連載コラム/私の視点・社会の支点
previous 第19回 next
オリンピック招致に思う
東京招致失敗のわけ
今年(2009年)10月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で、2016年の夏季オリンピックの開催都市がブラジルのリオデジャネイロに決まりました。昨年6月の第1次選考では、競技施設計画や交通・宿泊施設の整備状況、大会運営ノウハウ、財政力、治安、環境対策など東京は高い評価を得ていましたが、最終的には東京は2回目の投票で落選しました。
開催地の決定は、技術的な側面というよりは各都市でオリンピックを開催する意義を各国のIOC委員がどのように判断するのかにかかっていたようです。オリンピックの象徴である五輪が表わす五大陸のひとつである南米のリオデジャネイロで初めてのオリンピックを開催するということは、誰もが納得しうる最も分かりやすい開催意義だったのかもしれません。
東京は大半の競技施設を半径8キロ以内に配置するコンパクトな開催計画を提案し、カーボンマイナス・オリンピックという21世紀の環境配慮型のコンセプトを提示しました。しかし、結果として招致に失敗した大きな要因は、国民の開催支持率の低さや開催を求める情熱の不足、それをIOC委員へ伝えるロビー活動の未熟さなどがあったのではないかと思われます。
東京招致失敗の遺産
IOC総会の最終プレゼンテーションでは鳩山首相が、先の国連演説で述べた「2020年に90年比25%の温室効果ガスの削減」を改めて表明しました。その実現のためには2016年のオリンピック招致の成否に関わらず東京という巨大都市の低炭素化を促進しなくてはなりません。土地利用や交通体系、建物のエネルギー消費、そしてわれわれ自身のライフスタイルの見直しなどが必要です。
大幅な温室効果ガスの削減は政府や企業だけではなく、われわれ国民一人ひとりが当事者意識を持ってこの目標に向かわねばその実現は困難です。今回のオリンピック招致の経験からも、国民不在ではこの高いハードルは決して乗り越えることは出来ないことが分かります。これから展開される2020年の温室効果ガス25%削減という新たなカーボンマイナス・オリンピックは、日本社会が一丸となって実現を目指さなければならないのです。
今後の招致とは?
東京招致の失敗後、直ちに広島と長崎が2020年のオリンピック招致都市立候補の意向を表明しました。その背景には、平和市長会議が2020年までの核兵器廃絶を提唱していることから、世界の世論を盛り上げてその実現に向けた動きを加速したいとの考えがあるのでしょう。
オリンピック招致が温室効果ガス削減や核兵器廃絶など地球規模の課題解決に向けて大きな役割を果たすことは確かです。しかし、スポーツの祭典であるオリンピックは「○○のため」という形容詞がなくても、人間のもつ能力や可能性を追求するアスリートたちの姿が世界中の人々に大きな感動を与えるものではないでしょうか。オリンピック招致は純粋にスポーツの素晴らしさを伝える、その実現のためのコンセプトづくりがまず求められているのだと思います。