連載コラム/私の視点・社会の支点
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多様性もとめる社会~人口減少時代の社会デザイン
わるい違い・よい違い
少子高齢化が進展し、これから本格的な人口減少時代を迎える日本は、規制緩和をはじめとした徹底的な構造改革が求められています。あらゆる分野で市場原理が導入され、効率的な社会経済の運営が不可欠です。しかし、その結果、所得格差、雇用格差、情報格差、教育格差、地域格差など、多くの「格差」が発生し、日本は格差社会になりつつあります。
社会に『違い』が生じることは決して悪いことではありません。問題は、その『違い』が「格差」なのか「多様性」なのかという点です。「格差」とは自分の努力や意志ではどうすることもできない他律的に決められた社会の枠組みであり、「多様性」は自らが選択できる自律的なものだと思います。
近年では非正規雇用が増加しています。それを就業者が自分の価値観に基づくライフスタイルとして選択していれば、その『違い』は「多様性」といえます。しかし、正規雇用を望むにもかかわらず非正規で働き続けざるを得ず、いつまでも貧困から抜け出せないのであれば、それは「格差」でしょう。
21世紀は国民のニーズも価値観も多様となり、国家も企業も多様性(Diversity)が求められる時代です。同質性の強い組織はもろく、様々な方向から外力が作用する成熟社会にあっては、多様な人材構成が不可欠なのです。「格差」を是正するためには、階層間の移動が困難で『違い』を固定化するような社会制度を見直し、個人と社会の「多様性」を促進することが必要ではないでしょうか。
ワークシェアリングとワークライフバランス
政府は2007年12月に政労使合意により「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を定めました。この憲章では、現在の日本には仕事と生活の両立がしにくい現実があり、その間で問題を抱える人が多く見られるとしています。ワークライフバランス実現のメリットは、仕事と子育ての両立や労働力人口の確保、企業の生産性の向上、個人の多様な生き方の選択などが挙げられます。
最近、派遣労働者などの非正規雇用者の失業が大きな社会問題となり、その対応策として経済界でもワークシェアリング導入の検討が始まっています。これは一人当たりの労働時間を短縮し、賃金は下がっても全体の雇用を守ろうとするものです。ここで重要なことは、これを単なる雇用調整の手段ではなく、ワークライフバランスによる柔軟で多様な就業形態のひとつとして位置づけることです。
ワークライフバランスの実現は、仕事と子育ての両立のみならず、介護、生涯教育、地域活動など多様な個人の生き方と柔軟な働き方を可能にします。したがってワークシェアリングの真価は、それによって社会や企業、個人が新たな付加価値を生み出し、社会の多様性を促進できるかどうかです。ワークライフバランスとは多様な「個」の能力を活かすためのライフデザインであると同時に、本格的な人口減少時代を迎える日本が、活力ある社会をつくるための社会デザインでもあるのです。