2021.10.08
第31回/誕生日寄付に寄せて
10月は私の誕生月である。ということは、誕生日寄付 をする月でもある。「皆さん、誕生日はいのちを与えられた日です。感謝を表す日です。感謝を込めて、次のいのちにバトンをつなぐために誕生日には寄付をしましょう!」と言いまわっているので、当然、自分自身も率先して誕生日には寄付をする。ただ、実を言うと、秋は、しなければいけない(?)否、しようと決めている寄付が多い。おまけに、年々寄付先が増えていくのだ。従って、本音を言うと、「ちょっと痛いなー」とも思っている。
そこで思い出すのは、誕生日寄付のヒントをくださったJリーグ初代チェアマン 川淵三郎さんのお話(※下記注釈)だ。元検事で さわやか福祉財団会長の堀田力さんに言われた言葉を教えてくださった。川淵さんが、「いくらぐらい寄付をすればいいでしょう?」と堀田さんに聞いたのだそうだ。普通、想定される答えは、「無理のない金額でいいんですよ」である。ところが堀田さんの答えは、「そうですね、ちょっと痛い金額がいいですね」。尊敬する堀田さんから言われたその言葉に感動して、川淵さんは、これまでずっと誕生日にちょっと痛い金額を寄付しているそうだ。ちょっと痛い金額は、人によっても違うし、同じ人でもライフステージによっても変わる。そして、意志と願いを持って寄付する。即ち、自分で決めればいいのだ。私もちょっと痛いな、と思う金額を寄付することで、少しは、“かっこいい大人”に近づけるかな?と期待しつつ、振り込みをした。
「西脇基金を支える会」への寄付も、ちょうどこの時期なので、少しご紹介しよう。
東京都内/都下の児童養護施設などで暮らしたり、経済的に苦しいながらも進学を望んでいる子どもたちに、月3万円(5年前から人数の増加により一人2万円に減額)の学費の援助をしている基金である。当協会が主宰していた「まちかどのフィランソロピスト賞」の受賞者・西脇麻耶さんが、若くして亡くなられたご主人の遺志を活かし、基金を創設なさった。その後、希望者が増え、とても個人では賄えきれないので、支える会というボランティア組織ができ、年々増加する進学希望者の夢を応援している。また、この基金は、西脇さんの、「人間は、どこで花が開くかわからない、従って、進学したいという希望者には選別せず皆に渡したい」という思いを受けているので、希望者は多い。昭和62年に西脇基金を創設し、初年度の応募は3名。その後、少しずつ増え続け、令和2年度は240人、令和3年度は269人を支援している。支える会では、毎年秋にはコンサートなどチャリティイベントを開催して資金を集めているが、昨年と今年は、コロナ禍で中止になった。なかなか厳しい状況である。子どもたちも厳しい。だから今年も寄付集めに奔走している。
「ちょっと痛いな」と思っても、子どもたちの話を聞いたり、彼らのその後の頑張りを見ると、応援しようと思う。「ちょっと痛いので」やめるか、「ちょっと痛いけれど」寄付するかの違いは、やはり寄付先の課題や困難を抱える人のリアルな現実や思いを知ることで生まれることが多いように思う。
人口減少、少子高齢化、コロナ禍、頻発する自然災害、社会の活力の低下で、ますますハンディのある人は振り落とされがちである。そういう人たちの希望を応援する一人ひとりのささやかな寄付も、合わせれば、今こそ持続可能な大きな力になる。「ちょっと痛い」寄付が、「ちょっと嬉しい」つながりになるかもしれない。
川淵三郎さんの「ちょっと痛い金額」のお話は、機関誌『フィランソロピー』2018年12月号 に掲載しています。(全文を公開しています。)