Date of Issue:2025.6.1
◆ 特別インタビュー/2025年6月号

ふれあい社会、共生社会づくりに懸けた思い
─堀田力さんを偲ぶ
─堀田力さんを偲ぶ
公益財団法人さわやか福祉財団 理事長
清水 肇子 さん
2024年11月24日、堀田力さんが亡くなられた。法務大臣官房長を最後に退官後、「新しいふれあい社会の創造」を理念に掲げ、ボランティア活動の意義と必要性を訴えて、精力的に活動されていた、その生き様に、誰もが圧倒された。まさに信念の人であった。堀田さんの意志を継ぎ、さわやか福祉財団理事長として助け合い活動を推進している清水肇子さんに、堀田さんが貫いた信念を語っていただいた。
堀田さんから受け継いだこと
― 堀田さんには、長年にわたり当協会の理事・顧問をお務めいただきました。堀田さんは1991年11月にさわやか福祉財団の前身である、さわやか福祉推進センターを設立されましたが、私はその年の4月にフィランソロピーの世界に飛び込みました。右往左往していたときに、新聞で「鬼検事が福祉の世界に」という記事を読み、青山の事務所を訪ねたのが最初の出会いです。「カミソリ堀田」の異名をとった方とは思えない、穏やかな雰囲気でした。以来、さまざまな場面で励ましやご指導をいただきましたが、堀田さんの教えをしっかり肝に銘じなければと改めて思っています。清水さんは、堀田さんの後継者として長く財団に関わってこられましたね。
清水 私が理事長になったのは2014年ですが、財団創立時からボランティアとして関わっていました。でも実は堀田さんから「後継者をお願いします」と直接言われたことはないんです。新聞や情報誌に書かれて外堀を埋められた感覚です(笑)。深慮遠謀だったと思いますが、むしろ、私自身がやれるのか、やりたいのか、最後は自分で決断してください、ということだったのでしょう。どう考えても堀田さんの後は大変だし、同じことはやれません。ただ、堀田さんの考えに共感して、ご縁があってご一緒させていただいたわけで、状況が変化したとしても、私が財団でやるべきことは、堀田さんが皆さんと一緒に作り上げ、取り組んできたことを大切に受け継ぎながら、さらに前に進めていく道筋をつくっていくことだと思っています。
― 堀田さんは妥協を許されない方でしたから、一緒にやっていくのは大変だったでしょう?
清水 そうですね。堀田さんが方向性を示して号令をかけて、みんなが了解したとしても、どうやっていいのかわからないということもあります。共感する基本の部分は同じでも、それぞれ考える角度も違うし幅も違います。私自身も納得していないと判断がぶれますから、自分は右だけれども堀田さんが左と言われたら、自分の考えはいったん脇に置いて、なぜ左なのかを考える。絶対に違うと思ったら反対すればいいのですから。
山手線一周辻立ちファンド
― 私が一番感動したのは、やはり「山手線一周辻立ちファンド」です。現役サラリーマンの社会参加を拡げよう、ひとつでも地域社会に役立つ活動を実践してもらおうと、ビジネスで使っている名刺の裏に、ボランティアや地域活動を入れる「名刺両面大作戦」の一環でしたね。2010年6月に新橋駅からスタートして1年間、各駅2週間、月曜日から金曜日の朝7時45分から1時間、駅前で通勤客に呼び掛けられました。
清水 創立当時から財団では、企業や学生・生徒の地域参加を推進してきました。働く人、特にビジネスパーソンの助け合いによる生活支援活動への参加はこれからの時代に必要なもので、かつ、そうした地域活動は社員の人間力育成にも大いに役立つからです。翌年3月に東日本大震災があり、募金活動を前面に出して訴えかけました。ただ、立ち止まってしっかり聞いてくださる方は少なかったですね。
― ご本人は当然だと思ってはいても、悔しい部分もあり、社会の冷たさを感じたとおっしゃっていました。
清水 思いを込めて演説し、チラシを配っても、聞いてくれないし受け取ってくれない。落ち込んだりするわけですよ。でも最後まで続けました。途中でやめるという選択肢はなかったと思います。
― 決してあきらめない。やりぬくのみ。堀田さんの真骨頂ですね。
コロナ禍で生まれた地域助け合い基金
― 地域助け合い基金も、ふれあい、助け合い社会の具現化でもあると思いますが、きっかけは何だったのでしょうか。
清水 「地域助け合い基金は2020年5月に創設しましたが、きっかけは、新型コロナウイルスです。コロナ禍で助け合いの活動も多くが止まってしまいましたが、人々の生活の困りごとは止まるどころか、さらに増えました。人との接点を持つな、集まってはいけないというのが当時の社会常識で、行政は地域活動をやめるべきだという方向でしたから、支援も期待できない。でもそのままにはしておけません。今までは食事を届けて一緒に食べていたけれども、ドアの前に置いておくようにする。室内の会食を、屋外でやってみる。皆さんそれぞれ、地域の中でいろいろと工夫して、必要なことを柔軟にやっておられました。
― 全国各地で助け合いの地域づくりを実践されている方々の中から、協働者としてボランティアパートナーを委嘱していらっしゃるそうですね。全国にどのくらいいらっしゃるのですか。
清水 さわやかインストラクター・助け合い推進パートナーの皆さんです。現在44都道府県で約200名の方に委嘱していて、各地で住民主体の活動を応援し、助け合いの推進に取り組んでいただいています。コロナ禍で地域の人たちの困りごとをどうやって支えていこうかと考えた時、まず、さわやかインストラクターの皆さんにアンケートをお願いしたんです。確かに止まってしまった活動も多かったのですが、その代わりに別の活動をやっていらっしゃることがわかりました。そういう気持ちのある方が全国にいらっしゃるとすれば、私たちにできるのは情報提供と資金集めです。皆さんの活動が少しでも進むように、という思いで地域助け合い基金を創設しました。当財団の機関誌は全国の自治体や社協、地域包括支援センター等にも送っていますので、そこから生活支援コーディネーターの方々にも情報が届きます。

さわやか福祉財団と地域助け合い基金
― 堀田さんが強力に推進なさったのですね。あきらめずにやることによって次の世代につなげていく。身をもって示してくださったと思います。
清水 それこそ、堀田さんの著書『壁を破って進め』ですね(笑)。壁はたくさんあるけれども、そこに向かい続けること自体が大事だというお考えでした。それは生き様を見ていて感じるところでもあり、私自身もそうなので、自然と共感できます。今どこに向かっているかということは大事だとおっしゃっていましたね。確固たる信念をもってやるけれども、決して硬直的ではなくて、その都度柔軟に考えてやり続けるということです。
ふれあい社会づくり、共生社会づくりを推進するために
清水 財団が目指すのは新しいふれあい社会づくり、共生社会づくりです。理念は変わりませんが、時流は変化していますから、その中で財団としての役割、社会から期待されている使命は何かを考えたときに、「助け合い」のための人材育成や環境整備の支援がますます重要と考えています。制度への提言とともに、誰もができる形で地域につながり、互いに助け合い、支え合う活動を民間の立場で発信する。
どのように柔軟に取り組むか、山あり谷ありですが、助け合いの意味や価値を言い続けていくことも、財団の役割だと思っています。個人の楽しみだけでなく、地域とつながることで楽しめる、それが地域にとって効果を高めることになる、という意味でも社会参加は重要だと思います。
どのように柔軟に取り組むか、山あり谷ありですが、助け合いの意味や価値を言い続けていくことも、財団の役割だと思っています。個人の楽しみだけでなく、地域とつながることで楽しめる、それが地域にとって効果を高めることになる、という意味でも社会参加は重要だと思います。

助け合い活動のマトリックス(さわやか福祉財団『新地域支援 助け合い活動創出ブック 改訂版』より
― その意味でも、助け合い基金は社会参加のハブですね。そういう人たちが増えてきている実感はありますか?
清水 そうですね。若い世代は特にお子さんのための活動も含めて、仕事とうまく両立させている方も多いと思います。子どもをしっかりと社会で育てていくということも大きな柱です。
― 子どもの育ちを、周りが支えたり見守って、子どもたちが自ら伸びる力、生きる力をつけていく。人間力を養うという意味でも、地域でできることは多いと思います。助け合いや支え合いは、顔の見える関係が一番強いですね。助け合い基金のホームページには、寄付された方のお名前やメッセージが掲載されていますが、大事なことですね。それを丁寧にやっていらっしゃるところが、広がる源泉になっているように思います。
清水 ありがとうございます。クラウドファンディングのような地域活動への直接的な寄付ではありませんが、多くの方に賛同いただき、心から感謝しています。基金への寄付がいろいろな活動に生かされているという仕組みを評価いただいていますから、それをしっかり伝えたい。2025年4月末現在で助成件数が1288件、助成額は1億9600万円を超えました。この基金の中には遺贈ご寄付も含まれています。
― 大きな額ですね。遺贈の場合は、自分への見返りを求めないわけですから、社会のために役立ててほしいという気持ちでしょう。
清水 そうですね。戦争で苦労したから、二度と戦争が起こらないような優しい社会にしてほしい、と寄付してくださる方もいらっしゃいますから、そういう方々のお気持ちをしっかりお預かりして、成すべきことをやっていければと思っています。
― さわやかインストラクターには若い世代はいらっしゃるのですか。
清水 10年ほど前に介護保険制度が改正されて、インストラクターと同じような役割の生活支援コーディネーターが各自治体に設置されるようになりました。その時からインストラクターの養成は止めています。シニア世代のほうが多くなりましたが、皆さんとてもお元気でお若いです(笑)。でもインストラクターの皆さんは地域を熟知していますし、各地域の団体には若い世代もいますから、働きかけや連携をしています。
― 企業人はどうでしょう?組織としてできることは増えてきており、従業員のボランティアへの関心も多少高まってはいますが、地域との関係はやはり希薄かもしれませんね。地域とつながっていることで、救われること・不安が軽減されることがあると思いますが。
清水 介護離職も増えていますし、抱え込みがちですよね。例えば、親が認知症になった、介護状態になった時に、知識がない。会社にも言いづらいし、休みも取りづらい。住んでいる地域にもれなく助け合い活動の団体があるわけではありませんが、そういう仕組みがある、相談できる場があることがわかれば、少しは気持ちの面で壁が低くなるのではないでしょうか。これからは意識してそうした皆さんにも情報をお届けできればと思っています。ご支援をよろしくお願いします。
― 若い時から助け合いの習慣化ができると、きっと変わりますね。次世代の子どもたちへの支援についてもぜひご一緒にできればと思います。堀田さんにほめていただけるようにもう少しがんばります。
【インタビュアー】
公益社団法人日本フィランソロピー協会(JPA)
理事長 髙橋陽子
(2025年4月7日 公益財団法人さわやか福祉財団 にて)
公益社団法人日本フィランソロピー協会(JPA)
理事長 髙橋陽子
機関誌『フィランソロピー』特別インタビュー/2025年6月号 おわり
