理事長ブログ

2020.02.20

第18回 2つの映画から学ぶ「誰も取り残されない社会」とは?

今年最初に観た映画は『男はつらいよ お帰り 寅さん』。昨秋、NHKで寅さんの少年時代を描いた『少年寅次郎』を観たのだが、寅さんは、赤ん坊の時、母親に捨てられている。実の父親の家にもらわれるが、その父親が寅ちゃんになぜか冷たい。温かく育んでくれたのが、父親の奥さん。物語は、その育ての母が亡くなった後、寅ちゃんが家を出て、フーテンの寅さんになっていくところで終わった。寅さんの幸せになることへの臆病さ、人のぬくもりを求め、でも、それに甘えられず、すっと消えていく。心底優しい心根。彼の生まれと育ち、そして、彼の死後、影響を受けた人たちの寅さんの温もりを求め、なぞるように生きている様。それが、50年経った今も根強い人気の所以だろう。それにしても、山田監督の人物の描き方に、今更ながら脱帽である。

 

©︎2019-松竹株式会社

次に観たのが、ドキュメンタリー映画の『プリズン・サークル』。島根あさひ社会復帰促進センターという刑務所に入所している受刑者の話。ここには、初犯などの男子受刑者2000人が収容されている。ここは、全国で唯一「TC(治療共同体・回復共同体」)と言って、当事者たちが中心となり、お互いに語り合ったり、ロールプレイをしながら自己開示をする。相互に影響を与えながら、自分自身の犯罪に向き合い、受け止め、新たな価値観や生き方を身に着けるリハビリテーションのためのプログラムである。人間的成長を促すための場とアプローチを提供している。本人が希望し、かつセンター側でも可能だと判断した受刑者30名から40名が半年から2年程度、寝食や作業を共にしながら、週12時間程度のプログラムを受ける。

この映画では、主に4人の受刑者を追っている。彼らが向き合うのは、犯した罪だけではなく、幼児期に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶や痛み、哀しみ、恥辱や怒りといった感情にも向き合い、それを表現する言葉を獲得するというプロセスを追う。自分の被害者にはなかなか向き合えないのだが、人のケースを話し合っている時には、被害者の傷を思うことができる、という受講者がいた。そして、自分の犯罪について語りながら涙をぬぐう当事者に、「それは何の涙?」と突き付ける仲間。そして、少しずつ、自分と向き合えるようになる。それを臨床心理士など専門家がファシリテーターとして伴走する。

こうした取り組みがなされていることにも驚いたが、現在の受刑者約4万人のうち、TCを受けているのは40名程度だということにもっと驚いた。ますます、犯行に至る過程での体験の深刻化や複雑化が進む中、こうしたプログラムは、彼らのやり直しや再犯防止にも、非常に有効なはずだ。出所後も、時々、TC受講者が集まるサークルが設けられている。やくざなどに引っ張られそうになっている仲間に、叱咤激励が飛ぶ。

 

(C)2019 Kaori Sakagami

犯罪予防、そして、出所後の再生のためには、寅さんのような、寄り添って応援してくれる人がたくさん必要だ。そして、刑務所内での更生のためにも、非常にきめ細かいサポートが必要であることがわかった。TCプロジェクトも、参加者を増やすためには、対象者の特性や、心的状況・人間環境・体験のレベルなどに合わせた多様なプログラム開発も必要だろう。

支える人たちの育成や人件費が必要だ。これは、「税金で」、とは言ってられない。 民間の知恵とお金が不可欠である。 個人寄付の行き先は、後を絶たない。誰も取り残さないためには、皆で支えることを考え、できることから行動に移すことが必要だと切に思う。