連載コラム/私の視点・社会の支点
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安全なまち・安心なまち
ホームセキュリティ
みなさんはゲイティッド・コミュニティ(Gated Community)という言葉をご存知でしょうか。アメリカの郊外住宅地では、住宅地全体を塀で囲んで敷地への進入路にゲートを設けた街をそう呼びます。全米で2万ヶ所以上あるといわれています。ゲートで来街者をチェックし、不審者の侵入を防ぎ、治安を守るのです。
凶悪犯罪が多いアメリカ社会では、人種の多様性や貧富の大きさなどから治安状況は地域により大きく異なります。特に郊外住宅地も治安の悪化が懸念され、住民の安全性を守るために新たにつくる住宅地をゲイティッド・コミュニティとして開発するのです。このような街の不動産価格は他の物件より高額で安定しているそうです。それはまるで中世の城壁で囲まれた都市・BURGを想起させ、要塞都市(Fortress City)とも呼ばれています。
一方、日本の最近の集合住宅(マンション)は共同玄関にテレビカメラの付いたオートロック装置を設けた物件が多く、居住者以外の部外者が容易に建物内に入れない構造になっています。そのお陰で強引な勧誘・訪問販売に煩わされることや不審者の侵入に対する不安も少なくなりました。逆に新聞や郵便物を共同玄関の集合郵便受けまで取りに行かなくてはならないといった不便さはありますが、多くの人々が安全性をより求めているのでしょう。戸建て住宅も特別な要人宅に限らずホームセキュリティ装置を設置している家をよく見かけます。これまで「水と安全はタダ」と言われてきた日本社会ですが、「安全」を手に入れるためには多大なコストがかかる時代になったということでしょう。
オープンスクール
私の住む街の小学校はいわゆるオープンスクールといわれるものです。学校の校庭と街路の間には塀やフェンスはなく、24時間いつでも誰でも校庭に入ることができます。昼間には地域の子ども連れの親子が校庭でのんびり散歩している姿もよく見かけます。校舎も道路沿いに建っており、中をのぞくと授業中の風景を見ることもできます。このようにこの小学校は地域に開かれた学校を目指し、常に地域との関わりを大切にしてきました。
しかし、2001年6月に大阪・池田小学校児童殺傷事件が起こり状況は一変します。この事件は校内にいた児童が外部からの侵入者により殺害されるという衝撃的なものでした。子どもたちの安全を守るためにオープンスクールのセキュリティ体制はどうあればよいのか、 教職員や保護者、地域住民の間で喧々諤々の議論が起こりました。長い議論の末たどり着いた結論は、校舎の開口部は施錠し出入口は教職員の常時見ているところに限定する、校庭と道路の境界には塀を設けるのではなく、校庭の死角をなくし地域住民がいつも校庭を見守ることにより不審者が入り難い環境をつくる、というものでした。
確かに高い塀を設けて部外者の侵入を防ぐこともひとつの方法ですが、むしろ住民が見守ることにより不審者の侵入を防ぎ、異常があればすぐにわかるような地域コミュニティをつくることが肝要です。複雑化する現代社会では、ゲイティッド・コミュニティのような物理的に「安全なまち」を買うことができても、心理的に「安心なまち」をつくることは容易ではなく、子どもからお年寄りまで多くの人がつながったコミュニティづくりが求められます。