コミュニティ放送の現状と課題

JPA では、東日本大震災後にコミュニティ放送局(※1)や臨時災害放送局が加盟する復興FM ネットワークプロジェクトを支援し、地域メディアとしてコミュニティラジオの価値を全国に普及させるため、共に活動しました。
地域社会における日常のきめ細かなネットワークづくりと情報共有が、災害時に生きるといわれますが、地域に密着したコミュニティ放送局がそのハブとなり、市民をはじめ地域内のさまざまな組織がコミュニティ放送局を支えることで、民主主義のインフラとしてより強固なものになるのではないか。このような認識のもと、コミュニティ放送局の現状と地域に果たすべき役割について把握するべく、一般社団法人日本コミュニティ放送協会(JCBA)のご協力を得て、アンケート調査を実施しました。

※1 コミュニティ放送局は、超短波(FM)放送により地域の話題や行政、観光、交通等の地域に密着したきめ細かな情報等を提供し、地域の活性化に寄与することを目的とした地域密着メディアとして、1992年1月に制度化された。災害時には自治体が発表する停電・断水、救援活動等の情報をリアルタイムできめ細かく提供するとともに、臨時災害放送局にスムースに移行することが可能。

コミュニティ放送局を地域のハブに

一般社団法人日本コミュニティ放送協会(JCBA)代表理事/FM 小田原株式会社代表取締役
鈴木伸幸さん

当協会は1994年に任意団体として設立、2009年に一般社団法人となりました。コミュニティ放送の運営社は全国で345社、うち当協会への加盟社は2024年9月末現在で249社となっています。
JCBAでは開局のアドバイスや、経営や運営にかかる相談も受けています。
生命保険会社と共同でマネーセミナーを開催するなどの実績もありますので、企業の広報宣伝、プロモーション番組の制作等でも、コミュニティ放送を活用していただきたいと考えています。それぞれ収益構造が異なるため、ひとつの方向性を見いだすことはできませんが、地域の特性、市民や地場の企業などとの密接な関係を生かし、放送収益以外に事業の柱を持つことも必要です。
例えば、FMおだわらでは、まちづくりやイベント、観光事業、環境事業など地元をよく知るからこそできる、地域に密着したまちづくりのプロデュースやプロモーション活動も行なっています。
災害時対応も含め、運営するうえで最も大切なのは「つながり」です。日ごろからさまざまな組織と防災連携を結ぶなど、常に情報が入ってくる仕組みを構築することが大切です。
一方で課題のひとつとして、増加する外国人観光客への情報提供があります。インバウンド需要の高まりもあり、全国各地共通です。FMおだわらの放送対象地域には箱根も含まれており、その対応は急務です。
圏域の行政機関との連携を強化し、対策を講じる必要があると実感しています。
さらにコミュニティ放送には、住民が信頼できる情報を発信する使命があります。SNSから寄せられる情報は貴重ですが、中には偽情報も含まれています。FMおだわらでは、「Spectee Pro」というサービスを導入して、デマ情報をはじいています。もちろん、私を含めスタッフが現場に出向き、実際に目で確かめて報道することもあります。
日常でも、困った時、いざという時にも「聴いていただける」情報をお届けすること。地域のハブとして、存在価値を高めていく努力を続けてまいります。

<コミュニティ放送に関するアンケート調査(概要)>

調査協力:一般社団法人日本コミュニティ放送協会(JCBA)
調査期間: 2024年10月21日(月)~ 11月1日(金)
回答方式: WEB入力
調査対象: 一般社団法人日本コミュニティ放送協会会員(249社)
回答数: 63社(回答率25.3%)

コミュニティ放送局からのメッセージ

コミュニティ放送が地域や市民に果たす役割について
  • 災害時に命を守るための行動を呼びかけ、生活情報を発信し続ける役割は大きい。そのためには、日常からラジオに触れてもらう機会を増やさなければ効果を上げることにつながらない。スマートフォンが普及することで、メディアとしての存在感が弱くなってきたことは否めないが、ラジオはSNS 等との相性が良いと感じているので、効果的に利用しながら、若い世代にも訴求していきたい。
  • コミュニティ放送が人と人をつなぎ、地域の活動や経済を活性化させる ― その役割は思った以上に大きい。市民が出演しやすい番組づくりを含め、誰もが自分で情報を発信できることも重要な役割のひとつである。
  • 災害等非常時にも、町内会単位の詳細な被災状況避難情報等を正確に速やかに伝達できること。
  • 地域の人間関係が希薄になりつつある今、ラジオが井戸端会議的な場所を提供することも、コミュニティ放送の役目だと考えている。
  • 離島のFM 局なので、『聴いていれば、島のことが分かる』を心掛けている。
  • 災害時には一般放送を中止し、災害情報に特化する。
  • 平常時から地域コミュニティ創造に寄与し、地域のつながりを強化し、災害時にも情報の共有ができる仕組みづくりを大切にしている。コミュニティ放送は、さまざまな人をつなぐハブ機能を有している。
  • 行政や民間をつなぐ中間支援の役割を担っており、地域情報の人的ネットワーク基盤と、魅力的な地域資源を利活用することで、地域社会の安全・安心に寄与するとともに、公共の課題解決を図る。
  • 平時は暮らしに密着する情報のほか、生活の潤いや文化の継承なども含めたコミュニティの形成の一助となるよう心がけているが、災害時には住民の命を守る放送を継続することが使命である。
  • 県域、NHK にはできない小回りの利いた放送ができることがコミュニティ放送の強み。生き残るためには、原点を忘れてはならず、リスナーに愛され、叱咤激励される存在でありたい。
実施している事業や取り組みについて
  • 行政と防災協定を結び、災害時に緊急割り込み放送が入る体制を構築。その際ラジオが自動起動し、市民に情報を伝達。
  • 災害時避難要支援者に配付している緊急告知FM ラジオによる、月1回の起動テストを実施。
  • 小中学校の職場体験・職場見学を受け入れている。また国連のSDGs メディアコンパクトに加盟している。
  • 放送局への来訪者を増やし、番組への出演も含め、ラジオ局を用いた交流の場を創出している。
  • 「ひとりでも孤独ではない」をキャッチフレーズに、LINE のオープンチャットや交換ノートなどのツールを運用。
  • 月3日(1日3 回)、行政・警察・消防・ガス会社等と連携し、防災防犯チャンネルの番組を制作、放送している。
  • 小中学生がラジオパーソナリティに挑戦する番組を十数年継続して放送。年間200名を超える子どもたちが参加。
  • 市の防災無線放送を請け負っており、隣接町にも中継局を設置して、災害応援協定を締結している。
  • パーソナリティ、制作、技術など放送に関わるすべての分野で市民ボランティアが参画している。
  • 一般市民が登録制で情報特派員とし、情報の信頼性を得ている。
  • 地域の企業や団体に「防災まちづくりパートナー制度」に登録してもらい、災害時の情報を相互に受発信できる仕組みをつくっている。