連載コラム/私の視点・社会の支点
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帰宅困難者対策と 「救缶鳥」
「救缶鳥」 プロジェクト
今年(2012年)4月発行の本誌で、第9回企業フィランソロピー大賞特別賞を受賞した「救缶鳥」プロジェクトの記事を読んだ方も多いと思います。これは「株式会社パン・アキモト」さんが提供している非常用のパンの缶詰「救缶鳥」のことです。ひと缶に菓子パン200グラムが入っており、15個が1セットです。賞味期限は3年で、味はオレンジ、レーズン、いちごの3種類があります。
この「救缶鳥」は2年経過すると更新の案内があり、2年間無事に何事もなければ、新しい「救缶鳥」に交換します。再購入すると、配達時に「旧」缶鳥を1個100円で引き取ってくれます。まだ賞味期限が1年残っている「旧」缶鳥は全国各地から回収された後に、日本国際飢餓対策機構等を通じて食糧難で困っている国々に届けられます。「救缶鳥」は少なくとも消費期限内であれば湯で温めると柔らかい食感があり、防腐剤も使っていない健康に配慮した食品だといいます。缶には支援先への応援メッセージも書くことができます。
これまでわが家では非常食として缶詰を備蓄していましたが、気がつくと賞味期限が切れており、もったいないと思いながらも廃棄していました。しかし、この「救缶鳥」はこれまでの廃棄処分のコストが省ける上に、多くの食糧難の国々で有効に活用されます。地球上では5歳未満の子どもが6秒に1人の割合で飢えのために命を落としているという現実を考えると、その意義はとても大きいと思います。私は2月に行われたフィランソロピー大賞贈呈式で「救缶鳥」のことを知り、早速申し込んだところ、先日、その「救缶鳥」がわが家に届きました。
帰宅困難者対策
昨年3月11日の東日本大震災では、首都圏で約515万人、東京都で約352万人の帰宅困難者が出ました。多くの企業が発災後「早く帰宅するよう」呼びかけたこともあり、駅や道路は帰宅を急ぐ人であふれ返りました。しかし、そこには2次災害の危険性が多分にあったのです。
依然として日本列島の地震活動は活発で、首都直下地震がいつ起こっても不思議ではありません。その時はより多くの帰宅困難者の発生が予想されます。そこで東京都は3月29日「東京都帰宅困難者対策条例」を可決し、来年4月1日から施行します。条例では地震発生時に一時滞在施設を確保して一斉帰宅を抑制し、「むやみに移動しないよう努めること」を決めました。そのため都内の中小企業も含めた全企業に対して従業員の3日分の飲料水と食糧の備蓄を努力義務として求めています。
これから首都直下地震の帰宅困難者対策として多くの企業が食糧の備蓄を始めるでしょう。個人とは違いその量は膨大になると思われますが、くれぐれも賞味期限が切れて廃棄することにならないようにしたいものです。「救缶鳥」のように非常時の食糧備蓄のちょっとした工夫が日本と世界を救うことになるのです。
「救缶鳥」プロジェクトは、無駄を無くす省資源化と食糧難諸国の救済という国内外の課題を同時に解決するビジネスモデルとして評価された結果、企業フィランソロピー大賞特別賞に選ばれたのだと思います。防災対策も行政に依存するばかりではなく、お互いさまをベースとした共助型システムが必要です。あなたも自宅に「救缶鳥」を置いてみませんか。