第10回
現場から見る教育CSR
今では耳慣れした「CSR」。直訳すれば「企業の社会的責任」ですが、いつ頃から社会認知されたのでしょうか。私の知るところでは、企業の社会貢献活動の広がりは、1990年に経団連が創設した、経常利益の1%を社会貢献に投じる「1%(ワンパーセント) クラブ」に端を発し、2000年代に入って、それらが CSR=責任として位置づけられるようになっていきました。現在では、多くの企業で当たり前となったCSRは、「出前授業」「○○教室」等と称し、学校にも「教育CSR」として大きくかかわっています。今回は、年々教育現場に開催の依頼が増加している教育CSRについて、現場からの声を発信したいと思います。
学校のカリキュラムは、文部科学省から示された学習指導要領によって進行管理されており、教育CSRのような出前授業を単発のイベント的に取り入れることは、授業時間数確保の観点からも難しい状況にあります。小学校段階では、生活科や総合的な学習の時間など、課題解決を目指した体験的活動重視の創造的な教科もありますので、企業の教育貢献活動の企画は、現場を熟知していないとなかなか実現には至らないことだと思います。また現在の学校には、生命尊重や社会病理の観点から、「防災教育」「薬物乱用防止」「情報モラル」などの自治体特有の取り組みも展開されていますので、教育CSRが導入される隙間が少ないのも事実です。
しかし、提供いただく活動内容を、教科との関連性を明確にして指導計画に組み込むことで、教科としての教育活動に位置づけることができます。各企業の教育CSRの内容は、精度の高いすばらしいものだと常に実感しています。指導される方は、その道のプロフェッショナル。経験に基づく自信に裏打ちされた「伝える力」は、我々教育に携わる者も感心させられます。子どもたちも本物に触れることにより、豊かな感性、感覚を身につけます。
日本は、科学技術の発展とともにグローバルな社会に移行し、超少子高齢化を目前にしています。そんな次世代を担う子どもたちには、異なる考えや異なる文化を受容し、新たな考えを創造する資質が求められています。そのためにも、本物に触れることが重要なプロセスであることは明白です。
教育CSRの別の重要な意義に、学校現場を知ってもらうこともあります。過日、教員の多忙や超過勤務について報道もなされました。家庭教育、地域連携の重要性が問われている現在、学校を通じた地域づくり、防災意識や体制づくりなど、学校の果たす役割は肥大化しています。児童生徒への教育は、学校だけで完結する時代はとうに過ぎました。教育CSRを通して、企業にも学校現場を内側から見ていただき、社会や家庭が担うべき教育の必要性を直接に感じてもらいたいのも事実です。
これからの日本の教育システムには、キャリア教育の意味も含め、教育CSRはとても重要です。学校と企業の理念に基づいた高い教育パフォーマンスの実現には、学校と企業だけなく、より効果ある貢献活動になるよう連絡調整する専門機関も重要であると認識しています。そのような学校と企業をつなぐ専門機関の活躍にも期待して、次世代を担う子どもたちの資質向上に努めたいと考えます。