連載コラム/私の視点・社会の支点
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「新たな公(おおやけ)」の時代
変わる「公」の意味
「公(おおやけ)」という言葉からどのような概念が想定されるでしょうか。平安時代の支配階層である貴族は「公家」と呼ばれ、朝廷における為政者でした。江戸時代には将軍は「公方様」と呼ばれ、やはり政(まつりごと)を司る者でした。このように「公」とは社会の統治者やその対象となる国家を意味してきました。明治時代以降も、「公=お上」や「公=官」として認識されてきました。したがって、「奉公」といえば、『国や朝廷のために力を尽くすこと』(広辞苑)と書かれています。
もう一方で、「公」は社会の大衆・市民など世間全般を意味しています。「公共」や「公衆」など、英語では「Public」といわれる概念です。このように「公」にはふたつの意味がありますが、最近では「Public」の意味で使われることが増えているようです。
政府が2005年に公表した「日本21世紀ビジョン」では、2030年に日本の目指すべきビジョンのひとつとして、「豊かな公・小さな官」を掲げています。ここでは明らかに「公」は「Public」を指し、もうひとつの意味である統治者や国家を「官」という言葉に置き換えているのです。その背景には、これまでの「公」の意味が大きく変わり、今日の社会状況が「新たな公」の時代を求めていることがあるのではないでしょうか。
公益法人制度改革と「新たな奉公」
今年(2008年)12月に公益法人制度改革が施行されます。公益法人は、1896(明治29)年に制定された民法34条に規定されて以来、この110年の間にその概念は拡張し、学校法人、医療法人、社会福祉法人などが特別法として制定され、10年前の1998年には特定非営利活動促進法(NPO法)ができました。今日までの公益概念の変化は著しく、「公=官}の時代には「公益}とは「官」が規定する「国家益」であり、現在の公益活動とは大きくイメージが異なります。
今回の公益法人制度改革では、法人設立は登記のみで可能になり、主務官庁制は廃止され、公益性の認定は民間有識者を交えた第三者機関に委ねられます。そこでの判定は、すなわち「新たな公」とは何かを問うことに他ならないのです。
今日の社会的課題のいくつかは、この「公」の持つふたつの概念のギャップに起因していないでしょうか。最近話題になった居酒屋タクシーなどの官僚の不祥事や公共工事における官制談合などを聞くと、公務員が国民から預かった税金を「公金」ではなく「官金」と思っているのではないかと誰もが疑いたくなります。
今般の公益法人制度改革は、現代社会の「公益」とは何であるのか、「公」の概念が大きく変化するなかでその意味を問うものです。それは将来の日本社会のあり方や方向性を探る上でとても重要です。「新たな公」に貢献する「新たな奉公」が必要な時代が来ているのではないかと思います。