<プロフィール>
 
 
Will Butler
Vice President, Community
Be My Eyes
 
特別インタビュー/No.399
テクノロジーの力と助けあいの気持ちで視覚障がい者の「目」になる―Be My Eyes―
Mr. Will Butler
Vice President, Community, Be My Eyes
Be My Eyes(ビー・マイ・アイズ)は、視覚障がい者・ロービジョンの人(視覚に障がいがあるため生活に何らかの支障をきたしている人)のために作られたアプリで、手助けが必要なときに視覚障がい者が、アプリを通じてコールをすると、ボランティアとスマホのビデオ通話でつながります。ボランティアは、視覚障がい者の送ってくるパッケージや書類の動画を見ながら、字を読み上げたり色や形を説明したりして、「目を貸す」サポートをします。
 
2015年に、アプリが発表されてから、現在では150か国以上、180以上の言語で、20万人以上の視覚障がい者のユーザーと、400万人近くのボランティアが登録する、大きなコミュニティーに成長しています。
その始まりから、これまでに苦労されたことなど、Be My Eyes でコミュニティ担当 Vice President を務める Will Butler(ウィル・バトラー)さんに伺いました。
― まず、ビー マイ アイズは、どのように始まり、これまでどのように成長してきたのか教えてください。
ビー マイ アイズは、デンマーク人の男性、ハンス・ヨルゲン・ワイバルグ(Hans Jørgen Wiberg)のアイデアから始まりました。
彼自身、網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう)という視力が落ちていく病気にかかっています。ビデオチャットが出てきたころ、助けが必要なときに、これは便利だと思ったそうですが、だからと言って、毎回ちょっとしたことで、友だちや家族に電話するのは悪い。一方、外に出ると、いつも心よく手助けしてくれる人がたくさんいる。とは言っても、四六時中助けが必要なわけでもない。
 
そこで、助けを必要とするときに、視覚障がい者と、手を貸してくれる人たちをテクノロジーで繋げることができたらと考えたのが始まりです。それが2015年に、『ビー マイ アイズ』のアプリになりました。
ユーザーが必要なときにコールボタンを押すと、携帯の向こうのボランティアで最初に電話をとった人につながる仕組みです。いわば、視覚版ウーバーです。
 
― ワイバルグ氏が、アプリを開発したのですか?
技術的なサポートが必要だったので、クリスチャン・エルフルト(Christian Erfurt、現CEO)と組んでアプリを開発し、この2人がビー マイ アイズの共同創設者となりました。
現在は、17名のスタッフがデンマークとアメリカで業務にあたっています。デンマークでは、4名のウェブディベロッパーが、アンドロイド、iPhone、ウェブブラウザの3つのアプリを管理・開発しています。世界中で使われているアプリをたった4人で、すごいでしょう!
ほかに、コミュニケーション部門など、組織運営のコアの部分がデンマークに、パートナーシップやビジネスモデルに関する業務を行なっているスタッフが、私も含めてアメリカに4、5名います。
Hans Jørgen Wiberg さん
Be My Eyes 創設者、家具職人でもある
― アプリの使用には料金がかかりませんが、どのように運営されているのでしょうか?
我々は非営利団体ではなく、社会的企業(social enterprise)で、視覚障がい者のコミュニティーを支援したいという世界中の企業とのパートナーシップで運営しています。大手では、グーグル、マイクロソフト、プロクター&ギャンブル(P&G)などがパートナーです。
パートナーになると、企業はビー マイ アイズのソフトウェア技術を使えるようになります。自社の従業員を支援するためにソフトを使えるほか、CSR事業としても、パートナーシップが役立っています。
 
また、企業のほかに、非営利団体のパートナーも多くいます。
例えば、盲導犬団体、視覚障がい者のリハビリを支援する団体。ほかにも、ブラジルのパラリンピック協会、インド、アメリカの団体など、世界中にパートナーがいます。最近、イタリアの非営利団体とパートナーを組み、イタリア語専門のサービスが始まりました。
― ボランティアになるには、登録するだけですか?
そうです。その簡易さがビー マイ アイズの素晴らしいところです。個人が登録してボランティアになることもできるし、グーグルのような大企業も参加できる。
グーグルには、ビー マイ アイズの電話を、専門に受け付ける部署があります。パートナー企業や団体で専門のラインを作っているところとは、マイクロソフト、P&G、盲導犬団体など、ユーザーが特定して電話をかけることもできます。
― 企業にとっては、カスタマーサービスの一環になりますね。
その通り。25万人近い視覚障がい者がビー マイ アイズのユーザーとして集まっています。そして世界には、もっともっとこのサービスを必要としている人たちがいる。この数はビジネスにとっても、意味のある数字です。
 
最初の企業パートナーは、マイクロソフトで、技術面、デザインに対するフィードバックなど、これまでさまざまな形で支援をしてくれています。
また、女性が、妊娠検査薬を使用した際、視覚障がいがあると検査結果を読めないという問題がありました。これを受けて、ビー マイ アイズから、P&Gの専門家に匿名で電話できるサービスができました。
― これまでに特に大変だったことは何ですか?
視覚障がい者のスマホ画面
現在のビジネスモデルを構築するのに苦労しました。
最初は何の収入もなく、微々たる予算でやっていました。アプリの使用を有料にしたらどうか、宣伝を入れたらどうかなど、いろいろなアイデアやアドバイスがありました。でも、障がいのない人なら当たり前にしている生活を可能にするために、視覚障がい者だから料金を払わなければいけないというのはおかしい。だから、アプリの使用は無料にするべきという信念がありました。
 
また、ユーザーがビー マイ アイズでコールするのは、助けが必要なときです。そこに宣伝をいれて、更にバリアを増やすこともしたくなかった。一件一件のコールがスムーズにできることが重要だと考えていました。そうこうして試行錯誤する 中で、ソフトウェアのライセンス契約という、パートナーシップのモデルができました。
企業にとっては、視覚障がい者コミュニティーへのアクセスを得ることになり、双方にとって利益のある、ウィン・ウィンの関係だと思います。
― 心に残るエピソードは?
感動的なエピソードは毎日です。よくあるのが、食べ物のパッケージについての電話。
コーンはどっち?
この缶詰はコーン、それとも豆?視覚障がいがあると、どちらなのか分からず困るところですが、ビーマイ アイズのアプリで、ボランティアに電話すると30秒で問題が解決します。ボランティアも人助けができて、良い気分になる。こんな瞬間が、世界中で毎日何千回と起きているんです。
 
また、視覚障がいのある花嫁さんが、結婚式の当日、バージンロードを歩く前にドレスをチェックしてほしいと言って電話がかかってきたという話を聞いたことがあります。
ほかにも、裏庭で物音がするので、ユーザーが電話してボランティアに見てもらうと、「君の犬がいるだけだよ」と言う。でも、ユーザーのうちに犬はいないので、ボランティアが一緒に首輪をチェックすると迷い子犬であったことがわかり、飼い主に返すことができたという話もありました。
― ユーザーとボランティアのチームワークですね。
まさにその通り!
全てのコールがユーザーとボランティアのチームワークです。一緒に何かを組み立てたり、壊れたものを直したりと、知らない者同士がチームワークで取り組み、問題を解決するのがビー マイ アイズなんです。
ツイッターを見ると、みんなの感動的なエピソードについて、日本語も含めて、いろいろな言葉で毎日数多くの書き込みがあります。
― ボランティアも良い気分になれるということですか。
そうなんです。ボランティアも素晴らしい体験ができる。ビー マイアイズは、視覚障がい者のためのアプリだけれど、実は、ボランティアのために作ったんだと冗談で話すこともあります。ユーザーも、ボランティアも、一緒に感動して、泣いたり笑ったり、そんなエピソードがたくさんあります。
― 日本の読者へのメッセージはありますか?
I love our Japanese users!
日本のユーザー数はまだ限られていますが、ビー マイ アイズを熱心に応援してくれる人たちがいて、嬉しく思っています。
創設者二人が訪日し、京都のアップルストアでプレゼンテーションをした時も、ビー マイ アイズの大ファンというユーザーが来てくれました。
 
日本でも、既にビー マイ アイズを利用している人は、何千人単位でいて、日本語での利用も十分に可能です。ボランティアもいます。しかし、まだユーザー数が比較的限られているのは、このアプリについて、まだ十分に知られていないからだと思います。これから、日本でビー マイ アイズのコミュニティーを広げるために、何でもできることはしたいと思っています。
 
もっとたくさんのボランティアが必要なのはもちろんですが、特に、日本の非営利団体のパートナーを探しています。
視聴覚障がい者の支援団体のほかにも、例えば、お年寄りを支援する団体など、携帯があれば誰でも使えるサービスなので、ぜひ多くの人に知らせて欲しい。家に独りでいるとき、友人や家族に迷惑をかけたくないとき、ボランティアがちょっと助けてくれることで、問題が解決する場面は本当に多い。ビー マイ アイズを必要とする人たちとつながるための手伝いをしてくれる団体と協力できたらと思っています。
 
そして企業パートナー。オリンピックの盛り上がりに伴って、日本の企業と少し話をしたこともあるのですが、今のところ、日本での企業パートナーはいません。技術、デザインなど、日本には、さまざまな面で一流の企業がたくさんあります。ぜひ、パートナーとして、一緒に世界に何億人といる視覚障がい者に手を差し伸べる活動ができたらと思います。
インタビュー・執筆
ガイガー 敦子
米国法人日本国際交流センターフェロー
国連開発計画プロジェクト・コーディネーター
デラウェア州立大学より、国際関係学博士号取得。
(米国在住)