巻頭インタビュー

Date of Issue:2021.6.1
巻頭インタビュー2/2021年6月号
こじま・ふじお
 
株式会社ピリカ/一般社団法人ピリカ代表。
富山県生まれ。大阪府立大(機械工学)卒。京都大学大学院(エネルギー科学)を休学し世界を放浪。2011年に株式会社ピリカ創業。世界中からごみを回収するごみ拾いSNS「ピリカ」、ポイ捨てごみの分布調査システム「タカノメ」、海に流出するマイクロプラスチック調査「アルバトロス」等を事業化。2013年に eco summit in Berlin で金賞、2021年第一回環境スタートアップ大賞にて環境大臣賞受賞。
公式HP:https://corp.pirika.org/
科学技術の力で自然界に流出するごみ問題を解決する
「ピリカ」の挑戦
株式会社ピリカ/一般社団法人ピリカ 代表
小嶌 不二夫 さん
2011年に京都大学の研究室で生まれたピリカ。ポイ捨てされ、自然界に流出するごみ問題を、科学技術の力で解決する各種サービスを提供する。2021年3月、環境分野での新たなロールモデル創出と事業機会拡大の支援を目的とする、第 1回環境スタートアップ大賞にて環境大臣賞を受賞。注目されるその取り組みについて、株式会社ピリカと一般社団法人ピリカの代表、小嶌不二夫さんに聞いた。
子どものころからの夢、科学で環境問題を解決する
― 小嶌さんが、ピリカ創業のころに登壇したプレゼンイベントで、「ごみ拾いします。これで世界を変えます!」と言った姿があまりに印象的で忘れられず、ついに同社に入社してしまったと、貴社の社員の方がおっしゃっていました。なぜ、環境問題のなかでも「ごみ拾い」だったのですか?
小嶌 最初のきっかけは、小学校2年生のときに、学校の図書室にあった「地球の環境問題シリーズ」を読んで、環境問題の解決に興味を持ったことです。科学が大好きで、科学で環境問題を解決できたらかっこいいなと思い、研究者になりたいと夢見ていました。
― ところが、進む道に疑問が生まれたのですね。
小嶌 研究者になろうと大学・大学院に行ってはみたけれど、研究の世界では、自分のやりたい環境問題の解決ができそうにないと感じました。人生の40年50年かけて、一つの専門性を突き詰めるのが研究の世界。環境問題のような幅広い分野だと、全部に取り組むのは難しい。また、研究は調査研究をして、論文を書き知見を広げるところまでで、実際の問題を解決していくプロジェクトは、そのあとに発生します。そこをやろうと思うなら、研究者の道ではないと思いました。
― それで、世界放浪に?
小嶌 はい。取り組む分野をしぼらないといけないので、何をしたらいいか見つけようと旅をしました。行った先の国や地域で目の当たりにしたのが「ポイ捨てごみ」の深刻な実態です。「ITを使って、世界からポイ捨てごみをなくせるかもしれない」と思い、戻ると、友人とともにSNS「ピリカ」を作り始めました。
― 組織に入るという選択肢はなかったのですか。
小嶌 インターンで働いたりアルバイトをしたときに、上司との相性のうまくいかなさが半端じゃなくて(笑)。そうなると自分で始めるしかありません。
― 株式会社と一般社団法人とふたつあるのは、なぜですか。
小嶌 環境問題では事業規模の拡大を狙いたいと思ったので、創業期は、株式投資など複数の資金調達の手段がある株式会社としてスタート。やりはじめると、事業が環境問題の解決なので、非営利的な仕事もはいってきます。ある財団の担当者から「株式会社でなく、法人格が変われば支援ができる」と言われました。それで一般社団法人をつくり、非営利の事業との両方で、規模の拡大を図ることにしました。
「ピリカ」で一人ひとりのごみ拾い活動をつなぐ

ごみ拾いSNS「PIRIKA/ ピリカ」で仲間とつながり、時間や場所を選ばす、自由に社会貢献活動ができる。企業・団体版ピリカ、自治体・地域版ピリカもある。
― 起業当初から、ごみ拾い専用のアプリをつくろうと考えたのですか。
小嶌 最初は、環境問題全体を扱おうと思っていました。ところが、アプリをつくりながら実験してみると、世の中の都市部にある環境問題には、水質汚染・大気汚染や、道路の壊れ、自転車の放置などのいろいろな問題がありますが、タバコとかチリ紙のごみの数が圧倒的に多いのです。スマートフォンは画面サイズが限られているので、ひとつの問題に特化したほうが、利用者にもわかりやすいし広がっていきやすい。そこで、自分の方向性にも合う、ごみの問題に特化しました。
― アプリを見たのですが、びっくりしてしまいました。世界108か国で、1億8,525万8,324個のごみが拾われたと表示があって(2021年5月7日現在)、世界中で利用されているのですね。具体的には、「ピリカ」でどのようなことが期待できるのですか。
小嶌 三つの観点があり、一つはコストです。世界中に散らばって流出し続けているごみを、企業や業者に依頼して回収しようとすると、コストが高くなりすぎます。住民の方々に参加していただき、その力を借りて解決するほかなく、「ピリカ」なら、一人ひとりの力を結集することができます。
― 住民の力が原動力。それをつなぐアプリなのですね。

ごみ拾いSNS
「PIRIKA/ピリカ」の画面
小嶌 二つ目は広がりです。ごみを拾っている人たちは深夜や早朝にやっていることが多く、まわりは気づかないし、本人も知らせようと思っていないケースがほとんどです。その様子を発信すれば、ほかの人が真似をするかもしれないし、少なくとも捨てるのを止めようと思いやすくなるはず。その意味で、「ピリカ」で広がっていく力が増加すると思います。記録も残るので、活動を見てもらったり、フィードバックすることもできます。
そして、三つ目は啓発ですが、ごみ拾い業界には、ごみを拾うとその人はポイ捨てしなくなるという経験則があります。つまりごみを拾うこと自体が啓発になる。ごみ拾いは、自分自身で少しでもやってみることが大事ではないかと思います。
― 個人だけでなく、グループや企業版「ピリカ」はどうですか。
小嶌 日本の企業は、なにかしら清掃活動をしていますし、いまは、コロナ禍で集まれないので、オンラインで参加できる社会貢献活動が求められていて、企業として導入するケースが増えています。
以前、大手の自動車メーカーが、工場の清掃活動を「ピリカ」に載せ始めたら、隣の家電メーカーが対抗して清掃活動を開始したことがありました。企業の活動も「見える化」することで、いい意味での対抗意識や、取り組みの広がりが生まれています。
― 「ピリカ」は、いまや世界最大のごみ拾いSNSだそうですが、その次の事業が、2014年から始まった、ポイ捨てごみの状況を調査するサービス「タカノメ」。スマホアプリ「タカノメ」で撮影し、画像解析システムでごみの種類や数量を読み取る調査ですね。
小嶌 当初は、拾うことで、同時に調査もできるといいと思っていましたが、わかったのは、人間はごみを拾うときも選り好みをすることです。食事の前にはタバコは拾いたくないとか、ペットボトルばかり拾うとか。だれがどこで、どれくらい拾うかはコントロールできないので、調査としては向かないことがわかりました。
― 「タカノメ」でごみが減ったかどうかが、定量的に検証できるようになり、多くの自治体の美化対策などに採用されているとか。
ところで、ご自分もごみ拾いをなさるのですか。
小嶌 もちろんです! 率先してやらないと、ユーザーさんに怒られてしまいますから(笑)。
マイクロプラスチックの流出メカニズムに挑戦

流出抑止のためのマイクロプラスチック調査の様子
 

調査装置「アルバトロス」。国際連合環境計画のメコン川流域調査など世界中で活躍している。
― ごみ問題のなかでも、今、一番注目されているのが海洋プラスチックです。川から、どんなごみがどんな経路で海に流出するのかを調査する、マイクロプラスチック調査サービス「アルバトロス」について教えてください。
小嶌 落ちているごみもそうですが、普通イメージするごみと、実際に流出しているごみには、少しズレのあることが多く、川や海では、「緑色の破片がたくさん見つかるな」と感じていました。
そこで、「アルバトロス」という装置で、水中のマイクロプラスチック(直径5mm未満のプラスチック粒子またはプラスチック断片)を採取する調査を始めました。調べていくと、それらは、スポーツグラウンドの人工芝や、玄関の足ふきマットで使われる硬くてゴワゴワした人工芝。割れたりちぎれてパラパラと落ちた破片が、水路から流出していることが分かりました。(国内の河川・港湾を漂うマイクロプラスチックの20%が人工芝)
― 人工芝ですか! 社会貢献で人工芝を植えるという活動がありましたが。いいと思った活動が別の側面から見るとそれ自体が社会課題になる。非常に重要な視点ですね。
小嶌 ほぼ2年、この問題に取り組んでいます。発表の場でその問題を公表して、メディアや媒体で記事になったので、マイクロプラスチックとしての人工芝の流出が、はじめて社会に認知されるようになりました。
― その製造責任はどうなりますか。
小嶌 業界の人もまったく気づいていませんでしたから、認識されてなければ、問題は存在しないものとして扱われます。それが明らかになった今でも、責任は、作ったところなのか、購入して敷地を持っているところなのか、敷地を管理運営しているところなのか、まだ決められない状況です。このままでは、問題解決が進まないことがよくあるので、調査をした結果に基づいて交通整理することも、われわれの仕事なのかなと思っています。
― 課題解決につなげていくために、イノベーティブな仕事です。
小嶌 業界の企業にコンタクトをとり、問題についてお話ししました。また、人工芝を使うグラウンドや公園は、自治体が最終的な責任者、管理者であることも多いので、自治体にも伝えました。大半は「めんどうだなあ」という反応です。企業や自治体にしてみれば、いままで責任を問われたことのない問題で、急に責任を問われて、辛い状況ではあると思います。
― まさに「不都合な真実」です。
小嶌 そこを認識してもらい、当事者意識をもってもらうことが大事だと思い、諦めずに話をしているうちに、想いをもった担当者に会えたり、前向きな企業に出会えたりして、いい転換期がありました。
― ブレずに粘り強く取り組むことで、信頼が生まれるのだと思います。
小嶌 たとえば、横浜市では、議員も一緒になり、実態を把握するために視察を組むなど、前向きな対応を始めてくれました。人工芝では日本でトップランナー的な企業とも、共同研究をすることになりました。少しずつ解決に向けた動きが具体化していて、実験が始まっています。
― まさに提案型の社会貢献。企業や自治体も、突然言われてどう検討していいかわからない。単に批判し、責任を問い詰めるのではなく一緒に考えましょうというところが大事ですね。
環境問題への意識の高まりのなかで
― 2011年の創立から10年を経て、大学院時代の仲間とはじめた組織が、現在では50名ほどになったと聞きました。一番の変化は、どんなことだと思われますか。
小嶌 社会全体でいうと、環境問題・社会問題を背景にSDGsという言葉が広く浸透するようになったことで、追い風は強くなっていると思います。特に、僕たちの扱うごみの流出問題では、気候変動が大きく扱われるなかで、海洋プラスチック問題やマイクロプラスチック問題が連日ニュースで報道され、注目されるようになったと感じています。
― 課題解決がまずミッションとしてあり、解決のためのツールとしてのテクノロジーを追求する。そして、それが新たな課題解決への道を拓くというステップが事業の発展を生んでいるのですね。
小嶌 はじめた時期が3年早かったら、社会が追いついて来る前に力尽きていたかもしれません。3年遅かったら、一番先頭を走ることは難しかったかと思います。
― タイミングを捉えるのも大事な経営センスです。株式会社と一般社団法人の両方で資金調達はうまくいっているとのことですが、個人の寄付は受け付けていないのですか。
小嶌 寄付については、去年からHPに寄付ボタンをつけました。きっかけは、世界の海のプラスチックごみ回収に挑んでいるオランダのNPO「オーシャン・クリーンアップ」です。寄付金だけで、年間40億円ほどを集めていると知りました。アメリカのセレブなどからも大きな寄付を集めて、太平洋のごみを囲い込んで回収するシステムをつくったり、川を渡る回収装置で流出するごみをすくいあげるという面白いプロジェクトを行なっています。いいライバル・先輩として見ていますが、寄付で収益を得ていることを知らなかったので、見過ごしていた力だと思い、寄付の実験を始めたところです。
― 当協会では、一人ひとりが自分のできることで助け合うことが大切だと考えています。ごみを拾う人もいれば、時間はないけれどお金で力になりたいという人もいる。ごみ拾いに共感する人が寄付で参加できれば、仲間の広がりができますね。まだまだ、新しいことができそうです。
小嶌 この仕事はどんどん新しいことが出てきて、やる範囲も広がっていきます。課題は内にも外にもあって、飽きることがありません。
― これからの展開は、どのように考えていらっしゃいますか。
小嶌 毎年、いろいろなチャレンジをしていますが、海外を旅してはじめた事業なので、海外の問題を解決することは、ぜひやりたいですね。日本の環境問題は世界的に見ると、規模で100分の1にも満たないので、将来的には、残り 99を中心的にやっていく会社になるべきだと思っています。そのときには、メンバーも半分は日本人でなくなっていると思います。
― ミクロの視点で、ごみ拾いという一人ひとりのボランティア活動をつなげながら、マクロでは、科学的技術で、多様な企業や自治体などと協働し環境問題を解決していく。ミクロとマクロ、両方での創発的な事業展開にこれからの可能性を感じます。あらゆる環境問題の解決に挑戦し、「グローカル」企業としての世界のピリカに発展されることを、こころから期待しています。
きょうはありがとうございました。
【インタビュー】
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長 髙橋陽子
 
(2021年5月6日オンラインにて)
機関誌『フィランソロピー』巻頭インタビュー2021年6月号 おわり