読者の中に、ご自分のお子さんにおじい様などの名前を付けた方がおられるだろうか?
先日、素敵な医師とお目にかかる機会をいただきました。稲葉俊郎さん。東大付属病院の循環器内科から2020年に軽井沢病院へ。2022年から同病院の院長。現在は、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の特任教授。そして、なんと山形ビエンナーレ2020・2022の芸術監督、今年9月に開催される際の芸術監督にも決まっているとか・・・!
「優れた医療はアートである」という44歳の稲葉さんの異才ぶりに圧倒された。
稲葉さんは、ご長男に稲葉さんの祖父の名前をつけたそうだ。彼曰く、「祖父には敬意を払って接してきたのだから、同じ名前をつけたら、…さん、と言って子どもを大切に扱うことにつながると思って。先祖が子どもになり、子どもは先祖でもある」。東西を問わず、祖父や曽祖父の名前を子どもに付けていることは見聞きするが、そういう発想もあるのか!と膝を打った。
昨今は、先祖などということばは死語になったようで、今、見える関係性だけに目を向けがちである。いのちを軽んじる風潮は、今の自分とその周りの人とだけのつながりで完結し、過去から未来へ続く縦のつながりへの眼差し、遠い国の人たちの苦しみへの共感を持つ横の広がりが欠落していることを感じることが多いが、いのちのつながり・いのちへの畏敬を改めて考えるきっかけとなる命名のお話だった。
稲葉さんは、西洋医学だけでなく、伝統医療、補完民間医療など広く修めてこられた。芸術・音楽・農業など幅広い分野との接点から、医療の多様性と調和を探ることを続けている。東日本大震災後から、生と死が折り重なる様を描く能を習っているとか。「過去と未来は、現代に生きている私たちが死者と生者の結び目をつなぐことで一続きになります。過去の死を受け取り、未来に生を受け継ぐことが私の掲げている生命主義です。芸術、医療、哲学、宗教などのあらゆる叡智を結集させて、いのちの探求をベースにした未来社会を形作っていきたい」と言う。稲葉さんの著作を通じ、もう少し彼の歴史観・人間観を勉強したいと思う。
昨今、大人世代が縦のつながりに関心が薄れている中、意外と、Z世代の人たちから、自分たちのルーツはどこなのだろう? 先祖は何をしていたんだろう? というようなことに関心がある、という話を聞く。ある意味、歴史観・人間観を培う意味でも自然な思いだろう。キラキラネームばやりの昨今、祖父や祖母の名前を付けることが「かっこいい」、と言われる日が来てもいいなー、と夢想している。まずは、その名をつけたくなるような先祖にならなければ。そこがいちばん難しい!