連載コラム/私の視点・社会の支点
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新たな「ワーク・ライフ・バランス」考
「働く」とは
先日、「はたら区カエル野の仲間たち」という小さな絵本をいただきました。これは内閣府の仕事と生活の調和推進室の協力でこども未来財団が2009年3月に発行したもので、『「ワーク・ライフ・バランス」を考える‘きっかけ'になる本』と表紙に書かれています。
その中に「働く」とはどういうことかについて次のような記述があります。『その昔「動き」と書いて「はたらき」と読んでたころは、日々暮らすための「人の動き」を指していたんだ。だから、家族のためにご飯をつくったり、家でつかう薪を山へとりに行くことも働き方のひとつ。「働くこと=お金をもらうこと」じゃなくって「生きること」だったんだ。それがいつしか、生きるために必要なモノをお金で買う人が増えてきて、今では多くの人が「働くこと≒お金をもらうこと」って感じているんだよね。』(同書P.23より)
このように「働く」とは、今では賃金労働を指すことが多くなりましたが、かつては暮らしを支える様々な行為を意味しました。では最近、注目されているワーク・ライフ・バランスの「ワーク」は、どのような意味を持っているのでしょうか。「ワーク」を辞書で調べると、「仕事、労働、研究、作業」などと書かれていますが、ここでは主に企業などで働くことによりその対価として賃金を得る行為を指していると思われます。しかし、実際の「ワーク」には前述の「働く」と同様に、地域における無償のボランティア活動や家庭内の家事・育児等の貨幣価値に還元されない行為もたくさん含まれているのです。
ふたつの「ワークライフ」のバランス
そこで「ワーク」を「暮らしを支える様々な行為」と捉えて、ワーク・ライフ・バランスについて考えてみましょう。
日本がGDP(国内総生産)を拡大し経済成長を続けるためには、賃金労働としての「ワーク」が大きな役割を果たします。しかし、今日の日本社会は未曾有の少子高齢化が進展し、子育てや介護という大きな社会的課題に直面しており、これらの問題は効率性を追求する市場経済の中だけでは到底解決することはできません。今後、日本が活力を維持し、豊かな社会を築くためには、効率性を求める市場経済における「ワーク」とともに、貨幣価値には還元されない「ワーク」が重要になります。
一方、これまでの日本社会では、主にお金を稼ぐ仕事を男性が、貨幣価値に還元されない仕事を女性が担ってきました。そのような性別役割分業が最も経済合理性が高く、戦後の高度経済成長に寄与してきたのかもしれません。
しかし、今後われわれ一人ひとりが幸せに生きていくためには、性別に関わらずこのふたつの「ワークライフ」のバランスを図ることが重要になるのではないでしょうか。賃金労働である「ワークライフ」が経済的自立を可能にし、貨幣価値に還元されない「ワークライフ」が自己実現や生きがいに繋がります。「ワーク」とはもともと人生をワクワクさせるものなのです。