連載コラム/私の視点・社会の支点
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日本の「幸福度」を考える ~「幸せ」感じられる社会へ
OECD 「より良い暮らし指標」
今年(2012年)5月、経済協力開発機構(OECD)が「より良い暮らし指標」(Better Life Index)のアップデート版を公表しました。昨年同様、「住宅」、「収入」、「雇用」、「コミュニティ」、「教育」、「環境」、「ガバナンス」、「健康」、「生活満足度」、「安全」、「ワークライフバランス」の11分野の指標を使って「幸福度(well-being)」を測るものです。
今年はロシアとブラジルを加えた36ヶ国を対象に、ジェンダーギャップや社会経済的地位による不平等に関するデータも統合されています。総合評価では、オーストラリアが1位、ノルウェイが2位、アメリカが3位で、日本は昨年19位、今年は21位となっています。
このランキングは、「より良い暮らし指標」11分野のスコアの単純合計(各分野10点満点)によるもので、総合的に対象国を比較できるようになっていますが、ランキング自体が目的ではありません。何故なら、全ての国や社会が「幸福度」を同じ価値観や概念で捉えているわけではないからです。
また、今年の報告書では男女の比較も可能です。男性の幸福度が女性より高い国は、36ヶ国中、イタリアやポルトガルなど9ヶ国だけで、その他の国々は女性の幸福度の方が高くなっています。そして総合ランキング上位10ヶ国のうち9ヶ国は、女性の幸福度が男性を上回っていることは興味深いことです。ちなみに日本、アメリカ、フィンランドなどでは、男女の幸福度格差は大きくなっています。
日本の「幸福度」の特徴
日本の「幸福度」の特徴を分野別にみると、「安全」、「教育」、「収入」がOECD平均値を上回っていますが、その他の分野では平均値以下であり、特に「ワークライフバランス」や「生活満足度」のスコアは低くなっています。
また、分野ごとの評価指標をみると、高得点の指標は、健康分野の「平均寿命」や安全分野の「殺人事件発生率」、「暴行事件発生率」の低さ、教育分野の「学生能力」などとなっています。一方、低得点はワークライフバランス分野の「自由時間」、「長時間労働者割合」、健康分野の「自己申告健康度」、生活満足度分野の「生活満足度」などです。
「幸福度」の評価指標は、客観的に把握できるものと主観的なものがありますが、日本の「幸福度」のパターンをみると、客観的スコア、例えば教育期間や学生の能力、平均寿命、犯罪発生率などでは上位に位置している項目も多く、「幸福度」に係る客観的状況は、ある程度達成されていると思われます。しかし、「生活満足度」や「自己申告健康度」など、主観的指標においてスコアが低く、意識面から「幸福」であることが実感しにくい社会になっているのかもしれません。
特に、健康分野は「平均寿命」が男女平均で83歳と第1位にもかかわらず、健康状態を「よい」または「非常によい」と答えた成人の割合「自己申告健康度」が最下位となっています。それは、「健康寿命」や高齢期の生活の質に課題があるからとも考えられます。今後、延命治療やターミナルケアのあり方など、このような指標が意味する様々な生活の質を意識面から見直すことも必要でしょう。「幸福度」の高い社会とは、幸福をもたらす客観的条件とともに、主観的に「将来に希望が持てる社会」でなければならないからです。