連載コラム/私の視点・社会の支点
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「共立(ともだち)」社会つくろう
異文化を分かり合う
最近、領土問題をめぐり中国や韓国との関係がギクシャクしています。このままでは双方の失うものは余りに大きく、長い時間をかけて築いてきた市民同士の信頼関係を壊しかねません。歴史や文化が異なる国の間では、様々な価値観の違いがあることは当然です。その中で相互理解を深めるには、相手国の人の暮らしを見て、聞いて、体験することが大事です。
私はこれまで一番近い隣国・韓国へ行ったことがありませんでした。そこで10月、わずか3日間ですが、韓国・ソウル市を訪ねました。韓国語ができない私は、日本語が話せる韓国人のTさんの宿に泊まりました。毎日、地下鉄や市バス、徒歩で街中をめぐり、そこで見たこと、聞いたこと、感じたことをTさんに話し、そして韓国の生活習慣や家族、雇用、教育、交通、歴史、文化、スポーツなどについて、多くのことを教えてもらいました。
生活習慣の違いで面白い体験がありました。私はTさんの宿に着いて、玄関で靴を反転させて揃えましたが、韓国では向きを変えないそうです。靴先を外に向けると歓迎して(されて)いない意味になるからだそうです。また、私が夜、焼き肉店で食事をしていると、酒を飲む時に顔を少し横に背けて飲む人がいました。これは目上の人の前で酒を飲むときのマナーだそうです。「百聞は一見に如かず」、「郷に入りては郷に従え」です。
囚人のジレンマ
日本は3・11東日本大震災で世界各国から多大な支援を受け、それに対して被災地はじめ日本の多くの人が心から感謝しています。もし、近隣諸国に大災害があれば、多数のボランティアが日本から被災地に駆けつけるでしょう。このような近隣諸国の人々との間で積み上げてきた相互の信頼関係が、国際社会の発展と安定には不可欠です。
また、少子高齢化が進む日本の地域社会における互助・共助が重要であるように、国際社会においても市民同士の交流・理解に基づく相互信頼・規範・ネットワークであるグローバル・ソーシャルキャピタルが必要です。そして、生活様式や価値観が異なる国民同士が互いの社会規範を理解し、ソーシャルキャピタルを育むためには、価値観の〝良い・悪い〟や〝好き・嫌い〟という評価を超えて「分かり合おう」とする強い意志がなければなりません。
「囚人のジレンマ」という言葉があります。「双方が協調すればお互いに利益を得られるが、自らのより大きな利益を得ようとして相手を裏切ると双方が損をする」ことを意味します。国家間の問題解決に向けては、国を超えた市民同士の信頼関係の構築が不可欠です。「囚人のジレンマ」にみるように、相手を友達として信頼することで、はじめてお互いに"Win-Win"の関係である「共立(ともだち)」社会をつくることができるのです。
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連載コラム「私の視点・社会の支点」は今回で終了します。2008年1月号に第1回を執筆し、5年間にわたり、人の「つながり」や「分かち合い」などを基底に置きながら、「幸せな社会」を実現し、「幸せな人生」を送るためにどうすればよいかを考えてきました。これまでのコラムがみなさんの「幸せ」の実現に少しでもお役に立てば幸いです。何かご感想などあればお知らせください。長い間、コラムをお読みいただきありがとうございました。
2012年12月 土堤内昭雄