理事長・髙橋陽子のブログ

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髙橋陽子
 
 
2022.10.15
第36回/今年の誕生日に思う
毎年やってくる誕生日。子どもの頃はそれなりに楽しみにしていたが、大人になってからは、それほど嬉しい日でもなくなっていて、それでも心にかけてくれる家族や友人たちからのお祝いの品やメッセージはやはりうれしいもので、今年も誕生日が巡ってきた。
 
誕生日寄付
 
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3年前から、誕生日をいのちを与えられたことに感謝する日として捉え、誕生日には寄付をしよう、という運動を始めている。言い出しっぺなので、自分でもささやかな寄付をしているが、今年はこれまでと違った感慨を持った。自分の誕生日が少し意味あるものに感じられて嬉しい、と思ったことだ。寄付と共にメッセージをくださる方が、そういう思いを書いてくださることがあるが、今回、初めてそれを実感した。多分、この先の残された時間が少なくなってきていることに気づき始めたからかもしれない。
 
というわけで、これからも仲間を拡げていきたいと思っている。一人暮らしの人、家族や友人もいなくなっている場合など、誕生日は寂しい日になっているかもしれないので、ちょっとしたアイディアを思いついた。欧米では、職場で自分の誕生日にお菓子を配ったり、近所の施設に差し入れをする習慣があると聞いた。そこで、近所の養護施設や保育園、子ども食堂などに、「今日は私のお誕生日なのでおすそ分け」と言って、お菓子などを差し入れしてみてはどうだろうか。それがきっかけで付き合いが始まるかもしれない。フィリピンの養護施設では、ご自分の誕生日に、費用はご自分が負担して、その養護施設でパーティーを開いてもらう人がいるそうだ。子どもたちはケーキやご馳走を食べられるし、飾りつけなどもして大いに楽しめるので好評だとか。今年はコロナ禍で無理だったが、来年こそはそれに挑戦してみよう、と密かに目論んでいる。
 
久里浜少年院
 
久里浜少年院での「胡蝶蘭」贈呈式
 
久里浜少年院に寄せられた
「胡蝶蘭」寄贈先からのメッセージ
 
今年も、誕生日寄付でご協力いただいている椎名洋らん園とご一緒に行なってる久里浜少年院でのボランティアプログラムが始まった。各人が胡蝶蘭の花を咲かせてこども病院などに寄贈する少年たちのボランティアだが、3年目になる今年は、全員が参加することになった。胡蝶蘭が「相棒になった」という少年たち、別れる時は「淋しい」という思いに駆られる彼らにとって初ボランティア体験となる。生まれてこの方、「ありがとう」を言われたことのない彼らの「ありがとう」ゲット初体験でもある。
 
誰にとっても、優しくされる喜びは大きい。そして、「ありがとう」と言われる体験も、それに匹敵する大きなエネルギーにもなりそうだ。
誕生日に、「おめでとう」ではなく「ありがとう」と言われるのも、エネルギーチャージになる貴重な体験だ。歳をとったり、失敗したり罪を犯して心が弱ってくると、「ありがとう」は元気をもらえる魔法の言葉かもしれない。
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2022.08.15
第35回/小豆島のアートと暮らしと人に想う
コロナ禍3年目の今年の夏は、厳しい暑さと自然災害にも見舞われ、気持ちを抑えながらも、それぞれの判断で夏休みを楽しんでおられるのではないだろうか。
 
当協会の機関誌『フィランソロピー』で映画や文化のコラムを書いていただいている石井純さんを訪ねて、小豆島に行ってきた。石井さんは、元パナソニック株式会社常務で、会社人生の最後はメセナ担当だった。そして、今は、小豆島に移り住み、祖父母がかつて住んでいた家を私設ミュージアムにしている。
 
ジョルジュ・ギャラリー というのだが、ジョルジュ・ルース(Georges Rousse/フランスのアーティスト)氏とは、阪神・淡路大震災後の復興支援で出会い、このミュージアム開設につながっている。
 
さらに、その裏手にある元醤油会館を『醤の郷(ひしおのさと)現代美術館』として使用。小豆島につながりのある作品はじめ、100点余りの作品が展示されている。オークションで手に入れたものもあるが、石井さんのつながりが生んだ作品も多く、何ともリラックスしてかつ心温まる美術館である。
 
石井さんの祖父母の家に金箔を施した
インスタレーションアート
(ある位置から見るとこのように丸く見える)
醤の郷現在美術館
 
元醤油会館を利用した『醤の郷現代美術館』前景
 
そして、なんと、もう一つ美術館が増えていた。近くのレンガ倉庫をリノベ―トして、「MOCA HISHIO ANNEX」がオープンしていた。チューブで編んだり、段ボールで組み立てたりして創作したポップな作品群にこちらの気分もポップに盛り上がる。題して「ズガクリ」(ズガ・コーサククリ・エイト)館。折しも、3年に一度の 瀬戸内国際芸術祭2022 が開催中で、これらの美術館も参加している。
 
翌日、島の各所にある作品を見て回ったが、意外と数少ない観光客がいるだけで、島の人にとっては関係ない風である。直島(なおしま)や豊島(てしま)は多分、もう少し賑わっていると思うが、小豆島は、従来、瀬戸内の島々の中では食品産業も多く豊かな土地柄だったせいか、切迫感がないうちに衰退がじわじわ来ている感がある。
 
実際、面白かったのは島の人との出会いである。泊まった民宿のお爺さんは、港から電話をかけてルートを教えてもらい向かっていると、宿の前の道路に立って、ずっと両手を振って迎えてくれていた。その後の多少長いおしゃべりもウエルカムトークと納得。「パスタたこ焼き」というあり得ない組み合わせの定食を出す店のお兄ちゃんは、やっぱり大阪出身の移住者。排他的だけど優しい人が多い、とは移住6年目の弁。猛暑の中、バスを待つ間、ちょっと涼むつもりで入ったカントリーウエスタン気取りの餃子屋のおっちゃんは、妻にも子どもたちにも逃げられた、という話が頷ける、頑固さと寂しさをごちゃまぜに出してくる面倒なご仁であった。ただ、ウエスタンブーツ&ハットのいでたちながら、小豆島愛だけは全身から伝わってきた。
 
石井さんは、3年に一回ではない、毎年開催する小豆島の人たちと作る「もうひとつの芸術祭」を計画しているそうだ。自然と風土と人の暮らし。それが織りなす作品こそアートの根源か、と思いつつ・・。
機関誌『フィランソロピー』の次号(2022年10月号)のテーマは「社会インフラとしての文化芸術」。乞うご期待。
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2022.05.16
第34回/「誕生日寄付×カターレ富山」スタート
当協会では、個人の寄付文化の醸成を目的に、自分の誕生日に感謝を込めて寄付をする、という運動を展開している。誕生日といういのちを与えられた日に感謝をし、その恩返し恩送りの気持ちを込めて、次の世代のいのちを守ろう、という意味で、困難を抱える青少年を支え、希望へとつなぐ活動をしているNPOなどに寄付をしている。
 
いのちより経済、いのちより国益、という動きが一気に高まっている昨今、その活動をより拡げたいと思い、このほど縁あって、富山のJリーグ「カターレ富山」とのコラボが実現し、5月13日にスタートした。この日、富山市で同クラブの左伴繁雄(ひだりとも しげお)社長とともにプロジェクトが開始した、という記者発表をした。そして、ゲストとして東京からオンラインで、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎さんにもご参加いただいた。
記者発表
プロジェクトイメージ
 
川淵三郎さんは、長年、ご自分の誕生日に寄付を続けておられる。それを称え、当協会が主宰していたまちかどのフィランソロピスト賞の20回目(2017年度/最終回)に、特別賞をお受けいただいた。そのアイディアを使わせていただき誕生日寄付プロジェクトを始めた、という経緯がある。川淵さんは、まさに誕生日寄付生みの親である。ご挨拶の中でも、このコラボ企画について、ご自身がカターレ富山の創設に力添えをした経緯や、Jリーグを創設するにあたって、アメリカに視察に行った折の体験などを話していただき、大いに期待していると話されていた。また、自分の誕生日だけではなく、子どもの誕生日に寄付された事例を紹介したところ、非常に共感いただき、子どもも一緒に誕生日寄付を習慣化させよう、とエールをいただいた。
 
川淵さんが誕生日に寄付を始められたときのエピソードや、アメリカ視察旅行のお話は、当協会機関誌『フィランソロピー』No.389/2018年12月号の 巻頭インタビュー に詳しく掲載している。全文をHPに掲載しているので、ぜひご一読いただきたい。
 
「誕生日寄付×カターレ富山」の寄付先は、富山県下の障がい児支援団体。障がい者手帳を持っている子どもだけでなく、グレーゾーンの子どもたちなども含む縦割り行政の狭間にいる子どもたちも応援したい、という左伴社長の挨拶があった。
 
福祉の世界では、富山型デイサービスが有名である。1993年(平成5年)に、子どももお年寄りも障がい者も、いろんな人がお互いに支え合いながら、地域の中で自分らしい暮らしを続けられるように、という思いで、誰でも利用できる場を作り、「このゆびとまーれ」というNPO活動が始まった。当初はなかなか理解が得られなかったが、努力の甲斐あり1998年(平成10年)には富山県独自の補助金が交付され、行政と連携した「富山型デイサービス」を全国に先駆けて実践してきた。
 
そんな土地柄の富山で、地域版誕生日寄付がスタートした。選手もサポーターも、地域の人たちも、他地域にいるけれど富山に縁のある人たちも、サッカーを通して故郷を応援し合う活動へと発展させていきたいと思っている。
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2022.04.01
第33回/2022年度のスタートにあたって
今日から2022年度が始まった。昨年度は、30周年事業に没頭していて、気づいたら・・・。
今年度は、これまでの事業を生かし、点から線へ、そして面へと拡げていかなければ、と思っている。
 
SDGsの「誰も取り残さない社会づくり」の実現のために当協会ができることは何か、と考えたとき、属性を超えた「共感」を軸に、それぞれの個人や企業が社会課題のリアルを伝え、課題解決のための実行可能な方策を共に見出し、実行に移すためのコーディネートや伴走か。取り残されがちな人も含めて誰もが、社会参加・社会貢献ができる機会の創出をめざしたいと思っている。
 
昨年度実施し、今年度に繋げ発展させたい事業をご紹介しよう。
 
久里浜少年院
 
久里浜少年院での「蘭」贈呈式
詳細は こちら をご参照ください。
一つは、久里浜少年院での「花育」。少年たちが独居室でミニ胡蝶蘭の花を咲かせ、それをNPOや施設などに寄贈するというもの。昨年12月には、花の寄贈先である団体の方に同少年院に来ていただき、贈呈式を行なった。少年たちは、その準備のために、絵を描いたり紙で花飾りを作ったり、贈呈式を楽しみに準備していたそうだ。
 
“相棒”となった花と別れるのが寂しい、と異口同音に言っていた。そして、寄贈先の神奈川県立こども医療センターの動画で病気の子どもたちの様子を見た後、「この花を見ている時は、せめて病気の苦しみを忘れてほしいです」と言う。
 
この子たちは100%、残酷な虐待を受けてきた子どもたち。親に、大人に、社会に、そして自分に絶望して少年院に入ってくると聞いた。出院までに、少しでも「信頼と希望」を感じてもらいたい、と思っている。花を咲かせ、人が喜んでくれる、という体験をして、自分にも人を思いやる心がある、自分を応援している人がいることを実感しつつ実社会に戻って、就職しささやかでも幸せを実感できる人生を送ってほしい、と祈るばかりである。
 
農福連携
 
農福連携事業の就労サポーター育成研修
研修生が障がい者の収穫作業を見ています。
詳細は こちら をご参照ください。
もう一つは福島県郡山市の委託事業としての 農福連携事業。昨年度まで3年間にわたり実施した。障がい者や引きこもりなど就労困難者の仕事づくりと農家の人手不足・後継者不足の解決にも資するためのパイロット事業であった。先ほどの少年院出院者に関していえば、仕事をしていない人の再犯率は就労している人の3倍と言われている。少子高齢化の中、まさに社会の損失である。タックス・イーターではなく、タックス・ペイヤーを増やし、本人たちの生きがいにもつなげたいと思う。
 
そこで見えてきた課題は、農家も福祉側も共に人手不足だということ。そこで、農福連携事業のサポーターを増やす必要性を実感し、カリキュラム作りとパイロット研修を実施した。カリキュラムをさらに改良しながら、企業ボランティアを中心に、各地でサポーター育成研修を行いたいと思っている。このところ、企業の社会貢献として、従業員のボランティア参画への関心が高まっている。今年度は、東京はじめ全国の数か所でサポーター育成のための研修事業を実施する予定である。農業や就労困難者の伴走に関心のある方々の参加を期待したい。
 
今年度は「取り残されがちなひと」の可能性と魅力を広く一般の人たちにも伝え、参画を促しながら、コミュニティ全体が優しく元気になるよう、面的な拡がりをめざしてスタッフとともに力を尽くしたい。
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「理事長・髙橋陽子のブログ/2022年度」おわり