連載コラム/私の視点・社会の支点
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多様性もとめる社会~多文化主義の社会デザイン
パッチワーク社会
2009年1月20日、第44代アメリカ大統領バラク・オバマ氏の就任演説を聞いた方も多いでしょう。世界中の人々がこの演説に注目し、日本でも新聞紙上に演説の全文和英対訳が掲載されました。書店では演説を収録したCDやDVDが大変な人気を集めています。
演説の内容を見ると、比較的わかりやすい単語を使い、国家のビジョンを語っています。私が読んで大変興味を覚えた箇所は、アメリカ社会の多様性を「パッチワーク」と表現した部分です。そこにはアメリカ社会はあらゆる言語と文化から形成され、その多様性が強みであると述べられています。
これまでアメリカ社会の多様性は、「人種のルツボ」などと表現されてきました。さまざまな人種や言語、文化が混ざり合って融合した社会ということです。しかし、今回オバマ氏が使った「パッチワーク」という言葉は、少し意味合いが違うように思えるのです。
「パッチワーク」は、一つひとつのパーツにそれぞれ固有の図柄があり、それがたくさん集まって全体像を構成しています。つまり各ピースにはそれぞれ独自性(アイデンティティ)があり、それを活かした上に全体が成り立っているのです。オバマ氏はそれを多文化共生の「パッチワーク」社会と言い表したのではないでしょうか。
内なる国際化
日本は経済成長とともに海外進出を積極的に行なってきました。それは「外なる国際化」と言えます。一方、これから人口減少時代を迎えるにあたり日本が直面するのは、外国人労働者の受け入れなど、「内なる国際化」でしょう。
海外進出する時に重要なことは、進出先の国の文化、伝統、歴史や習慣などを理解することです。では、「内なる国際化」の場合はどうでしょうか。もちろん日本の文化、伝統、歴史や習慣を十分理解してもらうことは不可欠です。しかし、それは日本に来る外国人に同化を求めるものではありあせん。
先日、日系ブラジル人の方の話を聞く機会がありました。彼は小学生の頃、日本にやって来ましたが、日本語が分からないことから学校で大変ないじめにあったそうです。風貌から日本人と区別がつかないため、日本人に同化して暮らせばいじめられないことが分かったそうです。しかし、彼はブラジル人としてのアイデンティティを失いたくなかったと言います。
オバマ演説の「パッチワーク」社会とは、外国人を含むすべての社会の構成員のアイデンティティを尊重した多文化主義の社会です。マジョリティ(多数派)がマイノリティ(少数派)を同化させたり、グローバルスタンダードにすべてを統一してしまうことではありません。
これから日本社会が直面する「内なる国際化」を進めるには、「パッチワーク」社会の理念が必要です。その実現のためには、何よりも日本人自身が日本のアイデンティティをしっかりと認識することが求められるのではないでしょうか。