公益社団法人日本フィランソロピー協会
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定例セミナー
 
第235回
開催終了
2008年12月1日、新公益法人制度が施行されました。これからは「民間の担う公益」が、社会作りにおける重要な位置を占めるようになります。そうした中、企業に対して、本業やCSR・社会貢献活動を通じてどのような役割を果たすことが求められているか、また行政やNPOとの関係をどう構築していくべきか、当協会会長・浅野史郎が語ります。
テーマ
企業が担う公益とは
~新たな社会作りの方向性を考える~
日 時
2009年1月29日(木)15:30~17:30
※セミナー終了後、講師との懇親会がございます。
(希望者のみ、1時間ほどを予定)
講 師
浅野 史郎(あさの・しろう)
社団法人日本フィランソロピー協会 会長
慶應義塾大学 総合政策学部教授
浅野史郎さん
<プロフィール>
1948年2月8日生まれ。宮城県仙台市出身。東京大学法学部卒業後1970年厚生省に入り、社会局老人福祉課課長補佐、在米日本大使館一等書記官、年金局企画課課長補佐を経て、1985年北海道庁福祉課長に。ここで障害福祉の仕事に初めて出会う。その後、厚生省障害福祉課長を経て、1993年に生活衛生局企画課長で23年7か月務めた厚生省を退職し、宮城県知事選挙に出馬、当選。1997年10月再選(第二期)。2001年11月再選(第三期)。2005年11月20日任期終了にて知事職を勇退。3期12年の知事職退任後は、慶應義塾大学総合政策学部教授(2006年4月~)、社会福祉法人宮城県社会福祉協議会会長(2005年4月~2007年3月)、東北大学客員教授(2005年12月~2007年3月)、社団法人日本フィランソロピー協会会長(2005年12月~)を務める。
会 場
伊藤忠商事株式会社 10階1004A会議室
東京都港区北青山2-5-1
<最寄駅>
・東京メトロ 銀座線「外苑前駅」すぐ
定 員
70名
参加費
一般:5,000円
会員:2,000円
学生:1,000円
※懇親会は、別途実費3,000円~4,000円の予定(希望者のみ)
お問合せ
社団法人日本フィランソロピー協会
担当:加勢川佐記子(かせがわ・さきこ)
こちら のフォームをご利用ください。
 
開催報告
当協会会長・浅野史郎
講演要旨
大変な今こそ、CSRを仕込む
きょうは「企業が担う公益とは」というテーマで、CSRやコンプライアンスについてお話ししたいと思います。まず現在の経済状況ですが、日本も世界も大変な危機にある。言ってみると・倒れている状態なんですね。全治3年か、5年かわかりませんが、確かなことは、転びっぱなしということはない。いつかは立直る。そして、転んで立ち直るときに、手に何を持って起き上がるか、ということがすごく大切です。
 
例えばアメリカ。国を支えていた自動車産業が駄目になった。しかし今後経済が立ち直ったとしても、また昔のやり方に戻るとは誰も考えていません。だからこそいま、「環境」や「福祉」、「農業」、「新型エネルギー」などの新産業に注目が集まっている。今はちょっとしか芽が出ていないような新しい形の産業を携えて、アメリカは立ち上がってくると思います。
 
そのとき日本はどうなのか。日本は何を持って立ち上がるのか。もし倒れてただ立ち上がっただけだとすると、他の国は新しい何かを手に持って遥か先を全力で走っていますから、その後を追いかけても間に合いません。つまり、皆が共倒れになっている今は、次の新しい産業を仕込むための大事な時期なんです。 皆さんの会社には核となる事業があるでしょうが、それだけではいけないし、ちょっと改善しただけでも駄目かもしれない。それはCSRについても言えます。この大変な時期であってもCSRをきちんとやっていた会社が、立ち直る時にドドッと走っていけるのではないか。
 
「あってはならないこと」の呪縛
少し「コンプライアンス」ということをお話ししましょう。コンプライアンスを日本語では法令遵守と思うかもしれませんが、これは違います。法律を守っていれば遵守=コンプライアンスが果たされると考える人が多いのですが、実はコンプライアンスのほうが概念として大きいものです。ライブドアのケースのように、法令には違反していないが企業倫理の観点からは大いに問題があるということがありす。ここをきちんと理解していないと、法令だけを守っていればいいという落とし穴に入ってしまう。
 
どの会社もリスク・マネージメントは必ずやっています。ところが、どんなにきっちり管理していても、リスクというものは発現すると思っていないといけません。そこで今度はクライシス・マネージメントが重要になります。リスク発覚後の危機対応ですよね。これはだいたい記者会見ですが、皆さんここで失敗するんです。タイミングが遅い、情報が小出し、うそを言う、責任逃れをするなどです。クライシス・マネージメントを失敗する原因の一つが、「あってはならないこと」という思い込みです。「あってはならないことが起きてしまった」という感覚でいるから、「無いことにしてしまおう」ということが頭に浮かぶ。「あってはならないこと」は「ある」んです。これは「無謬性の呪縛」と言います。
 
不祥事というのは、たとえて言えば「匂い」なんです。匂いというものは、近くにいないとわかりません。不祥事も同じです。不祥事の近くにいた人だけに匂いがする。しかし悪臭も慣れてしまうと悪臭と思えなくなってくる。そして防ごうとして押さえても匂いは指の間から漏れてくる。「匂いは元から絶たなきゃ駄目」なんです。また、匂いを察知したときに手で覆うのは忠誠心の強い社員なんですね。早く抑えないと会社が大変だと。手を動かした社員は、愛する会社のため、忠誠心のためにもみ消そうとして被害を拡大させてしまう。これは二次災害です。
 
このようなクライシスから組織を救うのは、情報公開です。「カウンター越しの鮨屋」と思えばわかりやすいかもしれません。皆さん「広報」と「情報公開」を混同していませんか。広報とは、元々きれいなもの、または見せたいものをより美しく見せる。情報公開とは、素っ裸です。恥部も全て見せるから、恥部が恥部にならないように、きれいにしておこうという思いが働く。どんなときでも表に出る可能性があることを、組織の構成員が上から下まで知っていることが大事です。それが、いい加減なことをしてはいけないという意識につながります。
 
『センス・オブ・ワンダー(The Sense of Wonder)』というのは、イギリスのレイチェル・カーソン(Rachel Louise Carson)という環境学者の本のタイトルです。「森に入ってみよう。森に入ったらこんなところに花があるのかといった驚きがある」と、それを感じるセンスのことを言います。たとえば、大阪府の橋下知事や宮崎県の東国原知事は、就任一年目には驚くことがいっぱいあったと思います。僕も同じでした。それが二年目になると、驚きがだいぶ少なくなる。だけど大事なことは、この驚く感覚をなくしちゃいけない。センス・オブ・ワンダーは、組織に改革を与える力を持っています。
 
CSRは誰のため?
最後にステークホルダーの話をします。企業はなぜCSRに取り組むのでしょう。企業イメージがアップして商品が売れるから? それは確かにあります。でもそれだけですか? 実はCSRは、企業を取り巻くステークホルダーに非常に大きな影響を及ぼしています。
 
そのひとつが社員です。たとえばヤマト運輸ではメール便の配達員として、約1,000人の障がい者を雇っています。6割が精神障がい者、2~3割が知的障がい者、1割が身体障がい者です。彼らは、健常者と同じ待遇で同じ制服を着て働いていますが、その制服に非常に誇りを持っていると言う。それを聞いた一般の社員が、それまで何も感じていなかった制服に会社のCSRに対する姿勢を感じて、自分たちも誇りを持つようになったそうです。これは絶対に生産性にもつながると思います。
 
顧客を巻き込んだ例を挙げてみましょう。日本一汚い川と言われた大和川を何とかきれいにしようと、大和信用金庫が「大和川定期預金」を売り出した。川に魚が住める環境になれば、金利に上乗せするという商品です。これになんと50億円が集まった。翌年は80億円。そして、預金を預けた人たちが川の浄化に関心を持つようになり、生活排水が主な汚染の原因だった川は、見違えるほどきれいになった。ステークホルダーである顧客と一緒にCSRを推進するという面白い図式です。
 
CSRの推進が、顧客の教育につながり、それがまた企業にフィードバックされて、正の連鎖になっていく。 政治の質は国民の質と言われますが、これはCSRとステークホルダーにも言えます。お互いに高めあう関係です。ステークホルダーの質が、その企業のCSRの質を決定づける関数になっている。ステークホルダーとの本当の意味でのコミュニケーションをきちっとすることがCSRのレベルを上げていくことになる。もしこれが現在の幹部の方針だけなら、トップが変わるとガラっと変わってしまう。それではあまりにもはかない。その企業がステークホルダーとの関係をきちんと築いていれば、継続的にCSRが繁栄することにつながります。
 
有力な企業各社が、CSRを通じて社会に貢献することにより、我々皆が幸せになり、会社も儲かる。そして皆に褒められて、さきほど例に挙げた ヤマト運輸大和信用金庫 のように日本フィランソロピー協会の「企業フィランソロピー大賞」がもらえる……というオチで、きょうの私の話を終えたいと思います。
定例セミナーとは・・・
8月の除く毎月、フィランソロピーに関心のある企業、個人、NPO・NGO、研究者などさまざまな方々にご参加いただいています。フィランソロピーに関する幅広い分野から毎回テーマを吟味し、楽しみながら社会貢献の理解促進・活動ノウハウを得る機会としていただいております。イベントや交流会では、講師・さまざまな参加者とのネットワークを広げることができ好評です。 みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。
<2008年度 幹事企業ご紹介>
本セミナーは、当協会を事務局とした企業幹事制を採り、年間テーマに沿って幹事の皆さまに企画・運営をお手伝いいただいています。
 
三和ホールディングス株式会社
大同生命保険株式会社
日本アムウェイ合同会社