連載コラム/私の視点・社会の支点
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冷却が必要なのは原発だけだろうか?
日本のエネルギー政策
3・11東日本大震災から3ヵ月あまりが経ち、被災地では復興に向けた取り組みも本格化しています。しかし、東京電力福島第一原発の事故は未だに収束の目処が立たず、多くの人が不安を抱えた状態が続いています。今回の原発事故を契機に政府は原発の安全基準の見直しや中部電力浜岡原子力発電所の原子炉停止などを要請しました。
ドイツでは2022年までに国内にある17基すべての原発を閉鎖することを閣議決定し、イタリアの国民投票は将来の原発建設に“NO”を突きつけました。今後、わが国のエネルギー政策を考えるとき、原子力発電への依存度をどうするのか、原子力の代替エネルギーを何に求めるのか、地球温暖化への対応をどうするのかなど多くの現実的課題が山積しています。
私は最近、E・F・シューマッハ(1911~1977年)著「スモール・イズ・ビューティフル」(1973年)を読み返してみました。シューマッハはこの本の「原子力~救いか呪いか」という章の中で、『人類に及ぼす危険は原子爆弾より原子力の平和利用の方がはるかに大きいかもしれない』、『放射性廃棄物は絶えず水で冷却しながら永久保管するしかない。われわれは自分ではどうしていいかわからない問題の解決を子孫に押し付けている』と述べています。まるで今日の事態を予測したかのようですが、われわれは原子力発電という果実を獲得した一方で、使用済み核燃料を長期間にわたり安定的に冷却し続けなくてはならないという宿命を背負っていることを一時も忘れてはならないのです。
節電がもたらすチェンジ
今後、わが国のエネルギー政策を考えるとき、電力の供給側の課題だけではなくそれを消費する需要側の課題もあります。計画停電は電力需要が供給能力を上回りそうになると実施されますが、今後、伸び続ける需要に見合うだけの発電能力の拡大を図るのか、もしくは逆に原発が停止していてもまかなえる供給能力の範囲内で経済活動や日常生活を営む工夫をするのか、今回の原発事故は今後のわが国経済社会のあり方とわれわれのワークスタイルやライフスタイルに大きな影響を与えることになるでしょう。
節電とはこれまでのライフスタイルを踏襲したまま電気の消費を節約することにとどまらず、今、求められていることは現在の暮らし方そのものを大幅に見直すことでしょう。それは生活の質を低下させることではなく、新たな暮らしの価値観を構築することです。サマータイムの実施による太陽光を活かした生活は、ワーク・ライフ・バランスの実現につながるかもしれません。また、休日の分散化は電力需要の平準化とともにこれまでの働き方や休暇の過ごし方を大きく変えるかもしれません。
今回の原発事故を契機として政府や自治体、産業界や国民が一度立ち止まってこれからの新しい経済社会のあり方についてじっくり考えることの必要性が再認識されました。今、冷却が必要なのは原子炉の燃料棒だけではなく、原子力の平和利用の名のもとに大量のエネルギー消費を前提としてきた現代社会の産業経済とわれわれの暮らしそのものではないでしょうか。