連載コラム/私の視点・社会の支点
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企業のワーク・ライフ・バランスを考える3つの視点
従業員福祉からCSR経営へ
企業にとってワーク・ライフ・バランス(以下、WLBと表記)の実現というと、従業員の仕事と子育ての両立支援を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、WLBの実現はそれより広範な意味を持ち、CSR経営の一環と考えられないでしょうか。すなわち自社の従業員に限らず、日本社会が持続可能であるために次世代育成支援が企業の社会的責任であるという考え方です。ある企業では自社従業員のための事業所内保育所に替わり、地域の子育て中の共働き世帯が広く利用できる認証保育所(東京都独自の保育所制度による保育所)を設置・運営している事例もあります。
今後、WLBの実現は仕事と子育ての両立にとどまらず、生涯教育や地域活動など多様な個人の生き方も可能にします。そして、WLBは従業員に対する企業内福祉に留まらず、組織の人材ポートフォリオを多様なものとし、企業体質の強化や生産性の向上、新たな付加価値の創造などにつながります。
経営者のワーク・ライフ・バランスの実現を
内閣府の男女共同参画会議「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会」が平成20年4月に公表した報告書には、企業がWLBに取り組むメリットのひとつとして、「従業員の生活者としての視点や創造性、時間管理能力の向上」を挙げています。しかし、それは従業員に限らず経営者にとっても当てはまることではないでしょうか。
社会経済環境が大きく変わる中で企業経営を行うためには、経営者の幅広い多様な価値観が求められます。これまでの異業種交流を超えて経営者自らが常に学習機会を作り出し、既存の枠組みにとらわれない経営感覚を磨く必要があります。そのためには企業経営者がWLBの実践を通して生活者の目線から社会を見つめ、地域の実情を把握することが重要でしょう。
多様な就業形態の実現を
企業が取り組むリストラは、本来、事業の再構築や業務の構造改革を意味しました。しかし、それがいつの間にか従業員の人員整理に矮小化されてしまったように、WLBの実現を単なる従業員の労働時間の短縮とみなしてはなりません。労働時間を短縮するために業務改善をどのように行うのか、その結果生み出された時間をどう活用して業務の生産性を向上させるのか、そして多様な働き方がいかに多くの付加価値を創出するのかということが企業にとって重要な課題ではないでしょうか。
WLBは企業にとって「コストか投資か」とよく言われます。生産量が労働時間に比例するような時代には長く働くことのできる従業員が求められましたが、付加価値の高い生産には単一志向、均質は人材構成ではなく、多様な能力や価値観を有した人材が必要なのです。高い付加価値を求める企業にとってWLBの推進とは、人材構成の多様化を実現することであり、従業員の幸せや満足感を高めることによって生産性の向上を図るための将来投資なのです。WLBの実現は、一人ひとりの社員が Shine する(輝く)ことなのです。