公益社団法人日本フィランソロピー協会
農福連携による共生社会創造事業(2023年度~2026年度)
2024年3月15日公表
Latest Update:2024.3.15
 
採択事業公表(2024.3.15)
2023年11月15日から同12月18日にかけて実行団体を公募したところ、全国の33団体から33件の事業申請があり、当該分野の専門家である外部審査員4名により厳正なる審査を行なった結果、下記8件の事業を採択しました。
申請事業全33件の概要は、こちら をご覧ください。
 
採択事業
No.
団体名
所在地
事業名
対象地域
1
社会福祉法人月山福祉会
山形県鶴岡市
山形県における農福連携による共生社会創造事業
山形県鶴岡市、酒田市、三川町、庄内町、遊佐町
農業は私たちの食生活を支え、里山を守り、自然災害の災禍縮小と自然環境を守る多面的役割を担っている。しかしながら、山形県においても就農者の高齢化と離農、後継者不在による耕作放棄地の増大が課題である。本事業では、潜在的労働力である、一般就労に意欲を持つ非正規雇用者、ひきこもり、触法者、障がい者等に対し、一般就労を目標に農業就労へのマッチングを進める。農業が持つ重要な役割と自然と共に働く効用を再認識し、農業が必要としている「働き手」と「潜在的労働力」とをマッチングさせるため、当法人が国の認定により行なう無料職業紹介事業および鶴岡市より受託して行なう生活困窮者自立支援事業「あしたば」と連携のもと、新たに創設する「あぐりランド」において調整・コンサルテーションして農福連携を推進する。
申請団体は、認定農業者でもありこれまで農畜産業を自法人の事業として取り組み農福連携を行なってきた実績があります。申請事業では、2024年4月より開始する「無料職業紹介所」と組み合わせ、障がい者だけではなく、生活困窮者を核としつつ、ひきこもり・刑余者などを庄内地域全体で、一般就労で受け入れるためのしくみをつくり、新規就農者を生み出すことを目指されています。すでに連携している先駆的な大規模農業法人もおり、山形県が農業県でもあることから、さらなる広がりも期待され、これまでにない先駆的なチャレンジと地域展開が期待できます。事業推進においては、連携農業者、連携福祉法人の数を増やし、自己完結型のプロジェクトに留まらず、地域一体となって持続可能な事業として出口戦略を適切に見極めながら実施いただくことを期待します。
2
埼玉福興株式会社
埼玉県熊谷市
農福連携による共生社会創造事業
赤城おろし経済圏(埼玉県北部と群馬県南部、赤城山からおろしが吹く地域一帯)
障がい者、ひきこもり、触法者、短時間しか働けないシングルマザー、難病者等、ひとつの働き方の考えでは対応できない状況がある。本事業では、地域の農家や福祉施設、企業、JA、行政、学校等が、農福の現場、さまざまな働き方の存在を実感できる場、業種や世代などを超えて対話ができる場として「カフェテリア」をつくり、生活・福祉的就労・一般就労など、さまざまな相談を受けられるような場づくりを行なう。出荷できない規格外の農福連携野菜を食材にするなど、カフェ自体も仕事場として機能させながら、相談を農福連携を中心とした就労につなげ、働くことを中心とした開かれた農業と福祉の場づくりを行なう。
申請団体は、農福連携において先駆的な取り組みを行なってきた実績が多数あり、障がい者に限らず、触法者や生活困窮者などを受け入れながら地域づくりを行なっています。多様な人々を受け入れ多様な働き方を作り出してきた実績もあり、これまでもソーシャルファームとして機能してきたと思います。申請事業は、これまでの実践を踏まえて新たな展開に切り込むため、何らかの困難を抱える人たちがまず集まり相談できる場所としてのカフェテリアづくりを目指すもので、その先には、申請団体がすでに連携している多くの連携先、これから広げる連携先とともに就労を含めた解決へつないでいくものと思います。居場所の提供に留まることなく、農業者、福祉事業者との連携の強化、拡大を行ないながら、地域全体での農福連携を推進していくことを期待します。
3
社会福祉法人土穂会
千葉県いすみ市
農福連携によりISUMIの就労困難者と農業を元気に!
千葉県いすみ市、勝浦市、御宿町、大多喜町
当法人が目指す地域共生社会とは、地域に暮らす人たちが互いに助け合いながら、個々が力を発揮し地域の発展に貢献すること。本事業では、障がい者に加え、福祉の就労支援制度で対応が難しいひきこもり・ニート・手帳を持たない、いわゆる「グレーゾーン」の人たち、特別支援学校生徒等の生きづらさを抱える人たちに対し、「はじめの一歩農場」をつくり、社会参加ための就労体験・訓練の場を提供、アセスメントも行なう。短時間就労・福祉的就労・一般就労等、多様な働き方を創出しながら、育成した農業就労サポーターがいる農業者での就労をコーディネートし、ダイバーシティ就労の創出と、地域全体が働きづらさの課題を抱える人たちの「ナチュラルサポーター」になることを目指す。
申請団体は、これまで農福連携に取り組むなかで自法人にとどまらず他の福祉法人にも声をかけながら地域に働く場を提供してきた実績があります。今回、地域で実績のある生活困窮者支援団体と連携して、これまで福祉では受け入れが困難だったいわゆる「グレーゾーン」の人たちへ就労訓練の場を提供し、その先の就労の場としてはすでに連携している複数の農場でニーズも確認でき、マッチングの実現可能性も高いと考えました。就労困難者に対して短時間労働を含むダイバーシティ就労の展開など、目指す就労形態が多様な点や、障がい者就労支援で培ってきた「ナチュラルサポート」を生かした事業コンセプトも評価できます。申請事業が当法人だけに依存せず、地域にあるリソースを生かして一体的に取り組まれるよう連携をより一層深め、特に福祉に関わっていない「グレーゾーン」の人たちに向けた支援を行う際の入口やその後の対応を強化しながら、訓練場を設置するいすみ市にとどまらず、本事業が広く推進されていくことを期待します。
4
社会福祉法人佛子園
石川県白山市
能登の休耕地を活用した特産農産物ブランド化プロジェクト
石川県能登町
少子高齢化に伴う農業従事者の減少と、農業法人の経営破綻により生じた耕作放棄地の増加は、能登町における重要な課題である。本事業は、当法人が中心となってソフト・ハード面の環境整備を行い、障がい者、ひきこもりの人たちの農業への参画をサポートし、就労場所を提供することで居場所づくりと収入確保を目指す。加えて、地元高校・大学と連携して学生に農福連携による実習・研究の場を提供、若い世代に農業への関心喚起と将来の農業従事者の育成を目指す。また、特にさつまいもの販売・加工において技術を持つ企業との連携による地域産品の価値向上を通じて、地元産品のブランディングとマーケティング戦略を策定し、地域社会の包摂と持続可能な農業、地域経済への貢献を目指す。
申請団体は、石川県全体の障がい福祉活動の核として活動しており、これまで、農福連携だけでなく、農福商工連携などさまざまな実績があります。申請事業は、申請団体の実践経験をベースとしたソーシャルインクルージョンの具現化をめざすものです。北陸に本拠地をもつ複数企業と具体的な出口戦略を含めた連携計画がすでにあり、ブランディングや販路についての実現可能性も高いと考えます。地域の高校や大学との連携体制についても、幅広い層を巻き込みながらの事業推進が期待できます。障がい者の具体的な所得向上の展望があることも評価できます。
申請団体は、もとより地域課題の解決に積極的に取り組む姿勢が認められますが、ことし(2024年)の能登半島地震の発生直後より、被災者支援を積極的に行っており、厳しい状況ゆえにそれが倍加した印象も受けています。立壁地区においてモデルとして実施、さらにほかの地域でさまざまな農家、福祉法人と連携して事業を推進し、共助による能登の創造的復興への貢献も期待します。
5
特定非営利活動法人大志
山梨県北杜市
農福連携による生産性向上と多様性のある就労・自立支援事業
山梨県北杜市、韮崎市、南アルプス市、甲府市、甲斐市
北杜市においても農福連携には期待がされているが、就労の受入農家と支援の担い手が少なく、つなぐ機能もないため、連携規模が拡大せず就労困難者の自立機会の損失となっている。本事業では、組織化による担い手の育成・資質向上をはかり、ノウフク商品の共同作業場を整備して共同出荷体制を整えた販路開拓のプラットフォームを構築、農福応援団との連携による販路開拓に取り組む。設備投資と技術指導によって農作業を細分化・単純化し、就労条件を拡充。共同で行なうことでマッチングの精度を上げ、多様性のある就労の機会創出と定着率を向上。ノウフク商品の販売網を整備し、収益性・継続性のある事業推進と消費行動の啓蒙により農福連携の社会実装を目指す。
申請団体は、地域に根差す複数の福祉法人と連携し、対象となる方に合わせた作業の提案やマニュアル作りなどを行なってきており、信頼も得ていると感じました。当法人が生産する有機にんにくなどのブランディングのほか、地域づくりの核となり、廃校を活用したり、グランピング施設をつくったり、都内の学校から研修を受け入れたりなど、人を呼び込み受け入れるさまざまな事業を展開してきた実績も認められます。
申請事業は、地域の小規模農家が個別に行なうことで採算が合わなくなる作業や、個社では難しい販路開拓などを申請団体が中心となって取りまとめて推進していき、地域全体の農家および障がい者就労の収益の底上げを図るものです。対象となる人たちの発掘は、福祉法人のほか自治体とも連携することを確認しました。地域事情を十分に考慮・分析された事業計画であり、農作業の平準化と就労マッチングの構築、定着率の向上までを、具体的に数値化しながら見込んでいる点を高く評価します。また、東京からの移住者も多い本地域で、移住する新規就農者へのアプローチは、農福連携による共生社会づくりの鍵にもなると考えています。農業者目線で、農福連携の世界に新しい風を吹き込むことを期待します。
6
一般社団法人クロスオーバー
長野県長野市
農福連携による共生社会創造事業
長野県を中心とした全国
当法人のコーディネーターが中心となって以下の取り組みを行ない、さまざまな主体の農福連携を推進する。
① 福祉法人と農業者、企業等からニーズの確認と掘り起こしを行なう。
② 能力に応じた作業マッチングや登録サポーターの圃場派遣、課題のヒアリング、作業内容や工賃の妥当性等の確認、調整を行なう。
③ 企業と連携し、農福連携勉強会の開催、社内でのノウフク商品の販売、コーディネーターやサポーターの育成推進等を行なう。
④ 各地のマルシェや商談会への参加、一般消費者理解促進も意識しながらノウフク商品の販路開拓を行なう。また、軽井沢でノウフクマルシェの主催や各圃場での収穫体験会等を通じ、一般消費者を含む県内外のファンを獲得して、持続可能な活動を目指す。
申請団体は、2023年に設立された新しい団体ですが、農業法人の代表者、福祉法人の代表者、農福連携コーディネーター、それぞれを長年勤めながら農福連携に携わってきた実績のある役員で構成されています。申請事業は、長野県を中心として、これまでの実績を生かした横断的なコーディネートによる農福連携のマッチング推進を実施していくもので、作業のマッチングにとどまらず、販路等で東京の大手小売店との販売連携やマルシェの協業もすでにあり一般消費者の巻き込み、ノウフクJAS、六次化のコンサルも期待できます。また、これまでの経験を生かした農商工福連携の構想にも期待が持てます。事業推進においては、福祉事業所との連携による障がい者就労だけでなく、ひきこもりや触法者等、さまざまな働きづらさを抱える人たち、いわゆる「グレーゾーン」の人たちへの対応も推進していただくことを期待します。
7
一般社団法人SPSラボ若年認知症サポートセンターきずなや
奈良県奈良市
地域共生型はたらくプラットフォーム事業
奈良県奈良市・山添村を中心として奈良県と近隣県
福祉等の制度対象外となる小規模団体等は助成金等の交付金等によって相談や居場所といった社会資源を増やすことができてきた一方で、各居場所等を維持するための活動費までは確保することは難しい。本事業では、
① 就労困難者・若者等が専門知識をつけること(就労困難者の教育)
② 小規模団体がより多くの人たちとの繋がりを築くこと(コーディネーターの養成)
③ 小規模団体が共有して使用でき就労困難者が働く体験ができる農福連携商品の共同利用加工場を設置すること(販売可能な商品づくり)
④ 商品を販売できるルートを確保すること(販路構築)
の4点を行ない、農福連携により生産した農作物を活用して、小規模団体が自立・自走していく仕組みの構築を目指す。
申請団体は、若年性認知症の人たちを中心に福祉制度では対応が難しい対象者への支援を⾧年行なってきました。申請事業は、福祉制度の対象外となる若者の就労支援に焦点化した事業で、チャレンジングな企画ではありますが、制度にはまらない人たちを対象としている点を高く評価します。また、小規模な複数の支援団体が収益化を図るために、共同利用の加工場を設置する取り組みは実現可能性として評価できます。一方で、申請時点での農福連携の対象としては、既存の梅林や柑橘の畑が中心のようですが、事業の中で農業者側の理解を得て、確実に連携を広げていくことが重要と考えます。さまざまな理由により働きづらさを抱える人たちに仕事を生み出すべく、新しい仕事の形を模索している当法人が申請事業を通してその形を確立すること、この取り組みがソーシャルアクションとなり普遍化していくことを期待します。
8
社会福祉法人宗越福祉会
広島県竹原市
官民協働による農福コンソーシアムの組織化と就農を起点としたインクルーシブなコミュニティづくり事業
広島県竹原市、東広島市、三原市、尾道市、世羅町
農福連携を主軸に、市町村圏域を超え、行政、社会福祉法人等の非営利法人、民間企業、研究・教育関係者などで構成する官民のネットワーク組織を設立し、
① 障がい者に加え、社会的に孤立しやすい人たちが充実した就労や社会参加の機会を得られる支援
② 子どもや子育て中の親が安心して農作物を享受できるだけでなく、農福連携に主体的に参画できるインクルーシブなコミュニティづくり
③ 農業を起点に域内外で調達から生産、加工、流通、消費が循環する持続可能な地域循環型経済圏の仕組みづくりを行なう。これまで市町村単位では解決が難しかった農福連携のコーディネート、販路支援等を推進し、地域共生社会の実現を目指す。
申請団体は、地元大手企業と遊休耕作地であったぶどう園を農福連携により再生させ、生産したブドウをジャムへ加工して販売するなどの企画を行なうなど、企業との連携、販路に関する実績を持っています。申請事業は、複数自治体にまたがった農福連携の普及をめざし、福祉・農家・企業・行政・大学が連携し、産官学民協働の農福コンソーシアムを設立して実施するものです。縦割り行政でこれまで受け止められなかったさまざまな層の対象者の受け入れと、事業の広がりを可能にすると考えます。商品開発や販路においては、実績のある地元企業との協力体制もすでに組まれ大いに期待できます。多様な対象者に対して、「一般就労がゴール」として収益拡大のために商品開発を視野に入れて事業計画を立てている点も評価できます。事業推進においては、既存の連携団体やネットワークだけではなく、対象自治体で農福連携に取り組みたいと考えている福祉法人・農家やその関係者や地域住民などを巻き込みながら地域一体的に農福連携が推進されるよう取り組むことを期待します。
(団体所在地の都道府県順)
 
審査員
(敬称略、五十音順)
 
朝日 雅也
あさひ まさや
埼玉県立大学 名誉教授、日本職業リハビリテーション学会 会長
小島 希世子
おじま きよこ
特定非営利活動法人農スクール 理事長
里見 喜久夫
さとみ きくお
株式会社コトノネ生活 代表取締役
濱田 健司
はまだ けんじ
東海大学文理融合学部経営学科 教授
 
「農福連携事業/採択事業」おわり
 
最終更新:2024.03.15
質問集
 
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