理事長ブログ

2019.12.29

第17回 一人ひとりの幸福に向けて(年末雑感)

最近、気に入っている番組がある。BS日テレの「小さな村の物語 イタリア」だ。名も知られていないイタリアの各地の小さな村に住む人たちの暮らしを追っている。一旦、村から都会に出て、戻ってきた人、生まれてからずっとこの村で暮らしている人、他の街から縁あってやってきて、この村を故郷にした人。それぞれに故郷に愛情と誇りを持ち、仕事をし、人生を送っている。ゆったりと流れる音楽と三上博史の静かで淡々と、そして愛情深く語り掛けるナレーションに、しばし、心穏やかな時間を過ごしている。この番組の魅力の一つは、村人たちの発する言葉だ。彼らは詩人であり、哲学者だ。先日の、年老いた料理人の女性の言葉。「何かに立ち向かう時は、のんびりしていた方がいい」
心臓弁膜症を持病に持つ8歳の少女は、「みんなができて自分にできない事は、慣れたので平気。今は、他の人にできないけれど自分にできることがある、と思っている」と言って、趣味の手芸用品を作り、友人などにあげている。今では隣町から注文を受けるほどになっている。親の介護があり、進学をあきらめてずっと村で暮らす40代の主婦は、家族のために自分にできることがあることが嬉しい、と、家族が集まる昼食づくりを楽しそうにしている。
アダム・スミスは、人間の幸せは、心が平静になっていること、と言った。そんな言葉を思い出させてくれる、村人たちの珠玉の笑顔と言葉。

ここ数年、これまでの福祉やまちづくりの、思い先行の活動から、成果を見据えた合理的で戦略的な事業運営が大事だと言われている。そして、各NPOの活動の評価にも関心が高まり、より成果が期待できる、さまざまな新たな活動を、心ある優秀な人材が興し、また、そこにも若者が集まってきている。非常に頼もしいと思う。ソーシャルビジネスにも関心が向き始め、これまでとは違う新たな可能性が見えてきた。しかし、進んでいく中で、事業の利益と社会性の両立が困難で、ズレが出てくることがある。ズレを直し、しかも成果を出すには、卓越したアイディアと実行力、ネットワーク力を駆使するために不断の努力が必要になると思うが、その時に、手段が目的化しないように、心しなければ、と思う。誰のために、何のためにやっているのだろうか? を考えて立ち止まることが必要だ。現場の一人ひとりの声にヒントがある。

今年最初の機関誌は、「今、改めてアダム・スミスに学ぶ」(仮題)というテーマ。2月1日に発行する。そして、2月21日は、企業フィランソロピー大賞の贈呈式だ。先日、機関誌に掲載するために、大賞の北良株式会社の笠井社長に話を聞いた。東日本大震災時の、釜石の奇跡について、こう語っていた。「小・中学生の生存率が99.8%と言われていますが、小学生は3名亡くなっています。救えなかったことがつらい。今度は、あらゆることをして助けたい」と、人材育成と機器の開発を進めている。数で捉えるのではなく、一人ひとりの名前のある人間の存在に目を向ける経営者の心意気と覚悟に圧倒された。

当協会の役割は、社会貢献のコーディネーターであるが、これからはより一層、現場の一人ひとりの思いや声を届けることに改めて心していきたい。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。