特別インタビュー

Date of Issue:2020.12.1
特別インタビュー/No.401
 
せきとう たつや
 
1971年大阪生まれ。1995年総合商社入社。2002年より経営コンサルタント会社に勤務。商社での経験を生かし、主に食品業界における余剰在庫に特化した実践的コンサルティング業務を手掛ける。取締役副社長を経て、2014年食品ロス問題を解決するため起業。2015年社会貢献型フードシェアリングプラットフォーム 「KURADASHI」のサービスを開始。
日本の食品ロス削減を目指す
社会貢献型フードシェアリングプラットフォーム

「KURADASHI」の挑戦
株式会社クラダシ 代表取締役社長
関藤 竜也 さん
日本の食品ロスは年間612万トン、飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量の1.6倍だという。まさに食品ロス大国といえるこの社会課題に対して、SDGsの目標「2030年までに食品ロスを半減する」に挑戦する、社会貢献型フードシェアリングプラットフォーム「KURADASHI」。「社会性、環境性、経済性」の三位一体で、サステナブルを実現する株式会社クラダシ(東京都品川区)を訪ね、代表取締役社長の関藤竜也さんに、その意気込みと仕組みについて聞いた。
 
KURADASHI」とは、賞味期限が短い、季節限定を過ぎている、包装や缶にへこみや傷がある、大きさ・形が規格外などの理由で廃棄される食品を、最大97%オフで購入できるショッピングサイトだ。購入金額の3%を環境保護、動物保護、フードバンク支援などの団体に寄付する社会貢献も組み込まれている。
企業にとっては、ブランド価値を守るために、経費をかけて廃棄していた商品の廃棄削減ができてCSR活動につながる。消費者にとっては、商品を割引で購入できる楽しみがあり、同時に、無理のない社会貢献もできる。その結果として、日本 の食品ロスが削減される仕組みだ。
十分食べられるのに捨てられる「もったいない」状況を変えようと、食品ロス削減の取り組みに賛同する提供者と消費者を結ぶプラットフォーム。現在、協賛企業900社以上、利用者(会員)12万人以上が参加し、毎年取り扱い量は増加。もちろん、「KURADASHI」のロスはゼロである。
両親の教え「社会貢献」と「人には愛を」
― 大阪ご出身で、1995年の阪神淡路大震災では、ひとりで被災地に向かわれたそうですね。
関藤 大学4年生でした。バックパックに水と救援物資をつめて、40キロを走って、レスキューよりも早く着きました。
― ご両親は心配されたのでは?
関藤 ガラスが割れ、本棚が全部倒れて、父がその下敷きになりましたが、幸い大けがにはなりませんでした。テレビで阪神高速道路が倒壊するのを見て、あまりの映像に「助けに行く」というと、両親は「行ってこい」と送り出してくれました。
― 息子さんの思いを応援したご両親、どんな方ですか?
関藤 父は、堅物です(笑)。6歳のとき、祖父が戦死、翌年、祖母が亡くなって、関藤酒店をやっていた父のおばあちゃんに育てられ、本人は、おやじの背中を知らないで、信義を一徹に通してきた人。わたしの母の実家が経営する出版社に誘われて、常務まで務めました。
子どものころは厳しくて、悪さをすると、正座させられて竹刀でバシッと(笑)。その父がいつも言うのは、「この世に生を受けるということは、社会にどれだけ貢献するか、そのための命だ」。一方、母は「人には愛を」と言う人です。
― ご両親の教育に、ソーシャルグッドの原点があるのですね。阪神淡路の体験はどうでした?
関藤 自分なりに救援活動をやったけれど、多発的に起きていて、こっちは助けられても、向こうにも助けを求めている人がいるときに、どうするのか。一人の力では、到底行き届きません。すでに就職が決まっていましたが、人のためになる、今でいうプラットフォームのようなもので、持続可能なサービスができたらと強く思いました。
食品ロス削減×社会貢献
― 就職先は商社。それで中国へ?
関藤 北京の国立大学に社費留学して、1998年から2000年まで駐在しました。中国が、安くて豊富な労働力と資源で「世界の工場」と呼ばれた時代、物価は7分の1の感覚です。そのときに、コンテナレベルでの食品の大量廃棄の現状を、目の当たりにしました。
― どんな状況でしたか?
関藤 例えば、コンビニの店頭におくチキンを80グラムとオーダーしたのに、60だったり120だったりで指示書通りでないと、全部、廃棄されます。また、ロシアから届いた居酒屋メニュー用の子持ちシシャモが、オスばかりということも。食べられるのに即廃棄です。こうした大量の資源ロスを、胃がひっくり返る思いで見てきました。環境面からしても、いずれ大きな社会問題になるだろうと思うと、ほっとけない気持ちで、今に至ります。
― 規格外による大量廃棄。さらに、日本には独特な商習慣「3分の1ルール」があるそうですね。賞味期限前なのに、大量に廃棄処分される。でも当時は、まだ重大な問題だと思われなかったと思います。
3分の1ルール:製造日から賞味期限までを3分割。納品期限が3分の1、販売期限が3分の1。それを過ぎると返品され多くが廃棄処分される。
関藤 2000年にSDGsの前のミレニアム開発目標(MDGs)が国連で採択されたことに注目しました。以来、食品ロスについて考えてきて、会社設立は2014年。フードシェアリング用プラットフォームのシステムをつくりながら、いろんな企業を訪問し、こういうサービスを始めるので、是非ご利用くださいと説明してまわりました。
― 反応はどうでした?
関藤 会社設立からサービスローンチ時までは100戦100敗(笑)。当時は、KURADASHI の目指している世界観「1.5次流通」(新品「1次流通」でも中古品「2次流通」でもない新しい流通)や、食品ロス削減と社会貢献というビジネススキームの理解がなく、創業期は一番大変でした。
― どうやって突破されたのですか?
関藤 強烈な原体験、ミッションとビジョンをバックボーンに、粘り強くコミュニケーションを続け、多くの同業他社の紹介を受けて、取引数の増加を図りました。
Mission はソーシャルグッドカンパニーでありつづける。 Vision は日本で最もフードロスを削減する会社。
― 関藤さんの信念と情熱、大阪商人のど根性(笑)です! 各種メディア(TBSテレビの「がっちりマンデー!!」や日本経済新聞など)にも取り上げられました。
関藤 それがきっかけで、徐々にサービスが広がっていきました。
印象深かったのは、ローンチする際、食品の業界紙、日本食糧新聞社の記者さんに「大量生産・大量流通・大量廃棄、飽食の国日本の業界の行く末が心配だった。こういう人が、いつか現れてくれると思っていた!」といわれて、互いに感動してしまいました(笑)。
― 同じ問題意識を持っている方が、いらしたってことですね。
関藤 それから7か月後に、国連がSDGs採択。「こういうことを言っていたのか」とメーカーさんの理解が広がりました。
現在では、2019年10月に食品ロス削減法案が施行、SDGsをはじめ、環境配慮への意識が高まり、KURADASHI の認知度も高まりました。さらに農林水産省や環境省、消費者庁など各省庁との連携を強め、食品ロス削減に取り組む企業のパイオニアとして、第一想起してもらえる立ち位置にまで成長することができました。
― タイムリーでした。門前払いした会社さんは、しまった(笑)と?
関藤 大阪の商人の血(笑)ですかね。風潮をつくるタイミングはわかるんです。断った会社さんは「当時は失礼しました!時代が追いついてきましたね」と、今では笑い話にしながら、頼ってもらえる良好な関係性を構築・維持しています。
新たな取り組みとこれから
― KURADASHI では商品を購入すると、購入額の3%が、環境や社会の課題解決に取り組む団体に寄付されます。普段の買い物をしながら、食品ロスだけでなく、そのほかの社会貢献もできる。寄付先は19団体で、昨年(2019年)から「KURADASHI 基金」が加わりました。それはどのような?
関藤 KURADASHI は、2030年までに食品ロスを半減させることを目標にしています。その一方で、日本には、少子高齢化と、2040年までに全国市町村の約半数が消滅する恐れがあるという消滅可能性都市の問題があります。実際に、規格外1次産品の取引きで地方に行くと、農業に従事する人の苦労を見て、農業が持続可能でないことを実感しました。
さとうきび生産の北限と言われる種子島では、生産労働人口の平均年齢が65歳を超えています。製糖工場から、人手不足で収穫が間に合わず、このままではいずれ工場が稼働できなくなる日がくるという悲痛な声を聞きました。そこで始めたのが、地方の農業を支援する「KURADASHI 基金」と、学生を派遣する社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ(クラチャレ)」です。
― 新たな取り組みですね。
関藤 地方は労働力不足、こちらには体力があり未来ある若者がいる。それを、単にマッチングするのではなくて、プログラムとして実施します。学生のメリットは、旅行代金や宿泊費など全て KURADASHI 基金が支援するので、無料で行けること。第二の故郷ができること。その体験を就活で語るとちょっと有利かも(笑)。収穫から販売まで社会体験ができること。ソーシャルビジネスに関心をもつ学生がたくさんいますから、「クラチャレ」の卒業生が育ち、各地で活躍してほしいと思います。
― 実際には、どんな場所に?
 
鹿児島県南種子町(みなみたねちょう)の
名越修町長【写真右・当時】から
感謝状を受け取る「クラチャレ」のインターン
関藤 種子島と与論島ではさとうきび、小豆島ではオリーブ(10月実施)、高知県北川村ではゆず(11月実施)。北川村では、学生がゆずを収穫して、仕分けし、箱詰めしたものを「KURADASHI」で販売。売り上げの一部を農家に還元して、3%を「KURADASHI 基金」に寄付、次のインターンの渡航費や宿泊費に充てます。
― 学校はどう受け止めていますか?
関藤 お話ししている大学からは「是非、学生を行かせたい」と、単位の取得も前向きに検討していただいています。数年後には、学生たちがスマホで「クラチャレ、どこいく?」というような世界観を作りたいと思っています。
さらにやりたいのは、シニアチャレンジです。移動総距離と関係人口を増やし、公民連携して地方創生につなげたいと思います。
― 取り組みは農業支援にも広がりましたが、一方で、食品ロス削減が進んでいったときに、1.5次流通の KURADASHI は、どんな方向に向かうでしょうか?
関藤 食品ロスは、産官学金労言士(業界・公庁・大融機関・働団体・論界・業)が連携しなくては、達成できない大きな山。それがなくなったときには何をやるか。メーカーさんは、人口減少のなかで商品にどう付加価値をつけるかに腐心しています。KURADASHI によって、ブランドイメージを壊さずに再流通できることで、今後は、環境や社会的観点からドラスティックな開発にチャレンジしていきたいといいます。
そのほか、KURADASHI は、ロス部門でも社会意識の高い会員で形成されているので、未来のフェアトレード、人の助けになるような商品の販売も考えています。
― 食品ロスに共感する上質な顧客とのつながりを活かした、エシカルなマーケットを創っていく?
関藤 いろいろ考えていますが、災害対策も、KURADASHI 流に考えることができます。
自然災害で、毎年、農産物が大打撃を受けます。大雨が降ってぬかるんだところに、出荷前のラ・フランスがぽたっと落ちてしまう。また、停電で伊勢エビが酸欠になって、死にそうになる。それをマッチングするために、公民連携で緊急ダイヤルのようなシステムをつくり、プラットフォームで扱えるようにしておく。そこで購入すると、伊勢エビが半額でお得、さらに、被災した産業を助けることになれば、ちょっと素敵だなと思えます。
― 気軽に参加できる社会貢献型プラットフォームの可能性は、広がっています。最後に、現在の課題とこれからについてお聞かせください。
関藤 今でこそ、SDGs、ESG投資と、環境に配慮した意識が高まっているものの、欧州や北米に比べると、日本の食品ロスへの課題意識はまだ低く、もっと高めていきたいと考えています。「KURADASHI 基金」もそうですが、メーカーや消費者の意識を高めていくためにできることが、たくさんあります。わたしたちは30名弱ほどの組織。メンバーを増やしながら、活動の幅を広げていきたいと考えています。
― 提供者と消費者をつなぎ、見えるかたちで食品ロスの課題解決を目指す KURADASHI の挑戦。ますます期待しています。ありがとうございました。
【インタビュー】
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長 髙橋陽子
 
(2020年10月23日株式会社クラダシにて)
機関誌『フィランソロピー』No.401/2020年12月号 特別インタビュー おわり