2010年2月号巻頭インタビュー
 
◆巻頭インタビューNo.327/2010年2月号
男女共同参画社会にむけて
Pamela Passman(パメラ・パスマン)さん
Global Corporate Affairs, Corporate Vice President, Microsoft

Pamela Passman<プロフィール>
ラフィエット大学・バージニア大学ロースクールを修了。国際法律事務所等を経て、1996年から2002年まで東京のマイクロソフト社に勤務。日本、韓国、台湾、香港を含む中国におけるマイクロソフトの法務部門責任者を務める。現在は夫、14歳と10歳の娘の4人で米国・ワシントン州に在住。


 これまでITを活用する機会があまりなかった人々に対し、ITを活用して社会参画や就労の機会を広げてもらうための支援プログラムを全世界的に展開しているマイクロソフト社。日本では障害者やDV被害者、母子家庭の母親など社会的・経済的に困難な状況にある女性、シニア層、NPOなどを対象とした様々なプロジェクトを実施し、これまで約18,000名が参加している。中でも女性の自立就労支援は2002年からスタートし、年々規模を拡大して取り組んでいる。グローバル企業ならではの女性支援活動について、米マイクロソフト社で、グローバルな企業市民活動を指揮する Pamela Passman(パメラ・パスマン)さんに話をうかがった。

社会貢献活動は多くのパートナーとともに

―マイクロソフト社では社会貢献活動として、全世界的に UP(Unlimited Potential) プログラムを展開しておられます。IT教育や就業機会の創出などを行い、多くの人に社会的、経済的チャンスを与えるというこの活動は、非常に大きなスケールを持っていますね。
 実は以前、タイ北部の小さな村で活躍するNGOの活動を視察に行きました。すると村の中の小さな掘っ立て小屋に立派なコンピュータが置いてあって、まさに UP プログラムの実践中。過疎の貧しい村で子どもたちが一生懸命に取り組んでいて、これには驚きました。

Passman/それは素晴らしいです。写真は撮られましたか( 笑)。私どもは世界中に10億人というお客様を抱えるグローバルカンパニーとして、社会貢献活動についても以前から非常に重要視していました。また実践するにあたっては、できれば自分たちが一番よく知っていることをベースにやっていきたいですし、その中で私たちの活動もさらに広がっていくと考えています。もちろん、こういったことは、マイクロソフト社が単体でやるのは難しいので、地域のコミュニティーを熟知し、地域のニーズをよく掴んでいるNPOのみなさんと協力することが必要です。そして私たちが得意とする分野を活用しながら、プログラムを拡張するということを目指しています。ですから、タイの農村でご覧になった UP プログラムは、私どもの現地チームがその村に力のあるNPOがいるということを知った上で行っている活動だと思います。

―今、日本でもNPOが増えて、現在40,000近くの団体があります。そんな状況の中で企業の方が難しいとおっしゃるのは、どのNPOとパートナーを組んだらいいのかという見極めです。それで、当協会にご相談に来られるケースが増えていますが、御社はどういった基準でNPOを選んでいらっしゃるのでしょうか?

Passman/私どもとしては、やはり対象となる社会課題を専門にして実績を積んでいるNPOをパートナーとして選びたいと思っています。
 もちろんNPOの中にはITスキルを教えるということに関して多くの経験を持つ団体もあるし、そうでない場合もあります。たとえITスキルの教育について実績がなくても、特定の課題に関する知識が豊富にあるというNPOと協力関係になる場合もあります。いずれにせよ、NPOがどれだけの専門性と実施能力を持っているのかということを重視しています。

―実際にプログラムを行ったあとの評価については、どうされていますか?

Passman/かなり多くの指標を作り、「果たしてこのプログラムがどれくらい成功を収めたのか」ということについての検証は、しっかり行っています。また場合によっては、それぞれの地域にある大学と一緒にパートナーシップを組んで、プログラムの評価を行います。たとえばアメリカではワシントン大学(University of Washington / Seattle)が私たちとの協働関係にあります。
―現地のNPO、それに大学と、かなりの多くのパートナーがいますね。

Passman/私たちはソフトウエア開発を本業としていますが、企業市民活動を展開する上では、ハードウエアベンダー、あるいは他のソフトウエアベンダー、サービスプロバイダーなど他のIT企業や異業種の企業とも連携しています。政府、自治体、NPO、大学などいろいろな専門性を持つパートナーとの連携によって、初めて企業市民活動が実現できると考えます。

―企業市民活動をグローバルな視点で見て、欧米とアジアの大きな違いは何だと思われますか?

Passman/やはりNPOコミュニティーの違いです。アメリカの場合、歴史も長いですし、発展過程もかなり先行しているということが言えると思います。それにはいくつか要素があって、たとえば税制優遇措置、そしてNPOであるがゆえの情報開示、透明性が政府から求められます。認可を受けるために必要な要件を満たしているという点で、NPOコミュニティーは非常に自信を持っていますし、同時に信用も得られていると言えると思います。

活動で得た知見を次のプログラムへ生かす

―マイクロソフト社の日本における UP プログラムは、2002年のスタート時点から母子家庭の女性やDVの被害を受けた女性などを対象にされています。そこには何か理由があるのでしょうか?

Passman/各国地域でどのような活動をするのかということについては、ローカルチームのアイデアに依存するところが大きいのです。それぞれのチームが、地元のNPOの方たちとやり取りをして活動内容を決めています。その中で日本チームは女性がITスキルをトレーニングしたいと思っても、その機会がない状況にあると気づき、この分野での活動を開始しました。同様の問題は他のアジア地域、たとえばマレーシアや中東などでも見られます。

―日本で行われている「女性のためのUPプログラム」は、どう評価されていますか?

Passman/私自身は非常に期待しています。日本のチームは、このプログラムの恩恵を受ける対象を注意深く選んだと思いますし、どのNPOと組むのかという点でも同様です。やはりこの先も活動を拡大していくために大切な作業で、その意味で日本チームはよい仕事をしてくれたと思っています。特に社会の中でサポートが難しい女性たちに手をさしのべられたという点で、成果を上げたと思っています。

―今、日本では女性問題と同時に、子どもへの虐待も増え、経済格差がそのまま教育格差になっている現状があります。御社では未就労の若者を対象とした新しいプロジェクトを開始したと伺いましたが?

Passman/近年、日本では若者が学校を出たあと、最初の仕事に就くことができないということが増え、そのような若者たちが社会的に孤立してしまうという現状があります。そこで2010年1月から2年間、NPOと連携を取りながら、「ITを活用した若者就労支援プログラム」をスタートさせました。これは、私たちがこれまでに行ってきた活動の延長線上にあるんですね。
 当初は経済的に困難な状態にある女性というところからスタートした活動ですが、次第に農漁村女性の起業支援や若年未就労女性の就労支援へと対象を拡大しました。特に、若年未就労女性の支援をする中で、若年層の就労の問題は、社会的に取り組むべき大きな課題であることが分かり、また、支援の結果、良い成果を上げることができました。そこで、若年未就労者の就労支援をするプロジェクトを新しく立ち上げ、対象を女性だけではなく、男性も含む15歳から30代後半としました。私たちがこれまでの活動で得た知見なり、学習した内容が、今回のプロジェクトに十分生かされて、さらに発展していくことを期待しています。

情熱を持ち続ければ女性のキャリアは進化する

―日本では、まだまだ女性の活躍の場が限定されていて、たとえば管理職に占める女性の比率も非常に低いままです。その点についてどう見ておられますか?

Passman/私は25年前から何度も日本に来ていますので、長きにわたって変化を目の当たりにしています。その中で、やはり少しずつ女性の社会進出は進んできているように思います。8年前、経団連でスピーチをさせていただいたとき、聴衆の中に女性が誰もいませんでした。私は話しながらその事態に驚いて、気持ちを集中させるのが大変でした( 笑)。でも昨年12月、やはり経団連でスピーチをしたときは女性の姿が多く見られました。

―マイクロソフト社でも女性の活用は進んでいますか?

Passman/一般的に見ても、私どもが所属するテクノロジー分野の企業は、期待するほど女性の割合は高くありません。すでに大学の段階でコンピューターサイエンスや工学系に進む女子学生は限られた人数しかいないのです。アメリカでもヨーロッパでも、日本でも同じ状況です。そこでマイクロソフトでは企業市民活動の一環として、女子学生がこの分野に興味を持ってもらえるような活動も行っています。

―日本ではワークライフバランスが言われて、先日、私どもの協会でも東京、広島、名古屋でシンポジウムを開催しました。しかし現実は、まだまだ女性の負担が大きく、家庭と仕事の両立は難しい状況があります。パスマンさんは14歳と10歳の娘さんの子育て真っ最中と伺いましたが、ご自身のワークライフバランスはどのようにされていますか?

Passman/朝食と夕食は必ず一緒に食べるようにしています。そのために、早起きして朝食の前にメールをチェックすることもありますし、夜寝る時間を惜しんで働くことも時には必要です。
 また約8年前から夫がキャリアチェンジをして、パートタイムで法律を学生に教える仕事をしていますので、育児には非常に協力的です。やはりキャリアというのは一つの道筋だけではないと思うんです。当然、様々な選択肢があって、どの道を選んでもいろんなタイミングで波がやってきます。女性たちには、家族と一緒に過ごす時間を大切にして欲しいし、同時に決してキャリアを諦めずに続けていただきたいと思います。
 日本社会だけでなく、世界各地でもっと柔軟なワークスタイルが確立されることを私も望んでいます。フレックス制がさらに進めばいいですし、今はさまざまなITツールが出ていますので、それらを活用して遠隔地から「働く」ということを実現できる社会になって欲しいと思います。女性はいったん労働力から離れて数ヶ月、数年たつと、キャリアを諦めてしまいがちですが、戻る道は必ずあると思います。最終的に自分がどういう仕事につくか、どういう形でカムバックするかはわからないので、常に人となんらかの形で繋がっていく方法を模索すべきだと思います。

―成功した女性の先輩として、後に続く女性たちへアドバイスをいただけますか?

Passman/常に自分がもっとも情熱を傾けられることを追い続けて欲しいと思います。もろちん時には希望通りにいかず、道が逸れる場合もあるでしょう。でも情熱さえあれば、必ず元の道に戻れるということをお伝えしたいと思います。キャリアは時間の経過と共にどんどん進化していくものですから。

―力強いメッセージをありがとうございました。

聞き手/法人日本フィランソロピー協会
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長 高橋陽子