国に小学校を建てて、子どもたちと遊びたい」という夢があった。それを聞いた友人から紹介されたのが長春市双陽区太平鎮にある小河小学校。校舎が老朽化し、倒壊寸前にもかかわらず改築できないという。伊藤さんは「東北三省は戦争の際、最も被害を受け、しかも多くの日本人残留孤児がお世話になった地域。恩返しがしたい」と300万円の寄付を決めた。伊藤さんにとって、中国の原点は東北部の開拓団。小学校の時の用務員のおばさんから聞いた「引き揚げ時、死んだ背中の子どもを道端に捨ててきた」という話が強烈に心に焼きついている。また、NHKラジオの「尋ね人の時間」を聞くと、ほとんどが東北部開拓団の人が探す当時の近所の人の消息。共に開拓した者同士に日本人も中国人もない。東北三省にこだわる理由はそこにある。
 
新校舎の名前は「至誠小学校」。「至誠」は、2000年にオートバイ事故で、28歳で亡くなった次男の名前。2005年にはハルピン市の小学校にも寄付。活動を知った仲間とともに現在も寄付を続けている。
 
その後は、母校・天竜市立横山小学校と至誠小学校の児童との交流を呼びかけ、絵画や学校生活を紹介した作文などの交流を開始。至誠小学校の子どもたちは、伊藤さんのことを「ラオラオーおじいちゃん」と言って慕ってくれる。伊藤さんは子どもの時の夢が叶い、大石先生になった。実の孫がいない伊藤さんに、たくさん孫ができた。「至誠さんの子どもたち」でもある。
 
戦争で残酷な傷を受けた人をたくさん見てきた。しかし人間同士としての共感と生きざまを開拓団の人に見た。それを子どもたちの素直な心にまっすぐに伝えたい。率直に行動する伊藤さんの寄付は、国を超えた人間としての誠意と愛情を体現するものとして、特別賞にふさわしいものである。
◆ 青少年の部
高知県須崎市立須崎中学校
(すさきちゅうがっこう)
(高知県須崎市/戸田雅威校長、生徒数226名)
<贈呈理由>
 
賞状贈呈
賞状を受ける生徒代表の矢野貴久さん
右端が須崎中学校長・戸田雅威さん
高知県須崎市立須崎中学校は、1961年から修学旅行で長崎を訪れており、生徒が折った千羽鶴や寄せ書きとともに、募金を持参して長崎市に寄贈し、被爆者を慰問するのが恒例となっている。
 
こうした寄付を始めたのは、被爆体験をつづった故・永井隆博士の「この子を残して」に感銘を受けた生徒がお小遣いを持ち寄り、お見舞いとして2万円を届けたのが始まりだった。これ以後、40年以上にわたり、毎年募金を集め、長崎市(原爆被爆者福祉基金)や日赤長崎原爆病院、長崎平和推進協会などに寄付してきた。
 
生徒による長年の活動は、地域に住む人の心を動かし、父母や卒業生、さらに須崎市内の事業所、官公庁、市内の三小学校にも波及するなど須崎市民全体の活動へと広がっている。また、1994年からは生徒会の提案で、地元スーパーや「道の駅」で生徒有志による街頭募金を開始し、一連の募金活動の総額は1,185万円にのぼる。また、修学旅行以外でも、須崎中学校内で記念パネル展を開催し、長崎市から被爆者語り部を招いたり、校内で「平和集会」を開催し、長崎を訪問した三年生から全校生徒に報告を行なうなど、日常的にも平和教育の実践に努めている。
 
こうした取り組みを通し、長崎の原爆を起点とした子どもたちの平和への願いが、学校および町の文化として根付いている。戦後60年を迎え、その記憶が風化しつつある今日、次代を担う子どもたちが綿綿とつないできた平和への希求が、寄付という形で結実し、さらに人の心を起こし続けている。こうした心の連鎖こそ、まちかどのフィランソロピストの本質を具現化するものとして、賞を贈呈するものである。
◆ 贈呈式
日時:
2005年9月13日(火)18:30~20:30(開場18:00)
会場:
学士会館 201号室
<所在地> 東京都千代田区神田錦町3-28
<最寄駅> 都営地下鉄三田線、新宿線、営団地下鉄半蔵門線「神保町駅」A9出口徒歩1分
プログラム:
18:30~19:15 贈呈式
 ・まちかどのフィランソロピスト賞 贈呈
 ・来賓ごあいさつ
斉藤正明 氏(東芝EMI株式会社 取締役会長)
夏 永宏 氏(財団法人日中友好会館 交流部長)
小野廣行 氏(須崎市教育委員会 学校教育課長)
19:15~20:30 懇親会
 ・ミニコンサート ほか
 
第8回 まちかどのフィランソロピスト賞 実施要項
募集チラシ
クリックするとダウンロードできます。
第8回まちかどのフィランソロピスト賞推進募集チラシ
趣旨
阪神・淡路大震災以来、日本社会でもボランティアの活躍が目立ってきております。一方、ボランティアの影に隠れて見過ごされがちですが、社会に役立ちたいという思いをこめて寄付を行なう人も決して少なくありません。
 
こうした寄付はフィランソロピーと呼ばれ、特に米国ではとても盛んです。しかし、日本では寄付した人も目立ちたくないとか、陰徳こそが好ましいといった価値観に支配されやすく、また寄付金に対する優遇措置が極めて未整備なこともあり、寄付の実態がよく分かっていません。
 
そうした状況下で、当協会は、社会のために私財を投じた人を顕彰する『まちかどのフィランソロピスト賞』を1998年に創設しました。この賞を通じて、私財を社会に役立てた人を顕彰し、日本の社会の中に寄付文化を根付かせ、さらに、日本ではほとんど知られていなかった善意の寄付の実態を、少しでも明らかにしていくことを目的にしています。
対象
《対象者》
 ・社会のために私財を投じた個人またはグループ(金額の多寡は問いません)。
 ・社会のために寄付を集め、それを他者に寄付をした個人またはグループ。
 ・故人も対象とする。
 ※青少年の部(新設)
 ・上記に該当する18歳未満のグループ(学校単位も可)。
 
《対象期間》
 ・1990年1月1日から現在まで
ご応募
《ご応募方法》
 ・当協会所定の推薦書用紙にご記入の上、下記事務局へご送付ください。
 ・他薦に限ります。
 
《ご応募締切》
 ・2005年6月10日(金)消印有効
選考
《選考方法》
 ・書類審査および訪問審査(ヒアリング)
 
《選考基準》
 ・次のいずれかを満たすもので、寄付額を競うものではありません。
  (1)フィランソロピー(人類愛)にふさわしい寄付であるもの。
  (2)社会のために大変役立っているもの。
  (3)寄付にあたって、人々を感動させるようなエピソードをもつもの。
 
《選考委員》
委員長
出口 正之
国立民族学博物館教授
 
井上小太郎
住友生命保険相互会社
 
加勢川佐記子
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.
 
磯田 篤
株式会社 資生堂
 
春井 徹郎
大阪ガス株式会社
 
山本 直之
関西電力株式会社
 
林 雄二郎
日本NPO学会会長、社団法人日本フィランソロピー協会会長
 
髙橋 陽子
社団法人日本フィランソロピー協会理事長
表彰
《贈呈品》
 ・一般の部、青少年の部各1名(またはグループ)に
  『まちかどのフィランソロピスト賞』として賞状と記念品を贈呈します。(賞金はありません)
 
《贈呈式》
 ・2005年9月に学士会館(東京都千代田区)にて開催します。
事務局
《ご応募書類お送り先・お問い合わせ先》
  社団法人日本フィランソロピー協会
  『まちかどのフィランソロピスト賞』事務局
  担当:宮本 栄(みやもと さかえ)
 
  〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-1 古河ビル618
  TEL: 03-5252-7580--FAX: 03-5252-7585
前回・次回
 
社団法人 日本フィランソロピー協会
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TEL: 03-5252-7580--FAX: 03-5252-7585--Email--Access
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