フィランソロピー見聞録

 
Date of Report:2025.2.3
2024年度 久里浜少年院 胡蝶蘭贈呈式
公益社団法人日本フィランソロピー協会は、誰も排除されることなく、すべての人が社会参加できる機会を提供する共生社会づくり推進事業の一環として、2019年度より、久里浜少年院在院生による社会貢献活動「花育(はないく)」をサポートしています。過酷な生い立ちもあり自己肯定感が低く、少年院入院を繰り返してきた在院者も多い中、胡蝶蘭のお世話を通してかけがえのない命の存在に気づき、自他を大切に思うきっかけづくりとしています。
 
2024年度は10月7日(月)に活動をスタート。在院生は、一人一鉢手渡された胡蝶蘭に、「美」「荘厳華麗」「一蘭」などそれぞれ名前を付け、自室(単独室)で開花するまで育ててきました。
 
2025年1月20日(月)、久里浜少年院に贈呈先の方々をお迎えし、贈呈式を開催しました。贈呈式終了後は、贈呈先団体と久里浜少年院との懇談会も実施し、相互に理解を深める機会となりました。
【花育】花を教材に生命の大切さや他を思う心を実感し、自己有用感・自己肯定感を高めることで非認知能力を醸成する活動。
 
蘭には在院生がつけた名前と、手書きのメッセージが添えられています。
(クリックすると拡大します)
日時:2025年1月20日(月)14:45~15:40
会場:久里浜少年院 体育館(神奈川県横須賀市)
在院生人数:51名
贈呈先:下記13団体
協力:有限会社椎名洋ラン園
【贈呈先】
<病気の子どもと家族を支える団体>
・神奈川県立こども医療センター
(横浜市)
・認定NPO法人スマイルオブキッズ
(横浜市)
・認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト
(横浜市)
 
<障がいのある人や高齢の人の暮らしを支える団体>
・社会福祉法人訪問の家
(横浜市)
・NPO法人シニアライフセラピー研究所
(神奈川県藤沢市)
 
<難民の暮らしを支える/国際理解を促進する団体>
・神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)
(横浜市)
・NPO法人アルペなんみんセンター
(神奈川県鎌倉市)
 
<困難な状況にある子どもや若者の生活や自立を支える団体>
・社会福祉法人誠心会 しらかば子どもの家
(神奈川県横須賀市)
・社会福祉法人白十字会林間学校 あすなろサポートステーション
(神奈川県藤沢市)
・認定NPO法人子どもセンターてんぽ
(横浜市)
・認定NPO法人育て上げネット
(東京都立川市)
 
<働きたくても働けない人の就農を支援する団体>
・NPO法人農スクール
(神奈川県藤沢市)
【写真左】今回は、在院生が陶芸活動で制作した鉢も寄贈しました。陶芸活動で制作した作品は久里浜少年院の所在する地区の地名にちなんで「長瀬焼」と呼んでいます。
【写真中】メッセージカードの一部(クリックすると拡大します。)
【写真右】蘭を贈呈先で飾っている様子
< あいさつ >
 
大熊直人さん/久里浜少年院 院長
当院での社会貢献活動「花育」は、令和元年(2019年)に始まりました。子どもたちが誰かのために役立つ活動が何かできないかと考えていた折、日本フィランソロピー協会との出会いがあり、椎名洋ラン園とつないでくださり実現しました。初年度は国際課の在院生のみが参加しましたが、今は全在院生が参加する活動になっています。
きょう贈呈する蘭は、子どもたち一人ひとりが名前を付け、毎日観察し、水や太陽を気にかけ、愛情と責任をもって大切に育ててきました。丹精込めて育てた蘭が贈呈先でさらに多くの人を笑顔にすると思います。卒院後は蘭を大切に思って育てたように自分を大切にし、自身の人生の花を咲かせてほしいと願っています。
 
在院生代表/国際課 日本語学習中
ぼくは10月に花育の説明を受けました。
そのとき、病気の子どもの写真をみました。
悲しくなって支えたいと思いました。
花を受け取りました。毎日、一生懸命世話をしました。
太陽のない日は心配しました。
これからは花がいないので、さびしいです。
きょう、花を贈ります。人間の人生、悲しいこと、楽しいことがあります。
今が悲しくてもきっと楽しいことがあるから、これからは大丈夫です。
 
椎名 輝(しいな ひかる)さん/有限会社椎名洋ラン園
まずは蘭の生産者として皆さんにお礼を言いたいと思います。
3ヶ月前に鉢を渡したときには、花は咲いていませんでした。
でもきょうはきれいに花が咲いたり、つぼみがついたりしていました。
蘭を見て誰一人としてぞんざいな扱いをしていなかったことが分かりました。
ありがとうございました。
 
花育が育てたものは3つあると思います。
ひとつは、胡蝶蘭という命を育てたということ。
二つ目は、寄贈先の団体に贈りたいという気持ちを育てたということ。
三つ目は、思いやりの気持ちを育てたということです。
 
言葉を発しない花にお水をあげる、お世話をするというのは、一番小さな思いやりです。
この蘭はこれから毎年花を咲かせて、長いものは20年近く、みんなの花は見る人の心を癒し続けます。これは、自分のためでなく誰かのためにしたことで、人として一番素晴らしいことです。
最後に、蘭の生産者としてアドバイスをおくりたいと思います。
花は生きていく環境がとても大切です。蘭を砂漠の真ん中に置いたら、育てることはできない。生きていくために適した環境が必ずあります。みなさんも社会に出て、良い環境に身を置いて生きて、幸せになってくれることを祈っています。
それから、みんなの書いたメッセージを読んで、心の強さと信念を感じました。社会から必要とされる人になってほしいです。
 
髙橋陽子(たかはし ようこ)/公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長
花育のコーディネートをしている日本フィランソロピー協会の髙橋です。
フィランソロピーは、人に対しての思いやり、愛をもって社会貢献することを指しています。
蘭を育て始めたとき、最初は戸惑ったり、面倒だなと思ったり、花が咲かないかも・・・と不安になったと思います。でも、蘭を見捨てずに育ててくれてありがとうございます。団体に贈る蘭は、そこにいる病気の子ども、障がいのある人などを元気にします。みんなの努力や思いも一緒に届いていると思います。
 
きょう、寄贈先団体の皆さんも楽しみにしていらしたと思います。
皆さんを応援している大人がたくさんいることを忘れないでください。
少年院を出たら、大変なことがあるかもしれませんが、花を育てたことに自信を持ってほしいと思います。これからの人生に花を咲かせて、周りの人も幸せにするような人になって欲しいと願っています。
【久里浜少年院】
少年院は、家庭裁判所の決定により保護処分として送致された少年を収容する法務省所管の施設。久里浜少年院は、「反社会的な価値観・行動傾向があるなど、非行の程度が深い少年」「外国人等で日本人と異なる処遇上の配慮を要する少年」「16歳未満の受刑者」などを対象に、健全な価値観を養い、堅実に生活する習慣を身に付けるための各種指導のほか、個別の問題性に応じた指導、日本語や日本文化・習慣を定着させるための指導などを重点的に行なっている。
 
【有限会社椎名洋ラン園】
1976年、千葉県旭市にて洋蘭栽培を開始。コンパクトでありながらボリューム感もある「ミディーコチョウラン」のオリジナル品種を開発し、国内外で生産および販売を手掛ける。2014年より、学校等で胡蝶蘭の苗を育て、花を咲かせて大切な人へプレゼントすることを目的とした授業、「大切な人のために花を咲かせるカリキュラム」を開始。千葉県を中心に小・中学校、高校、大学、児童養護施設、障がい者学校、デイサービス施設、少年院などで累計35か所・2,500名以上が参加。
ホームページ:https://sheena.ranran.co.jp
「フィランソロピー見聞録/久里浜少年院 社会貢献活動(2024年度)蘭の贈呈式」おわり

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