連載コラム/私の視点・社会の支点
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幸福度と体重
幸福社会とは
幸福とは何だろう。古代ギリシャの時代からアリストテレスを始め多くの哲学者が追究してきた「幸福」は、現代社会にあっても大きな関心事です。「幸福」に関してはこれまでも国内外を問わず多くの研究が行われています。哲学や政治学の他に心理学、社会学の分野でもその研究が盛んで、90年代以降は経済学における幸福度の計量化研究が活発になりました。近年、世界中で新たな幸福度指標づくりが試みられているのは、今後の政策や国のあり方を考える上で「幸福」が重要な政治的対象となっているからです。
現在、日本社会の幸福を巡る論点のひとつは、「経済が成長しても国民の幸福度は向上しない」いわゆる「幸福のパラドクス」についてです。2つ目は個人の幸福の追求が社会全体の幸福をもたらすのかどうか、「個人の幸福」と「社会の幸福」の関係です。3つ目は地球温暖化など地球環境問題が深刻になる中で「現代の幸福」が「将来の幸福」に与える影響、すなわち幸福社会の持続可能性についてです。
このたびの東日本大震災はわれわれの幸福感や価値観をも大きく揺るがしました。幸福度研究には、幸福に関する個人の主観的な評価をどのように客観的に計測するかなど多くの課題も残りますが、幸福が個人の主観に基づくものでありながらもその実現には共通した客観的要因があることも確かです。このような個人が幸福を実現するために必要な要件を備えた社会を「幸福社会」と呼ぶならば、その共通基盤を築くためにどのような政策が必要かを考えることが幸福度研究の大きな目標ではないでしょうか。
幸福度を測る
今年(2011年)5月に経済協力開発機構(OECD)が設立50周年を記念して、これまでの国内総生産(GDP)などの経済指標に代わる新たな国民の幸福尺度「BLI:Better Life Index」(より良い暮らし指標)を発表しました。日本は加盟34ヵ国中19位でした。この指標は全部で11の分野からなり、物質的生活条件として「住宅」「収入」「雇用」、生活の質として「コミュニティ」「教育」「環境」「ガバナンス」「健康」「生活満足度」「安心・安全」「ワーク・ライフ・バランス」を挙げています。
日本は「収入」や「雇用」「教育」「安全・安心」などで高い評価を受ける一方、「コミュニティ」「ガバナンス」「生活満足度」「ワーク・ライフ・ バランス」に関する評価が低くなっています。「コミュニティ」では、「友人や同僚などと一緒に過ごす時間がある」人の割合が低く、「ガバナンス」 では選挙の投票率の低さや情報公開などの透明性が低いことが指摘されています。また、「生活満足度」では「自分の生活に満足している」人が40%とOECD平均を大きく下回り、「ワーク・ライフ・バランス」では余暇時間の少なさが指摘されています。
このように幸福度を測ることは現代社会の課題を明らかにし、今後の政策の方向を考える上で非常に有効だと思われます。幸福度指標は国民が幸福を実現するために人生の選択肢や潜在的可能性を広げるための社会的条件整備のヒントを与えてくれます。しかし、それは体重と同様に測ること自体が目的ではなく、日々の暮らしに活かすことが重要です。幸福度は社会の健康を図るひとつの指標として大事ではないでしょうか。