連載コラム/私の視点・社会の支点
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復興元年“2012”
楽観論と悲観論
私は最近、「幸福度」に関する研究を行っています。多くの幸福度に関する参考文献を読んでみると、人が幸福になるためにはあまり人生の細部にこだわらないことが重要なようです。自分の将来に明るい期待を持っていることや他人と比較しないこと、人に感謝することを忘れない人は幸福度が高いという研究結果もあります。すなわち人生の細かいことにこだわらずに生きる楽観主義は幸福をもたらすということです。
かつて 『悲観主義は感情によるが、楽観主義は意志の力による』 という言葉を聞いたことがあります。長い間その出所を思い出せずにいましたが、昨年11月、NHK教育テレビ「100分 de 名著」という番組を見て、アランの「幸福論」の中にこの言葉を見つけました。アラン(1868-1951年)はフランスの哲学者で、「幸福論」は日常生活の中で分かりやすく幸福について論じたものです。全体で93編のプロボ(哲学断章)からなり、この言葉は第93編の作品に収められています。
その他にも 『山頂まで登山電車できた人は、登山家と同じ太陽を見ることはできない』 (第44編)や『幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ』(第77編)など、そこには実践的な幸福論が展開されています。昨年は東日本大震災という未曾有の大災害に見舞われ、忘れることのできない不幸な一年でした。しかし、明治大学の合田正人さんは上記番組で、 『「幸福」というものはあるものではなく、あるのは「幸福」であろうとする意志と活動と責務だけなのです』 と解説しています。
大震災を乗り越えて
2012年が始まりました。新年1月9日(月)にホリデー・ドキュメント「池袋発三陸行き 夜行バス物語」(NHK総合)というテレビ番組を見ました。毎晩9時に池袋西口を出る三陸地方に向う夜行バスには、行方不明の家族を探しに帰省する人、被災地を元気づけるためにボランティア活動に行く人など様々な思いを抱えた人たちがいます。私自身も昨年9月に夜行バスで被災地を訪れましたが、あの時もきっと様々な事情を抱えた人たちが乗り合わせていたのだと思います。
正月には被災地の復興に向けた動きを伝えるドキュメンタリー番組がたくさん放映され、被災地の人たちの力強く立ち上がる姿を映し出していました。これまで大切にしてきた人や財産をすっかり失い、絶望の淵にいる人たちが復興に向けて前向きに生きる姿には強く心を動かされます。そしてそれは支援する人たちにも大きな勇気と力を与えます。
私は今回の大震災を契機に「幸福とは将来への希望ではないか」と考えるようになりました。それは被災地の生活状況がいかに厳しくとも、復興に向けて前進する人たちの姿に明るい希望を感じるからです。「希望学」を唱える東京大学の玄田有史さんは 『希望は前進するための原動力だ』 と述べています。
大震災の苦難を乗り越えるにはとても長い時間を要するでしょう。しかし、苦難の先に本当の幸せがあると信じてやみません。今年はアランがいう『意志としての楽観主義』が人々に希望を与え、それを原動力として逞しく前進する「復興元年」になることを心より願っています。