連載コラム/私の視点・社会の支点
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国民年金と携帯電話
貧困化する若者たち
総務省「労働力調査」の平成22年平均速報結果(平成23年1月28日公表)によると、日本全体の完全失業者数は334万人、完全失業率は5.1%で、年齢別では15~24歳が9.4%と若年失業率が非常に高くなっています。また、厚生労働省「新規学校卒業就職者の就職離職状況調査」によると、平成17年3月卒業者の就職後3年間の離職率は、中学卒業者が66.7%、高校卒業者が47.9%、大学卒業者が35.9%となっています。
このように若者の雇用環境をみると、失業率は高く、就職した高校卒業者では約半数が、大学卒業者も3人にひとりは3年以内に離職しており、今日の若者にとって就職や就業の継続がとても難しいことがわかります。その結果、平成20年時点の若年無業者(15歳から34歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者)は60万人以上に上っています。
こうした安定した経済基盤を持たない若者たちの中には、親と同居するいわゆる「パラサイトシングル」も多くいます。かつての「パラサイトシングル」は豊かな消費生活を楽しみ“独身貴族”などと呼ばれていました。しかし、現在ではパートやアルバイトで働きながらも経済的自立が難しい親同居未婚者へと変質しています。
また、いくら働いても貧しさから抜け出せない「ワーキング・プア」と呼ばれる若者や経済的に「結婚したくても結婚できない」未婚者も増加しています。そして今、日本社会は老後の経済基盤となる国民年金の保険料を支払えない、あるいは支払わない若年未納者が多くなるなど、高齢社会の将来を支える若者たちの貧困化が進んでいるのです。
若者のセーフティネットは何か
国民年金保険料(平成22年度は月額1万5,100円)の支払いは成人の義務であるにもかかわらず、なぜ若者の未納者が多いのでしょう。将来、負担に見合うだけの給付を受けられないと若者たちが感じているからでしょうか。総務省統計局の「家計消費状況調査」(平成21年)では、34歳までの単身者の携帯電話使用料は、1ヶ月当たり8,164円(男性8,770円、女性7,182円)となっています。これらの人たちが国民年金保険料の未納者であるわけではありませんが、未納者の中には保険料相当の携帯電話使用料を支払っている人もかなりいるのではないでしょうか。携帯電話使用料を支払う能力があるのであれば、まずは国民年金の保険料を支払うべきとの声が聞かれるのも当然かもしれません。
しかし、今日の就職活動や仕事を継続するためには携帯電話は必需品となっています。若者にとっては老後のための公的年金制度よりも、まず今の生活の糧のための携帯電話が不可欠なのかもしれません。特に、人材派遣会社から仕事を紹介され日替わりの派遣先で働く「日雇い派遣」の人にとっては、携帯電話が生命線となっています。
日本社会では若者の貧困問題が深刻になる中、携帯電話が現代の若者を雇用に結び付けるセーフティネットの役割を果たしているとすれば、単純に若者の国民年金未納問題を批判することもできません。安心できる高齢社会を築くためには、若者が確実に労働市場に参加可能な職業教育や雇用環境の整備など、若者の自立を促す就業支援に向けた社会保障制度の充実が必要ではないでしょうか。