<企業プロフィール>
新田信行さん
 
<企業概要>
第一勧業信用組合
設立:1965 年
本部所在地:東京都新宿区四谷2-13
URL:https://www.daiichikanshin.com
 
第17回企業フィランソロピー大賞受賞企業インタビューⅠ
人と人との関係性を深め持続可能な幸せを追求する
第一勧業信用組合 理事長
新田 信行 さん
「育てる金融」の実践
― 新田さんは第一勧業信用組合(以下、第一勧信) の理事長として地域社会に貢献する事業を応援すべく、原則無担保、無保証、人と人との信頼関係に基づいて低利融資を行なうコミュニティローンを実践されています。なかでも芸者さんにお金 を融資する「芸妓さんローン」は、命名もユニークで注目されました。
新田信行さん(以下敬称略) 浅草の芸者さんで、鹿島菊乃さんという方がバーを作りたいと言うんですね。京都の祇園には、芸妓さんの店がたくさんありますが、東京には少ない。浅草で芸者さんが店を持てば、まちづくりにもなります。ただ芸者さんですから担保はないし、開業前ですから決算書もない。しかし、第一勧信の古くからの取引先だった老舗料亭の経営者の方からのご紹介があったんです。また料亭組合、芸者組合の皆さんからも、相談にのってやってくれと言われる。町の人たちが応援しているんですね。それでうちは2,300万円くらい融資した。これは、いわば女性向けの創業支援なんです。カウンターだけの小さな店ですが、いつも満員です。
― この他にも、「のれんわけローン」「銀座地区バー専門ローン」「亀有銀座商店街活性化資金」など、じつに多彩ですね。また社会や地域に貢献する事業を創業する人に向けての「かんしん未来ローン」「かんしん未来ファンド」を作り、女性・若者・シニア創業、さらにはソーシャルビジネスのサポートもされています。まさに「育てる金融」ですね!
新田 わたしは、前職でみずほ銀行の常務執行役員をしていましたが、IPO(株式の新規上場)にならない小さな会社の創業は、大手都市銀行では融資できない案件なのです。しかし、第一勧信は信用組合なので、まちおこしとか、女性、若者を応援するということをキャッチフレーズに、スモール創業支援に力を入れました。
これを続けているうちに、介護の会社、障がい者向け雇用をやる会社の支援などにも当たる。ソーシャルの世界では、普通の創業支援以上にサポートする金融機関が皆無です。それで「ソーシャルビジネス応援ローン」を作り、2019年には「東京ソーシャルビジネス・アクセラレーター」というプログラムも主催しました。みなさん、一生懸命にいいことをしているのに、お金に困っているから、相談にのるんです。
金融は組合員へのサービス
― とはいえ、お金を貸すということは第一勧信にとっても、リスクになります。

東京アクセラレータープログラム
新田 第一勧信は信用組合なので、一般の銀行とは異なり、上場会社ではありません。組合員から出資金をお預かりして、預金を集め、それを組合員に貸しています。組合員以外からの預金は2割までしか認められていない。一般の銀行は誰からの預金でも受けるので、これが大きな違いです。また事業管内も東京都内と千葉県市川市・浦安市。目の届く範囲です。
― つまり組合員の預金が、経営のベースなんですね。
新田 はい。そういう第一勧信が貸し出しの判断をするとき、まず預金者、つまり組合員のことを考えます。創業支援で融資するにしても、正直うまくいくか、いかないかわからない場合もあります。その時、組合員に対してきちんと説明できるかどうか。たとえば町内会の誰それの息子さんとか、顔の見える相手だと、組合員の方々も「なるほどな」と思ってくださる。担保や決算書があっても、わたしたちは非対面取引での貸し出しは一切禁止で、原則、紹介制です。今、ネットでカードローンを募集している金融機関は信用組合でもかなりありますが、うちは一切やらせません。
― ステークホルダーが明確。まさに組合員のための金融機関ですね。
新田 最近は社会的金融という言い方もされますね。信用組合はアメリカではクレジットユニオンと呼ばれますが、彼らの経営は「not for profit, not for charity but for service(利潤目的でもなく慈善事業でもなく、組合員に対するサービス)」。この考え方はわたしたちと一緒です。都市銀行などのように、株主に対して配当することが目的の経済的株式会社ではなく、組合員から集めたお金を組合員に融資して、町が賑わい、組合員が幸せになるために、第一勧信があるのです。
「SDGs宣言」への道
― さらには、全国各地の金融機関や地方自治体との連携にも取り組んでおられますね。

地方物産展
新田 人・モノ・金が東京に集まっている現状で、地方が自分たちでなんとかしようとするにも限界があります。地産地消だけではダメなんですね。東京は吸い上げるだけでなく、むしろ地方を元気にする。お互いにいい形でやれたらいいねという相互扶助の精神で、地方と東京をつなぐ活動が、第一勧信のもう一つの柱になっています。
― 具体的には、どんなことをするのでしょうか。
新田 生産性を上げるには価格を上げる必要がある。たとえば北陸のホタルイカを地元市場で売っても安いけれど、瓶詰めにして東京で売ったら高価なんです。生産規模が小さいなら、一番高く売れる東京に持ってくればいい。わたしたちは消費者目線で、こういうものなら東京で売れるねとアドバイスできます。
東京発の地方創生ということを3・4年前から言い出して、現在36金融機関と9つの地方自治体と連携協定を結んでいます。
― 北は北海道、南は鹿児島県まで、まさに全国各地と連携の輪が広がっています。
新田 ふと見ると、世の中はSDGsと騒いでいて、内容を見たら「誰一人取り残さない」という包摂性、地方創生、次世代・女性のエンパワーメントなどをうたっている。まさにわたしたちがやっていることすべてが、SDGsの17項目の中に入っているんです。それで2018年9月に、信用金庫、信用組合の中で初めて「SDGs宣言」をしました。
「第一勧業信用組合はSDGs(持続可能な開発目標)を経営方針の中核として、具体的な取り組みを通じ、地域社会の持続的成長に努めていくことを宣言いたします」と。SDGsは、決して広告やイメージアップのための飾りではないんです。
価値に基づく金融へ
― リーマンショックの反省から、利益ではなく価値創造を重視する金融機関の世界的なネットワーク、GABV(The Global Alliance for Banking on Values)が、2009年に生まれました。世界で、約50の金融機関が加盟しています。そこに、2018年、第一勧信は日本の金融機関として初めて参加。入会のハードルが高いそうですね。
 
GABVアジアパシフィック地区大会での
NMB銀行との覚書(在日ネパール人金融支援)調印式
新田 基本的に招待制で、6原則をすべて実践していることが条件です。1つ目が「Triple Bottom Line」。「ひと」「地球環境」「経済的な幸福や繁栄」の3本柱をビジネスモデルの中核にしている。2つ目が「リアルエコノミー」。投機的金融はやりません。3つ目が「クライアント・センタード」。お客様との長期的な関係を結ぶ。4つ目が「長期的経営」。5つ目が「透明性」。6つ目が「カルチャー」。この6つの原則が金融機関にカルチャーとして根付いているということです。
これを聞いて「なんだ、全部、第一勧信でやっていることだ」と思ったんです。本部からピーター・ブロム議長と、マルコス・エギグレン事務局長が来日し、思いがけずスッと加盟が決まりました。
― 残念ながら、日本から二番目の加入は、まだ出ていませんね。そんな中、GABVの精神を国内で広めるためのJPBV(THE JAPANESE PRACTITIONERS FOR BANKING ON VALUES)を立ち上げられました。
新田 価値に基づく金融を日本で行なう実践者の会です。今、会員企業が50社ほどになり、どんどん広がっています。個人会員制度もあるので、勉強熱心な銀行員なども入会しています。わたしが第一勧信の理事長になったのが7年前。その頃からSDGsや価値創造、地方創生などの動きが出てきて、時代の流れが、こういうものを求めているんだなと感じます。
よく「新田さんは進んでいて、僕らは追いつけません」と言う金融機関の人たちがいるのですが、そもそも第一勧信こそ、世界の動きにちょっと遅れながら、必死についていっている状態です。そこに追いつけないというのは、時代から取り残されていると言っているのと同じ。それでは今後の社会で、生き残ることはできないと思います。
金儲けを目的にしない
― これからの金融で、もっとも大切なことはなんですか?
 
東京ソーシャルビジネス
アクセラレーター プログラム
新田 エンゲージメントです。わかりやすく「絆」と言っていますが、長期的で双方向の人と人との関係性の中で、お互いに感化しながら成長しあうような関係です。リレーションシップキャピタル=関係性資本と言っていますが、職員とお客様、あるいは職員同士、お客様同士、人と人との関係性を増やすことが、わたしたちの価値創造になります。これが増えれば、結果として、うちの収益も増えるんです。
― 収益は結果として得られるもの。そういうことをお金のプロが発言してくださることが嬉しいですね。利益を上げることは手段のはずなのですが、企業は収益を上げるのが一番の目的だ、という声は今でも大きいのです。
新田 それが日本の財界、政治を含め、多くの日本のリーダーたちの明らかな間違いです。ここは絶対に譲れない点です。
すべての企業は、人を幸せにするためにあると思っています。それなのに、日本は高度成長時代にお金の亡者のようになり、バブルが崩壊し、平成の長い沈滞がありました。いい加減に反省しなければなりません。わたしはみずほ銀行時代、与信企画部長として、不良債権の処理をしました。コンプライアンス統括部長時代は、お客さんの苦情トラブルに対応し続けました。40年間、金融の世界にいて、お金がどれだけ人を不幸にするのかを知り尽くしている。お金のために自殺した社長も見ましたし、夜逃げをして会えない人もいる。現場の一線で、そういう金融の汚さ、厳しさを山のように見てきているんです。
― そういう新田さんだからこそ、言えること、やれることがありますね。
新田 本当に当たり前のことですが、絶対にお金より人のほうが大事です。GABVの審査の時、彼らはまず「あなたはなんのために、こういうことをやっているのか」と聞いてきます。第一勧信の存在目的ですね。これは間違いなく「みんなの幸せのため」です。「うちは金儲けが目的だ」と答えたら、GABVはすぐに帰っちゃいますね(笑)。
うちの経営理念は「人の幸せ」です。ここがあって、その次に「how」が出てくる。日本の金融機関の多くは、まず、どうやったら儲かるかを考える。だから、ダメになっていくんです。一瞬の収益を考え、儲かったと言って喜ぶのですが、彼らに持続可能性はありません。わたしたちの経営理念が組合員と職員の幸せの追求である以上、持続可能な幸せでなければ困ります。そのためにどうすればいいのか。それはやはり、人と人との関係性なのです。
― バブル崩壊から30年。新田さんがすでに牽引しておられる金融機関のあるべき姿に、多くの企業が道筋を見出してほしいと思います。そして、わたし自身もしかと肝に銘じました。本日はありがとうございました。
【インタビュー】
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長 高橋陽子
 
(2019年12月24日 第一勧業信用組合本部にて)