フィランソロピー見聞録

機関誌最新号
Date of Report:2021.9.3
カリヨン子どもセンター訪問記
_き:2021年8月26日(木)
ところ:社会福祉法人カリヨン子どもセンター(東京都江戸川区)
2021年8月26日、「誕生日寄付」の寄付先のひとつであるカリヨン子どもセンターを訪問しました。同団体の活動についてお話を聞くと同時に、寄付がどのように生かされているか、また、今後の課題は何かをお伺いしました。「誕生日寄付 with Flowers」を実施する有限会社椎名洋ラン園の取締役 椎名輝さんにも同行いただきました。
残暑の厳しい午後、新型コロナ感染症に注意を払いながらの訪問となりました。
出迎えてくださったのは事務局長の石井花梨さん。柔らかな笑みをたたえながら、訪問を歓迎してくださいました。
 
事務所は都内の住宅街の中にありますが、事務所とは別のところにある子どもシェルターなどの所在地は、子どもたちを守るために非公開となっています。
カリヨン子どもの家ガールズカリヨン子どもの家ガールズ
©カリヨン子どもセンター
まずセンターの歴史を振り返りました。
カリヨン子どもセンターがNPO法人として設立されたのは2004年のこと。
 
東京弁護士会所属の弁護士たちが 子どもの人権に関するテーマの演劇活動 をしている際、アメリカなどにある、子どもが安全に避難できるシェルターが日本にもあればと芝居の中で取り上げたのがきっかけだそうです。この芝居への反響は大きく、その後、実現に向けて奔走されることになりました。これを背景として、今もセンターの運営には、多数の弁護士のみなさんが関わっています。
 
2008年にはNPO法人から社会福祉法人となりました。今では、児童福祉法に基づく施設として、国と東京都から認可を受けています。
 
センターの事業は、大きくは子どもシェルターと自立援助ホームからなります。ほかには、デイケア事業なども実施しています。
子どもシェルター
 
カリヨン子どもの家ボーイズカリヨン子どもの家ボーイズ
©カリヨン子どもセンター
子どもシェルターの対象となるのは10代後半の子どもたち。虐待や家出などで居場所をなくした子どもたちが、数週間から2か月程度身を寄せる場所となっています。
弁護士や児童相談所、福祉事務所などが連携して対処し、保護者との調整を経て、子どもたちは家庭に戻ることもあれば、ほかの児童福祉施設に移ることもあります。
これまでに450名を超える子どもたちを受け入れてきたということです。
子どもたちはセンターに来る直前まで、1週間水しかもらえなかったとか、身体的な暴力や暴言にさらされるなどしていた例が多く見られるそうです。ときには、「このままだと死んでしまうのでは」と追い詰められた子どもたちを守る施設として機能してきたと石井さんは話されました。
 
カリヨン子どもの家ボーイズカリヨン子どもの家ボーイズ
©カリヨン子どもセンター
ここでは、衣食住の心配がなく、金銭的なことにも不安を感じることなく過ごすことができます。スタッフが相談に乗り、温かいご飯と安心して眠れるベッドを提供されることで、心身を休めて、自分を取り戻していくといいます。
 
センターに来るきっかけとしては、子どもたちがスマホなどを使って、「家出」などのキーワードで検索して見つける例と、学校の先生や友だちの親など、周囲の大人が紹介する例とが半々だそうです。
 
いずれの場合も、東京弁護士会の「子どもの人権110番」に電話相談するところから、センターへの入居の手続きは始まります。そして、すべての子どもに「子ども担当弁護士」がつき、サポートします。なお、子どもシェルターの利用は無料です。
自立援助ホーム
 
カリヨン夕やけ荘自立援助ホーム「カリヨン夕やけ荘」
©カリヨン子どもセンター
自立援助ホームは、仕事に就いて、自立することをめざしている子どもたち・若者が生活する場です。
アルバイトなどをして、お金を貯めたり、働くことの意味を考えながら、半年から数年程度、ここで過ごして、やがて就職先を見つけて、巣立っていきます。
入居期間は20歳になるまでで、学生であることなどを理由として22歳まで延長することができます。自立援助ホームは月3万円の寮費がかかります。
 
以前は、中卒で仕事に就くことをめざす子どもが大半ということでしたが、いまでは高校進学、大学進学を視野に入れた進学志向が強くなっているそうです。
デイケア事業・子ども支援金制度
 
カリヨンハウスは、入居中のこどもやOB・OGが利用できるデイケア事業の施設で、カウンセリング、ボイストレーニング、足つぼマッサージ、鍼灸、ギター、ピアノ、ダンスなどのケアを受けたり、楽しんだりできます。
 
また、企業(朝日新聞厚生文化事業団など)や個人からの特定寄付を受けて、入居中の子どもやOB・OGに奨学金や支援金を支給する制度も設けられています。
椎名洋ラン園からメッセージカード贈呈
 
ラン贈呈椎名輝さんと石井花梨さん
©日本フィランソロピー協会
ランの生産者である椎名洋ラン園は、「花育」という「大切な人のために花を咲かせるカリキュラム」を開発し、小中高校や養護施設で展開しています。これは命に感謝する気持ちなどを育むことを目的としています。自分の心を花の形にして贈る活動の普及に努めています。
 
同社は誕生日寄付にも協力し、胡蝶蘭などの花を送ると、その代金の一部が誕生日寄付となる仕組みを整えました。
 
その際、花の購入者つまり寄付者は、寄付先へのメッセージを記すことができます。そのメッセージカードを今回、カリヨン子どもセンターに10通余り届けました。
 
「どんなときも、あなたを思い、力になってくれる人がいることを忘れないでください」、「心から応援しています。笑顔を忘れず、前を向いて歩んで下さい」、「いつも見守ってるよ」などの言葉がメッセージカードに記されています。
 
石井花梨さんは感謝しつつ、一枚一枚、興味深そうに目を通されました。
 
椎名輝さんは、これからもビジネスの車輪と社会貢献の車輪をいっしょに回していきたいと話されました。
カリヨン子どもセンターの課題
 
センターが抱えている課題について、伺いました。
事業開始から時間が経ち、センターを出たOB・OGが増えているため、そのアフターケアが課題となっているそうです。その後、生活がうまくいかなくなってしまっていても、頼れる実家がないケースがあるため、どう支えていくのか、新たな対処の仕組みが必要になっているということでした。
また、今はLGBTQを早くから表明する子どもがみられるということです。そのため、女子と男子のどちらで受け入れるべきかの判断を迫られる問題が出てきています。
昔は元気でやんちゃな子どもが多かったが、今は精神的不調を訴える子どもが多くなっているとも話されました。うつやパニック、フラッシュバックの子どもへの有効な手立てを考えていかなければいけないということです。うまく対応するのがむずかしい場合もあり、新たな課題となっています。今まで以上に、精神科や臨床心理士などとの連携が必要になりそうです。
誕生日寄付の用途
 
2020年春と2021年春のこれまで2度、誕生日寄付の寄付金をお届けしていますが、どんな風に生かされているのでしょうか。
 
カリヨン子どもセンターは国と東京都に認められている児童福祉施設であるため、公的資金が交付されているものの、センターの運営は、それだけではまかないきれないとのことでした。寄付金のおかげで、手薄になりがちなところもカバーできていると話されました。
 
カリヨン子どもセンターのウェブサイト
特に、現在のカリヨン子どもセンターのウェブサイトは、誕生日寄付の寄付金をもとにリニューアルしたものということです。イラストを盛り込むことができたために、見やすく、わかりやすいものになっていると評判なのだそうです。以前は、ブログのようなものだったため、大きく改善できたと喜びを語られました。
 
また、クリスマスプレゼントなど、寄付金をもとにして、プラスアルファの喜びを子どもたちに用意することができていると話されました。
最後に
 
メッセージカード椎名洋ラン園が届けたメッセージカード
©日本フィランソロピー協会
今回の訪問で、子どもシェルターや自立援助ホームが果たしている社会的役割と意義について、運営に携わる責任者の方から、直接お話を聞くことができました。
 
ただ、こうした施設は、都内でみても、その他の道府県でみても、数が十分ではないとのことです。都内にあと数か所設置され、政令指定都市にも少なくとも1か所ずつは設置されるようになってほしいと話されました。
 
カリヨン子どもセンターとしても、ここまで成果をあげてきたものの、時代が変化して、子どもが変わっていくなど、それまで通用していた対処の仕方が見直しを迫られる大変さがあるということでした。
 
新たな課題に対処するために、これまでにないスキルの習得や専門家との連携が求められている現状があり、同センターでは、寄付などの形での支援を引き続き必要としています。
 
日本フィランソロピー協会としても、誕生日寄付あるいは、その他の方法を含めて、より効果的な支援の在り方を考えていく必要性があることを、今回の訪問を通じて学びました。
 
<ご参考>
東京弁護士会による子どもの人権に関する演劇活動については、
当協会機関誌『フィランソロピー』No.401/2020年12月号 の「見たこと聞いたこと」欄でもご紹介しています。
『弁護士がつくるリモート劇/もがれた翼 特別編「ZOOM IN 子どもシェルター」』
「フィランソロピー見聞録/カリヨン子どもセンター訪問記」おわり