2018.11.26

第5回/20年ぶりの「まひるのほし」上映

ことしも、12月20日に、年に一度の 映画上映会(第351回定例セミナー)を開催することになった。

ちょうど20年前の1998年、日本財団からの助成を受け、知的障がい者の暮らしとアートをテーマにしたドキュメンタリー映画を作った。生産性、効率性から言うと、まったく真逆の人たちだが、魅力的で、おかしくて、そして、時々厄介で、何とも“アートな人たち”だ。昼間も輝いているけれど、明るさにかき消されて見えないだけだという意味を込めて映画のタイトルにした。

製作委員長は、元フジテレビの名プロデユーサーだった 横澤 彪さん(よこざわ・たけし/当協会理事、2011年1月死去)にお願いした。横澤さんは、抹香臭いのではなく、笑える映画にしようと言われた。佐藤真監督の非凡な感性で、笑えるシーンの多い映画になった。

当協会の機関誌の「まひるのほし」特集に寄せてくださった横澤さんのコメントをご紹介しよう。

自分を利口だと思っている人は意外に多いものだ。いや、正確に言えば、利口だと思わなければ生きていけない人が多いのだ。青年だったら、小生意気だが元気があっていい、ぐらいで済むが、年をとってもまだ自分を利口だと思っている人は本当に始末が悪い。世の中をダメにするからだ。逆に、自分を馬鹿だという人は少ないが、屈折した精神の人が多いから、油断すると痛い目に遭う。この映画の主人公たちは、世の中から知恵遅れという烙印を押されているが、決して自分からは利口だとも馬鹿だとも言わない。全エネルギーをアートにぶつけているだけだ。その想像力の奥深さに圧倒される。利巧と馬鹿を超越しているからだ。

生産性や効率性の先の利益だけが目的化しがちな薄っぺらな今日、「まひるのほしたち」の深淵を改めて見つめ、自らのあり様も自問してみたい。彼らや彼らの作品が素晴らしいという単純なものではない、さらに奥深い重いものも、映画が進む中で噴出し、アートって何? 障がい者って何? 生きるって何?という混沌とした思いが、井上陽水の「ハートブレイクホテル」の歌と共に掻き立てられる。そんな映画だ。

利己と利他の狭間で仕事をしていて、横澤さんの言葉をもう一つ思い出した。「21世紀は個性の時代です。自分のためにだけではなく、社会のために個性を発揮するという心構えが大事。」逆説的に物事を見たり、常識を疑ってみる今は亡き師匠の言葉を、日を追うごとにかみしめている。年末のお忙しい時期ではあるが、是非、足を運んでいただきたい。今なお、瑞々しい映画だ。

理事長ブログ一覧