連載コラム/私の視点・社会の支点
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ビジネスマンの「あそび」
「あそび」を失った会社
ビジネスマンの「あそび」というと、週末のゴルフや仕事帰りの同僚との一杯などを思い浮かべるかもしれませんが、今回は少し違った「あそび」について考えます。
車を運転する方はよくご存知でしょうが、車のハンドルやブレーキには「あそび」が設けてあります。急激にハンドルやブレーキを操作しても、いきなり車が方向を変えたり急停止しないための「ゆとり」であり、それが車の安全性を高めています。つまり「あそび」が自動車という機械と運転する人間とのインターフェースになっているのです。
最近、会社では行き過ぎた成果主義が見直されています。それはすべて効率性の観点から従業員に直接的なせいかを求めたために、従業員のモラルややりがいが低下し、それが結果的には会社全体のパフォーマンスを最大化できなかったからかもしれません。
その背景には会社の業績と従業員のしあわせをつなぐインターフェースとしての「あそび」の不足があるのではないでしょうか。効率性を最優先してゆとりをまったく排除してしまった「あそび」のない会社は、急ブレーキや急ハンドルの自動車のように危険極まりないものになってしまいます。
「あそび」のある暮らし
このように「あそび」を失ったのは会社ばかりではありません。今日の社会全般にみられます。このような時代に生きるわれわれが「あそび」を取り戻すにはどうすればよいのでしょうか。
政府は2007年12月に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を制定し、仕事と生活が調和した社会の実現に向けて政労使が努力することを決めました。もちろんわれわれの生活は仕事とそれ以外に二分されるわけではないので、職業生活や家庭生活、地域生活、趣味の生活など生活全体が調和することが重要だと思います。ただ、いずれにしても多面的な暮らしの中に「あそび」部分が必要なのです。
「あそび」のある暮らしは、仕事と子育ての両立をはじめ、高齢期の社会参加や生涯を通じた仕事と学びの両立など様々な生き方を可能にします。また、企業にとっても多様な人材の確保や生産性の向上になるでしょう。
「仕事」は英語では“Business”で、その語源は“Busy”に通じます。“Busy”は「忙しい」であり、漢字では「心を亡くす」と書きます。差し詰めビジネスマンとは「心のゆとりを亡くした人」ということになります。
ビジネスマンの「あそび」とは、心の中にゆとりを保ち、暮らしに豊かな「のりしろ」をつくることです。それがワーク・ライフ・バランスの実現にもつながるのではないでしょうか。